光と影の月兎

綾白

玉響に宿る、永遠——

光の繭から

生まれ落ちた


夜空に満ちる


白い兎


銀砂の肌を纏う

天上の幻


彼女は夜の花嫁


天体の指輪を指に絡め

満ちることだけを使命として


無垢なる光を

そっと地上に降らす



けれど


光には常に裏打ちがある



水面に映る影のように


静かに


人知れず


黒い兎が現れる



彼は曇り硝子の化身

星々の残香を纏い


咎を知りすぎた眼差しで


白の微睡みを


ひとひらずつ口に喰む



——私も光が欲しかった



喉奥に燃ゆるのは


焔か


慕情か



その慟哭は声にもならず


ただ


沈黙のなかに融けてゆく




白い兎はなにも知らない


知らぬまま

光であることを許されている


その柔らかな頬に

黒色で触れてしまえば


自らの影が


たちまち染みついてしまうと


知っているから



ふたつの軌道は交わらない



けれど一瞬だけ

影が光を包むとき



月蝕という名の


叶わぬ口づけが


天に浮かぶ



黒い兎は知っている



その刻こそが


命に最も近い


刹那と久遠の


夢であることを



光を抱きしめられぬまま


光に焦がれて生きる者の祈りを




そしてまた

夜はほどける


玉響の


寄り添いさえも


叶わぬまま


ふたりはただ

時の傾斜にすれ違う



白が天を治め

黒はまた虚へと沈む



誰の記憶にも残らぬまま


名もなく温度もなく


ただ


光の輪郭だけを


瞼の裏に抱いて消える




願いとは


叶わぬゆえに


愛おしい




その日


空はただ


しんしんと




美しく冷えていた




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光と影の月兎 綾白 @aya-shiro

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