第5話 鳩

リュックサックを背負って家を出たわたしは、とりあえず東に向かって歩いていくことにした。


街や自然の中で色んな動物のDNAを採取してパペマルを作ること、パペマルとサバイバル生活をすること、そして至る所にあるパペマルに関する施設を回って経験を積むことがこの旅の目的だ。

年一回開催されるパペバトルのトーナメントと、パペットアドベンチャーレースの優勝を目指して頑張ろう。


家から30分ほど歩いて少し大きめの公園に着いた。

自転車だったら10分くらいで来れるので何度も来たことがある公園。わたしの知らない世界に飛び出すまでは、まだもう少し距離がありそう。


少し疲れたので自販機でジュースを買って涼んでいると、雀を見つけた。

雀のような小鳥はバトルではあまり活躍できないけど、冒険の中では上空を偵察させたり、高いところのものを取らせたりできるので便利。

よし、羽を採取するぞ!と思って近づくと、すぐに逃げてしまった。


「君、初心者パペリストかな?」

低めの声が聞こえて振り返ると、上下黒服のお兄さんがいた。

「あぁ、はい」

「なるほど。それでは僕が採取のやり方を教えてあげよう」

「いや、いいです」

「教えてあげよう」

「いや」

「教えさせてくれ!!」

こっわ。

迫力に圧倒されてつい首を縦に振ってしまった。

お兄さんはわたしの反応をイエスと受け取り、満足そうに笑うと

「あのカラスを捕まえてみせよう」

とゴミ箱を漁るカラスを指差した。


「野生の動物に危害を加えてはいけないのは君も知っているだろう。しかし、直接的なこうげきをしなければパペマルを利用すること自体は可能だ。みてなさい」

お兄さんがアニモデラーが操作すると、

シュピンと音がして地面で緑色のものがムニムニと動き出した。

「うえー、芋虫ですか?わたし虫苦手」

「静かに。さぁもっくん、歩き回りなさい」

お兄さんが芋虫のもっくんに指示すると、芋虫は円をかいて歩き出した。

虫にも犬並みの知能が付与されるとは聞いていたけど、こうして命令を聞く姿を見ると不思議な気分。


もっくんがムニムニと歩くと、カラスは食い入るようにもっくんを見つめ始めた。これってつまり

「餌にするってこと?ひどーい」

「一々うるさいな君は。ほら、カラスが近づいてきたぞ」

カラスまはもう間近。

でもここらかどうやってカラスの一部を採取するの?

と思っていると、お兄さんが大きく息を吸い込んだ。

そして、

「グアーーーーーーッッッ!!!!」

とどでかい声で叫びながらカラスに突進していった。

驚いたカラスはバタバタと飛び去っていき、舞い上がった羽がヒラヒラと地面に落ちた。

「ほら、カラスを傷つけずに羽を採取できただろう」

「えぇぇ、ドン引き」

「いいから君もやってみなさい。あそこに鳩がいるぞ」

右を向くと確かに鳩が三羽いた。

鳩は空を飛ぶことができるし、扱いやすくて初心者向けだと聞いたことがある。


「君もパペマルを使ってみたまえ」

「でもわたし、柴犬と薔薇しか持ってないです。鳩の餌になりそうな動物なんて」

「薔薇があるのかい!?そりゃいい、出しなさい」

どう使うのかわからなかったけど、わたしは言われるがまま薔薇を出した。

「ローズちゃん!」

シュピンッ

ローズちゃんは元からそこにいたかのように公園の地面に根を埋めた状態で現れた。

「その薔薇で、いいかおりを出すんだ」

「なるほど。ローズちゃん、いいかおりをだして!」

すると、たちまち辺りに素敵な薔薇の香りが立ち込めた。

植物も命令を聞くのね、すごい。

そのまま観察してみると、鳩がふらふらと薔薇の近くにより始めた。

「鳩も薔薇の香りが好きなのかしら」

「パペマルになったことで動物を惹きつける効果がついたのかもしれないな」

なるほど。アニモデラーが擬似的に作った匂いだから、そんなこともあるのかもしれない。

「ほら早く、鳩が気を取られている今だ!」

「今って?」

「鳩を驚かすんだ!早く!ほら早く!」

「ちょ、大きい声出さないでください」

「早く早く!」

「こわいこわい」

「早く早く!」

「キィィイイイイイッ!!!」

わたしは奇声を上げながら両手を大きく広げ、鳩に向かって走っていった。

パタパタパタ

驚いた鳩が逃げると、辺りに鳩の羽が落ちた。

「うむ、いい驚かし方だったぞ」

お兄さんはうんうんと頷いているけど、遠くから子供がわたしを指差して笑ってくるし、あちらのマダム達はヒソヒソと小声で話しながらそそくさと逃げていった。羽は手に入れたが大事なものを失った気がする。


気を取り直して羽をパペ瓶へ入れ、アニモデラーに取り込む。


---

パワー  ☆

スピード ☆☆

スタミナ ☆☆


こうげき

・つつく

・とぶ

・とびかかる

---

パワー不足だけどスピードとスタミナはまあまああるようだ。


「鳩の名前はどうするんだい?」

「んー、ポッちゃん」


というわけで、初めての野生の動物採取は精神的にとても過酷な経験となったのだった。

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パペットアニマルズ 猫杉て @nekosugi

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