概要
部屋の隅に幽霊少女が座っていても、俺の日常に大した変化なんてない――。
これはある夏の、俺と幽霊少女の物語だ。それ以上でもそれ以下でもないというか、例えば喉の奥に突き刺さった小骨が抜けたあとにずっと残る違和感のような未練はこの物語とは完全に無縁であり、幽霊少女と出逢わなかった並行世界が存在するとしても俺は今とまったく同じ人生を歩んでいるだろうと思える程度の、ちっぽけな物語でしかない。読者諸氏にこの胡乱な物語から何か教訓めいたものを与えられるとは思わないし、読者諸氏が何かを得た気分になったとしても、それはきっと他のどこかで得たものをこの物語から得たと錯覚しただけに違いないとすら断言できる。ただ、なんと表現しようか、俺たちみたいな種類の人間には、何の価値もない他人の話を聞いて、それを肴に酒でも飲もうかというときがあるはずだし、あってもいいだろうと思うのだ。そんなと