強盗はん
ちゃみ
2009年6月30日火曜日
こういう不特定多数の方々の目に留まる可能性がある場で私の職業を明かすのは本意ではないが、今回の出来事を伝えるには私が図書館で勤務する司書ということを読者諸君に知らせておく必要がある。
あの日は、梅雨だったにも関わらず朝から雲一つない晴天で気温も30度近くまで上がっていた。だから、全身黒ずくめで長袖長ズボンを着ている男が私たちの図書館に入ってきたときにすぐに違和感を感じた。右手には中身の入っていなさそうな黒いシャカシャカとした素材の大きなボストンバッグを持っている。
早歩きで私の座っていたカウンター前にやってきて、黙ったまま上から見下ろすような形で私のことをじっと見ている。次の瞬間、ものすごい速さで左手をズボンのポケットに突っ込み、目と口のところだけ穴が開いている黒い顔マスクを取り出し装着した。あわててつけたせいで口部分の穴がずれて、右半分の唇がマスクの下に隠れてしまっている。
「金をだせ。」そうボソリと呟いたと思ったら、マスクが入っていたのと同じポケットから今度はナイフを取り出した男。
「あほやな、自分。」
「ここ、本ならようさんあるけど金なんか一文もあらへんわ。」
パニックに陥ったのかその男は息を荒げて穴から除く黒目をキョロキョロさせている。
「ふ、ふ、ふざけていると殺すぞ。金があることはし、し、知っているぅ。」
ナイフを私に向けてながら男がこう言うが、今にもナイフが落ちそうなほど手が震えている。
「すっとぼけたことばっか言うてんと、はよ帰った、帰った。」
蚊を追い払うような仕草を私がその男に向かってすると、彼はナイフをもとあったポケットの中にしまい、これまたやはり左手を突っ込みごそごそと何かを取り出そうとしている。
「あんたなぁ、そのポケット何でも出てくるやん。次は猿でも出てくるんちゃうん?ホンマ、どこぞのネコ型ポケットも真っ青やで!」
私がそう言うと男は背を向けて出入口の方へ走って行ってしまった。
ポケットの中には何が入っていたんだろうか。
あとがき
司書として働く私に起きた出来事を読んでくださった皆さん、ありがとうございます。皆さんの中に強盗犯罪を試み不当に大金を手に入れようなどと考えている人はいないと思いますが、間違っても図書館には強盗に行かないように。
私たちは金銭のやり取りをすることが一切ありません、お金は本当に文字通り、一銭もありません。
ただし、勉強に図書館を活用するのはいいかもしれないですね。ちょうど、「絶対に失敗しない強盗の手順~中級編~」、「華麗に強盗したいならまずは歩き方から」、「ルパンから学ぶ!強盗の極意」、など役立ちそうな書籍を取り寄せたばかりですから。なにをするのも自由ですが、貸出期限だけは守ってくださいね。
※この物語はフィクションです。
※作者なりに大阪弁でかいたつもりのセリフはchatgptによりさらに大阪弁(風)に改正されています。大阪弁ネイティブの皆様、不快に感じられたら申し訳ありません。
強盗はん ちゃみ @lunaticriver
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