手術
蜂上 翔
手術
不思議な世界にたどり着くと男は手術をしていた。
その男はいわゆるペスト医師のような格好をしていた。
その医師はメスを取り出し、ベッドで寝ている女に突き立てる。
そして、まるでバターを切るかのように腕を切り始める。次は脚。その次は首。胸。最後は腹。
不思議なことに血は出なかった。
そして切ったところを縫合していく。
始めは腕。次は脚。首。胸。最後は腹。
そして手術を終え、医師はこういった。
「これでオペは完了です。あなたはお金持ちと結婚できるような人に成りました。」
そう言われると女は立ち上がり、奥の扉から出ていく。
「お次の方はあなたですね。どうぞ。」
自分のことだ。私は恐れおののいたが、そのまま前に進む。
「それでは横になってください。」
私はベッドに寝た。何をされるかは分からない。あの女がどうなったか分からない。しかし、言うことを聞かなければもっと良くないことが起こりそうだ。
「それでは手術を始めます。」
医師はメスを取り出した。自分は慌てた。麻酔もしないのか。
「ちょっと待ってください」
私は止めた。
「なんですか。」
「このまま手術をするのですか?私はまだ起きている。痛くてたまらないかもしれない。頼む、麻酔をしてくれ」私は懇願した。
「麻酔をするのですか。」医師は不思議そうな様子だ。マスクで表情が見えないが、なんとなくそんな感じがした。
「ああ、痛いのはごめんだ。第一、手術って何をするんだ?恐怖で寝てしまったが手術を望んだわけではない。」
「望んだわけではないのでしたら何故ここにいるのですか。」医師の言う通りではあるが、私は気がついたらここにいたのだ。
「何故ここにいるのかは分からない。気がついたらここにいたのだ。ここはどういった手術をするところなんだ?」私は医師に聞いた。
「なるほど。そこから説明するべきでしたね。」医師は納得したようだ。
「ここは理想の自分に変えられる場所です。先ほどの女性は金持ちと結婚したいと申したものでしたから金持ちに好かれるようなスタイル、そして手腕、行動力。そのすべてを手術によって身につけさせました。頭脳はそのままでも良さそうでしたので。」
「なるほど。理想の自分に変えられるわけだ」私はこれはいいぞと思い、頼んでみることにした。
「私の人生は散々だったのだ。これからどう生きていいか分からない。だからいっそ死のうと思ったこともある。しかし、金さえあればずっと生きたいと思えるだろう。どうか私に金銭を稼げるような人間に変えてくれないか。金持ちになりたいのだ」私は医師に伝えた。
「承知しました。」医師はそう言うとメスを取り出した。
「ちょっと待ってくれ」私は言った。
「なんですか?」
「やっぱり、麻酔は使わないのか?」
「どうしても使いたいのですか。」医師はやはり不思議そうな様子で私に聞く。
「そもそも使う、使わないじゃなくて、身体にメスを入れるなら使うものじゃないのか?」私は医師に聞く。
「はて…私はそうではないと思いますが」医師はやはり不思議そうな様子だ。
「先ほどの女性には?」私は聞く。
「あの人はもちろん使いませんでした。使うと激痛が走りますから」医師はそう話す。
「?麻酔は痛みを止めるものではないのか?」私は驚く。
「麻酔というものをどうやらあまりご存知ないようですね。」医師はそう話すと、淡々と説明を始める。
「麻酔というものはなぜ効くかわかっていないのです。それをあたかも万能の痛み止めのように使っている医師が多い。私は、そんなものに頼らず、痛みを伴わない手術が出来るようになりました。」医師は続ける。
「将来、どのような作用になるかわからない。そんな物を使うより、己の技術を高めるに限りますからね」医師はそう言うと、メスを取り出す。
「だから、麻酔を使えと言われれば使いますが、何も使わなくても大丈夫というわけです。」
「なるほど、そこまで言うなら麻酔無しでお願いしたい」私はそう言うと、医師は嬉しそうな様子だ。
「では、手術を始めます。あなたが金銭を稼げる人間になれるよう、手を尽くします。」医師は
そう話すと、私にメスを入れた。
始めは腕。次は脚。首。胸。最後は腹。
と思ったが、私には頭にも入れ始めた。
「私は頭が悪いのですか?」私は聞いた。
「いえいえ、そういう訳ではありません。ただ、金銭を稼げるようになるためには必要なことです。」
手術は無事終わった。医師の言った通り痛みはなかった。
「ありがとうございます。しかし、本当に金銭を稼げる人間になったのでしょうか?私はお金持ちになれるのでしょうか?」
「ええ、私の手術が成功していれば、間違いなくなっていますよ。そして、失敗をしたことはありません。」
「そうですか。なら良かった」私は安堵した。
「あそこの扉から出たならば、そこからあなたの金銭を稼げる人生が始まります。行ってらっしゃい」
私は医師の指さす方向にある扉に向かうと、勢いよく開け、その先に進んだ。
それから私は工場で物を生産する仕事をし始めた。私の能力は優れており、人の5倍のスピードで物を作ることができた。社長やその隣にいる令嬢からも褒めてもらうことが出来て、そこの工場で一番の稼ぎ頭になった。
そして私はこう思った。
「これで誰よりも金銭を稼げるようになった。技術を磨けたからだ。しかしどうだろう。生活が大きく変わったとは言えないな。お金があってもいくらでも仕事をしているから使うタイミングがない。」
私は今日も物を作り続ける。
手術 蜂上 翔 @beesho0530
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。手術の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます