第32話 シャルロットの今後

 教会に戻ってきたシャルロットは、すぐに自分の部屋に戻る。そこにはラスティーナが椅子に座って残っていた。


「誰か来た?」

「いえ、誰も。全員中央の方に移動していたようです」

「そっか。取り敢えず、予定通りに進んだ。魔王が現れたけど、討伐部隊が組まれる事はなかったよ。まぁ、魔王が本当なら魔素を断つ聖剣がないといけないからっていう可能性もあるけど、少なくともここの軍の司令は、私を敵対者とは考えていないみたい」

「なるほど。私もフード姿しか見せなかったので、私から繋げる事も厳しいでしょう。目の前でシャルロット様がキティルリア様にならなければ大丈夫だと思います」


 ラスティーナは深々とフードを被っていたので、顔の輪郭は分からない。フードもある程度大きなものにしていたので角の形も逆立っていない事くらいしか予測出来ないだろう。そして、最大の特徴である角を隠せるラスティーナから、シャルロットとキティルリアへと繋げる事はほぼ不可能である。


 ラスティーナがキティルリアの傍に常に控えていたのは、相手が一人ではなく配下を持つ魔王だという事を見せつけるため。相手が一人しかいないとなれば、人間達はキティルリアを侮る可能性があった。

 だが、一人でも配下が傍に居れば、それを側近と考える。側近がいるという事は他にも配下がいるのではないか。それが街を囲んでいるのではないか。そんな風に勝手に考えすぎてしまう。

 これは実際にジョンソンも心の奥で考えていた。だからこそ、キティルリアが去った直後は部隊を割かずに街の救助に注力していた。少数部隊だけでの追跡は逆に損耗させられるだけになるかもしれないからだ。

 その後の捜索に一小隊だけを向かわせた理由は、キティルリアが去ってから街へと魔族が襲撃してこなかったからだ。街が混乱している今が襲撃のチャンスであるのに襲撃してこなかった事から、キティルリアの言っていた和平という言葉が本心なのだと判断し、小隊が殺される事はないと踏んで捜索させたのだ。


「だね。まぁ、キティルリアになるのも大変だから、なるべくなら変身する機会はない方が良いんだけど」

「お身体を取り戻せると良いですね」

「だね……そういえば何も考えてなかったんだけど、私が身体を取り戻した場合、この身体はどうなるんだろう?」


 元の身体を取り戻せば、しっかりと魔王として君臨し魔族を統べる事が出来る。それだけの力を持っている身体だからだ。それが和平の一歩になると考えているので、絶対という訳では無いが身体は欲しいと思っていた。

 ただ身体を取り戻すという事を改めて意識したシャルロットは一つ疑問が生まれた。それはキティルリアの身体で活動をした事で気付いた疑問だった。


「シャルロット様の場合、状況が特殊過ぎますからどうなるかは分かりません。魂が移動するのか。身体を吸収するのか。魔素だけを吸収するのか。魔素と言えば、シャルロット様の魔素が減っているようですが」


 ラスティーナから見て、シャルロットの魔素の量は教会を出た時よりもごっそりと減っていた。治療の現場を見ていないラスティーナはそこを疑問に思っていた。


「ああ、うん。魔素を皮膚とか眼球に変えたからね。再生が厳しそうだから」

「なるほど。では、魔素の補給をしなくてはなりませんね」

「確かに、これからキティルリアになる時を考えると、ある程度は補給しないとかな。魔傷の治療で集められる量は僅かだし、魔物から取るのが一番かな。ラスティがいれば、リーシェルも頷いてくれるでしょ。後は中央大陸に行くための勉強とこっちの大陸にいる魔族達に会いに行くことかな。キティルリアの状態なら会っても大丈夫でしょ?」

「そうですね。キティルリア様であれば問題ありませんが、今の魔族達は好戦的な者が多いです。なので、キティルリア様のお考えを受け入れるかは未知数です。いくつかキティルリア様と同じく平和を願っている集落を紹介しましょう」

「うん。よろしく」


 キティルリアの姿だけを取り戻したシャルロットは、本格的に魔族達を自分の配下とするべく動く事にしていた。自分の他に魔王を名乗る者が出て来た時、シャルロットの陣営にいる魔族が現状ラスティーナしかいないからだ。

 かといって、武闘派を引き込むのは、和平を結ぼうとしているキティルリアでは厳しいものがある。なので、まずは同じ思想を持っている魔族から勧誘していく事になる。

 その前段階として、今回の治療で失った魔素を戻す必要がある。キティルリアとしての身体を取り戻した訳では無いので、身体を構築する魔素が必要になる。その分使用出来る魔素の量が減るという事もあり、出来る限り魔素の量は確保しておきたかった。

 現状外に出る事に許可が出ていないので、シャルロットは魔傷患者から魔素を補給していた。自分で生成出来る量でも時間を掛ければ普通に取り戻せるが、シャルロットとしては元に戻すよりもこれまでよりも多くしておきたいと考えている。

 それはキティルリアの身体で戦闘になった場合に備えるためである。

 既に魔王としての活動が始まってしまった以上、シャルロットも止まる訳にはいかない。


「先にリーシェルとマザーには話しておくかな」

「はい。それが良いかと」


 シャルロットはラスティーナを連れて、リビングに降りる。


「リーシェル、マザー、話があるんだけど」


 リーシェルとマザー・ユキムラは、シャルロットがそう言うのを分かっていたかのようにお茶を用意して、シャルロットから今後の動きに関して聞いていった。


「分かったわ。存分にやりなさい。後悔のしないように」


 マザー・ユキムラは即答でそう返事をした。マザー・ユキムラの答えは最初から決まっていた。シャルロットがしたいと思う事をしてもらう。それがキティルリアとしてでも一切変わらない。マザー・ユキムラからすれば、キティルリアもシャルロットであるからだ。


「まぁ、魔王として活動するなら、色々と必要になるわよね。あまり無茶はしちゃ駄目よ。ただでさえ、シャルは無茶ばかりするから」


 リーシェルも渋々頷いた。リーシェルからすれば、元魔王だろうか何だろうかシャルロットは妹である。なので、姉としての心配は常にしている。だからこそ、十歳のシャルロットを外に出す事に対しても心配してしまう。

 だが、シャルロットが魔王としての活動を始めた以上、もう止める事は出来ない。それはシャルロットの夢の阻害にしかならない。そして、ここでのロスが、後々の和平への道を閉ざす事になるかもしれない。

 ここからはシャルロットの背を押し、心に釘を打ち込む事しか出来ない。打ち込む釘は、自分を大切にすること。危険を承知で突っ込まないといけない時が来るかもしれない。だが、そこで自分はどうなっても良い等と考えさせないようにする。シャルロットが傷付けば悲しむ人間がいるという事を知らせる事が重要なのだった。


「ありがとう、マザー、リーシェル。私、頑張るね」


 こうしてシャルロットの革命の準備が進んでいく。魔族と人間の共存。そして、その平和を維持するための革命。そのために必要なものは、まだまだ足りない。それを掴み取り未来へと繋げる。そのために利用出来るものは利用する。例えそれが自分にとって嫌悪感の塊であっても。

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転生魔王の復讐革命 月輪林檎 @tukinowa3208

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