変態口悪お姉さん、及び、入り浸りクソガキの日常

春風細工

第1話 変態口悪お姉さん、及び、入り浸りクソガキの日常

「煙の形が……チ〇ポに見えるな……」

「お姉さん的にはディル〇の方が親しみがあるね」

「上回ってくるなこんな話で」

「始めたのはお姉さんでしょ?」


 灰皿にタバコを押し付けて、今日も悪びれもせず遊びに来ているガキの方を睨みつける。

 いつからだ。半年前か? このガキ、たまにゴミ捨て場で会うだけだったのに、気付いたら遊びに来るようになってやがる。菓子まで持ってきやがって。


 しかも自前のゲームするだけじゃねえか。ちょっとやらせろよとか言っても、触らせすらしねえし。


 何しに来てんだよこいつ。帰らせようと変態発言しても、乗っかってくるばかりか上回ってくるし。親の顔が見てみたいもんだぜ。結構見てたな。美人だった。

 

「元はと言えばおまえがここに居座るからだろうが」

「大人の力で帰らせてみたらどうだい?」

「アタシがそんなダサいことするかよ」

「じゃあ僕は出て行かない」


 クソガキが。親御さんとこに電話して回収させてやろうかマジで。アタシはやるっつったらやるぞ。

 ……いやダメだ。結構厳しい家みたいだからな。こんな家に入り浸ってたって分かったら、こいつが家で何されるか分かったもんじゃねえ。


 アタシだってそこまで鬼じゃねえからな……まあいるから害がある訳でもなし。黙っててやるか。


「お、これ結構抜ける絵柄だな」

「見せて」

「ガキにはまだ早ェよ」


 中坊だろ、確か。

 アタシの写真フォルダはまだお預けだな。


「……ゲームさせてあげるから」

「ガキのゲームにゃ興味ないね」

「むう……」


 いい気分だ。たまにこういう時間がある。

 いっつもガキにいいようにされてるが、たまーにアタシが優位に立てる。実にいい気分だ、まったく。


「ガキ。そろそろ帰らねえのか?」

「今日はもうちょっと。遅いんだ、二人とも」

「共働きだっけか」

「うん。家には……あんまりいない」


 ガキを横目に次のタバコに火を点ける。

 家庭の話はしない方がいいな。最近は、天下の東京サマでも、ガキに構えねえ親ってのが増えてやがる。

 良くないねえまったく。世の中には、親に構ってもらってもヤニカスになる娘もいるってのに。ついでにパチカスだし洗濯も週1だし無職だし……


 まあ、それはいい。いいんだ、もう。うん。


「日が沈むまでには帰れよ」

「うん」


 次の日。


 いつも通りの時間にベルが鳴った。ここで追い返せばいいんだろうが、アタシはどうもそこで弱い。


 押しに弱いってんのかな。宗教勧誘も断れねえし。煙出しながらダルそうに、低い声で出迎えるのが、アタシにできる最大限の抵抗なのであった……


「……おい。どうしたんだ、それ」


 ガキはいつもと違って俯いていた。

 手には紙切れ持って、目も合わせようとしない。達筆だなこのガキ……なんだ、【謝罪】?


「昨日……二人とも、早く帰ってて」


 隠すように握ってる二の腕。僅かに覗く青紫。


「隠せなくて。言っちゃって。も、もう……ここに行っちゃいけないって……だから、謝りに、来ました」


 こんなに弱ってるガキ、見たことない。


 ていうかなんだ、そりゃ。こいつが今後アタシの家に来ることはないってことか? ゲームやらせろとかエロ画像見せろとか、そんな話が。

 もうできなくなるってことか? こんな、急に?


「おい……おいおい。謝ることなんてないぜ。嫌だったら家入れてねえし。これからも来いよ、全然」

「違う。お父さんたちが、ダメだって」


 嘘吐いても引き止められねえ。


 待てよ待ってくれ。そんなのダメだ。追い返そうとしてたのも、それはおまえ……照れ隠しって言うか。そういうのじゃねえか。本心じゃねえ。


 ああいやそれは関係ねえのか。確かに親御さんからしたら、こんな女の家にいさせたくねえだろうが。

 社会勉強っつーかな? うん。大事だと思う。ガキが親御さんに、そっち方面でアプローチ、を……


「泣くなよ……おい。泣くほど嫌かよ」

「嫌じゃない。お父さんの言うことは正しいもん」

「じゃあ……泣くなよ」

「泣いてない! ちょっと……暑いから、今日は」


 20℃だぜクソガキ。


 揺れてるんだ、こいつの中で。親父の命令を聞かなきゃいけねえ心と、逆らいたい心の狭間で。

 アタシが導いてやらねえと。アタシが……こいつが苦しまなくて済む方向に。ガキが、他所の女のとこに入り浸るもんじゃねえ……どう考えても正しいのは親御


『うるせんだよババア! もう知らねえ!』


 ……ああ。アタシも荒れてたな、あん時は。


 正しさとかどうでも良かった。将来とかどうでも良かった。今、やりたいことをしていたかった。

 それが自分の中で完結しようとも、他者に依存していても。親じゃなくてもいい……先公でも誰でも、アタシの自由を、誰かに認めて欲しかった。


 叶わなかったからこうなってるんだが……アタシはどこかで、このガキは自分とは違うと思ってたのか。


 利口だから。正しい道に進むべきだって。同じガキであることに変わりはねえし、今苦しんでることに変わりはねえのに。勝手にそう思い込んで、押し付けて。

 アタシはあんなに苦しんでた。誰でもいいからってもがいてた。このガキに……そんな思いさせていいのか?


 マセたガキだよ。ムカつくばかりだ。でも変なとこで子供っぽいし、アタシにも対等に接してくれる。


 楽しい時間をもらってた。なら、返さなきゃな。


「……ガキ。家に案内しな」

「え?」

「アタシが説得してやるってんだよ」


 持ってる中で一番綺麗な服を着て、ガキの家の前に立つ。金持ちって感じの家だな……吐き気してきたぜ。


 インターホンもカメラ付きだ。買ってみたかったなこういうの。半分現実逃避しながら押すと、なんだか異常に重い気がして、ちょっと、怖くなってきた。


 いや、おい。ビビってる場合かよ。ガキが見てるんだぞ。助けるって決めたろ。ビビんなよ。


「……はい。どなたでしょう」

「あ、どうも。お子さんに世話になってます」


 なんだその日本語。


「あなたですか、ウチの子を誑かしてるのは。あのですねえ、あなたみたいな人がいると人格形成に」

「へえ、へえ、へへ。いやまったくその通りで」


 グチグチ言ってくる親御さん(母)に、ペコペコ頭を下げて笑みを作る。唯一の得意芸だぜちくしょう。


 ガキが不安げな顔でアタシを見てる。見んなよそんな目で、アタシまで不安になっちまうだろうが。

 ヤニ吸いてえな。乾いてきた。今日の晩飯はなんにしよう。たまには外食もしてみてえよな。あーいい天気だムカついてきた。たまには馬でも買って


「どうせそのダラしない乳で誘惑したんでしょ!?」


 キメ〜こいつ。ヒートアップしてても言って良いこと悪いことあんだろ。ガキの前で言うなそんなこと。

 いや人のこと言えねえけど。アタシもよく言ってるんだけど。そこはほら、親かそうじゃないかの違いが


「忌まわしい……! ウチの子の時間を返してくださるかしら!? 勉強もせず遊んでたなんて……あなたみたいな人と関わるのが、人生で一番無駄なのよ!」


 ……あ、ダメだこれ。


 何かが、切れた。


「あー……失礼ですがガキのお母さん」

「ガキ……は?」

「あの青あざ、どうやったらできたんで?」


 アタシがガキの二の腕を指さしながら聞くと、ああ、と親御さん(母)は薄ら笑いしながら言った。


「あんまり言うことを聞かないから、少し強めに躾ましたの。あなたになんの関係がありまして?」

「少なくともですね、アタシはそんなことしない」


 アタシはこいつの家庭環境をよく知らない。

 最近の家は皆こうなのかもしれない。殴らねえと分からねえガキがいるってのは知ってるが。


 でもこいつは違う。違うんだ。


「しょーもないことしてますよ。こいつはただ入り浸ってるだけ。でもそれが本当に楽しそうなんです。こいつの心の底からの笑い声、聞いたことあるのアンタ」

「なっ……! 私は親です! 当たり前でしょう!」

「じゃあ思い浮かべてみてくださいよ。どう笑う? 声は顔は手の動きは。一つ一つ思い浮かべてみてくださいよ!」


 アタシは全部分かってる。

 笑う時、少しだけ声が高い。脇腹を撫でるようにして転げて、困ったみてえに眉をひそめて笑うんだ。


 楽しそうだなって思ってた。あの頃のアタシみたいだって思ってた。仲間とつるんで親泣かせて、それでもしたいことしてるアタシみたいだなって思ってた。


 そうだ。


 守らねえといけねえって思ってたんだよ。


「アタシは……こいつに救われてる。こいつがいる時だけ、薄汚れた部屋が、少しだけ綺麗に見える」


 手離したくない。一緒にいたい。

 恋愛感情じゃねえ。ガキにそんなん抱くものかよ。ただ咲いてくれてるだけで、それだけでいい……


 それだけでアタシは救われたんだ。


「青あざ作るクソ親が、いっちょ前に親語ってんじゃねえ! ガキの全部を笑って許してやれ。やりてえことに背中を押してやれ。それが親じゃねえのかよ」

「あなたみたいな不審者と一緒にいさせることを、どこの親が許すと言うのですか!」

「このクソガキのツラァ、しっかり見てみろ!」


 不安げなガキの顔を見せつける。


 大人二人が喧嘩してんだ、そりゃ不安だろうな。でもこいつが見てんのは親じゃねえ……アタシだ。


 アタシなんだよ。なんでアタシを見てるんだ。

 親を見るべきじゃねえのか。どんなに仲悪くても、最後に頼るのは親じゃねえといけねえだろ。なんでこのガキは……アタシみてえなクズを頼ってんだ。


 親のくせに……ガキ1人の心の聖域にもなれねえくせに!


「テメエは親ァ、ちゃんとやれてんのかよ!?」


 謝罪文なんて書かせて……この親は!


「親やれてねえのに、ガキ語ってんじゃねえ!」


 ……それからはまあ、色々あって。


 週1とか、ゲームは持ってかないとか、色々決められたらしいが、ガキがアタシの家に来ることはギリギリ認められたらしい。これ以上あの不審者を刺激するべきではない、とか何とか言ってたらしいが……


 マジに思ってんなら、親失格どころの話じゃねえな。アタシが親代わりになるか……なんつって。


「おおガキ、来たか。まあ上がれや」


 ガキは今日も笑いながら、アタシの家の畳を踏んだ。


「今日はね、面白い話があるんだよ」

「へえそうかい。ゆっくり聞かせてくれ……」


 タバコに火を点けて、少しだけ笑う。


「時間は、まだまだあるんだからな」

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