夢に揺られて

黒蜜きな子

夢に揺られて

気がつくと私は、どこへゆくかも知らない電車に揺られていた。

ここは何処なのか、どこでこの電車に乗ったのか、目的地はどこなのか──。

それはどうにも思い出すことができない。

ぼんやりと窓の外を眺めてみると、そこには見たこともない風景が広がっていた。

雲ひとつない澄んだ空に、煉瓦造りの建物が映える。そのそばには、青々とした森や大きな川もあって、ここが明らかに私の生まれ育った地でないことは一目で分かった。

隣を見てみると、そこには金髪の青年が。年は自分と同い年ぐらいなのだろうか。けれどどこか大人びた顔をしていた。

私が見ていたことに気づいたのか、彼はこちらを見て何かを話した。聞いたこともない異国の言葉だった。けれど、どこか切なくて、温かい響きの言葉だった。

彼はすぐにはっとした顔になり、ほんの少し顔を赤らめた後で再び口を開いた。今度は、英語で。

“I'm sorry... it's just a habit.”(ごめんなさい…癖でつい…)

私は彼の気遣いに嬉しくなって……けれど少し名残惜しくなって、こう返した。

"Please... say it again. In your language."(どうか……もう一度お願いします。あの言葉で)

彼は少しの間驚いたように目を丸くして、ちょっぴり笑いながら再びあの言葉で話し始めた。

電車は緩やかな風を受けながら、ゆっくりと川にかかる橋を渡ってゆくのだった。

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夢に揺られて 黒蜜きな子 @kuromitsu07

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