第24話 3Pデートなのはわかってるから

 赤羽くんに『転送の宝珠』で二十八層へ強制転移させられた俺たちは、なんとか階層守護者を倒して帰還した。

 帰った時には夜が明けていたのだが、休日だったため授業を遅刻することはない

 そのため、位階上昇を経た二人の衝動を晴らすべく気が済むまで身体を重ね――いつの間にか爆睡していた俺が目覚めた頃にはさらに一日経った朝。


 気のせいでなければ軽く半日以上行為に及んでいた気がする。

 ダンジョン帰り……しかも二人より格上の二十八層を踏破した後でこれとは、流石に自分に呆れてしまう。

 体力はともかく、そんな長時間していたら性欲の方が尽きそうだが、そこは二人が魅力的過ぎるのが悪いということで。


 そんなわけで帰還後二日目の朝を迎えた俺たちはメイドさんに頼み、久しぶりに思える食事を堪能していた。

 約一日まともに食べていなかったからな。

 人間、生きていれば腹は減る。

 ヤっている間は完全に意識がそっちに偏っていたのだろう。


「旦那様の性欲は天井知らずね。寝かせないつもりだったのに、二人がかりでも勝てなかったし」

「やっぱり淵神さんは性欲魔人としか思えません。……位階上昇の衝動があってもああなるなんて」

「また変な呼び名が増えたな。認めようとは思うんだが……嫌なら断ればよかったんじゃないか、と思うのは無粋なんだろう?」

「旦那様もデリカシーがわかってきたじゃない。まあ、あたしは全然嫌じゃないけれどね。むしろウェルカムよ。シュナもそうでしょ?」


 本格窯焼きピザを摘まみつつ來華がシュナリアへ尋ねると、とても気まずそうに目を逸らした。

 頬がほのかに赤いのは照れているからか。

 肌が白いせいでわかりやすい。


「……來華さんは明け透けすぎます」

「事実を事実というのは何も悪くないわ」

「私には恥じらいというものがあるんです。……ですから、その。淵神さん」

「なんだ?」

「……嫌なら、していませんから。どうかお気になさらず、そのままでいていただければ。今回誘ったのは私たちでしたし」

「なるほど、了解した」

「シュナも素直に言えばいいのにね。でもま、そういうところも可愛いけど」

「ひゃっ!? ちょっ、脇腹を突っつかないでくださいっ!」


 うりうり、と楽しそうにシュナリアの脇腹を指でつつく來華。

 シュナリアが悲鳴混じりに叫ぶも、本気で嫌がっている様子はない。

 仲良し二人がじゃれ合っているだけだ。


「はあ……あたし、シュナが羨ましいわ。全体的に細いけど身長があるから綺麗に見えるし……なによりおっぱいが大きい。あたしは薄めのちんちくりんなのに。昨日もこの膨らみで旦那様を誑かしてたし」


 來華の妖しい眼差しがシュナリアを射貫く。

 二人の体型を比べた時、來華は少女でシュナリアは女性的な方向性になると思う。

 でも、それで魅力が偏るかと聞かれれば決してそうではなく、双方にそれぞれの良さがあると俺は主張しておきたい。


 系統が違う人間を同じ評価軸では語れないからな。

 戦士と魔術師で評価される部分が違うように。


「あのですね……私は淵神さんを誑かしたりしてませんからね?」

「巨乳には無意識に目が向くものよ。ねえ、旦那様?」

「否定はすまい」

「ほら。てことでちょっとご挨拶させなさいっ!」


 席を立った來華が素早くシュナリアの背後へ周り、わきわきと指を動かし――シュナリアの胸を後ろから掴んだ。


「な……っ、んっ! 來華さんっ、急に揉まないでくださいっ!」

「いいじゃない、減るものじゃないんだし。というかあたしも旦那様も昨日散々揉んでたわよね。恥じらうのは今更でしょ?」

「それとこれとは状況が……っ!」

「シュナは雰囲気がないと乗れないタイプなのね。だったら仕方ないわ」

「仕方ないなら胸から手を放してくれませんか!?」

「だって柔らかくて揉み心地最高なんだもの」


 心の底から楽しそうに笑う來華と、何かを堪えるように喉を鳴らし、目を瞑って身を捩るシュナリア。

 肌は一つも見えていないのに、どうしてこうも煽情的に映るのか。


 そんな攻防を数十秒に渡って繰り広げた後、「もう本気で怒りますからねっ!」と声を上げたシュナリアに負ける形で來華が胸から手を放す。


「……來華さん、突然はやめてください。あと、人前でも」

「つまり人前じゃないときに断りを入れればいいってこと?」

「そういうことでは……いえ、もういいです。諦めました」

「賢明ね。てことで揉んでいい?」

「ダメです」


 きっぱりと断るシュナリアに、大して残念そうではない來華が肩を竦めた。

 しかし、まだじゃれ合いが足りないのか、シュナリアに後ろから抱き着いている。

 胸を揉まれないのなら構わないとシュナリアも判断したのか仕方なさそうにため息をつくだけで、無理に引き離そうとはしない。


「こうしていると仲のいい姉妹みたいだな」

「ふふっ、そうでしょ。シュナお姉ちゃんもそう思う?」

「……來華さんが妹だと色々苦労しそうです」

「失礼しちゃうわ。てことは旦那様は兄? お兄様?」

「近親相姦はまずいだろう」

「それもそうね」

「……淵神さんはどうしてそういうところばかり真面目なんですか」


 呆れられている気がするが、俺は常識的な意見を述べたまでだぞ。

 俺は真面目かつ常識的に生きると決めているんだ。


「ところで話は全く変わるけれど、もしかしてあたしたちって卒業までダンジョンに行かなくてもいいんじゃないかしら」


 ふむ、それはまた興味深い話が出たな。

 シュナリアも顎に手を当て考える素振りを見せていた。


「……どうなんでしょう。『転送の宝珠』の強制転移が原因とはいえ、私たちは二十八層を踏破しました。転移門の有効化もされていますから、直接転移も出来るでしょう。ただ、学園側が二十八階層まで・・を踏破したものとみなすかは怪しいですね」

「來華はダンジョンに潜りたくないのか?」

「単に気になっただけよ。それに、卒業までダンジョンに潜らなくていいって言われても暇じゃない? 毎日爛れた生活も旦那様との愛を深められて悪くないけれど、それだけじゃあ満たされないものもあると思うの」

「私としては引き続きダンジョンを攻略する、でいいのかと思います。文句を言われないように正規の基準を満たしておくのは大切かと」

「そうだな。だったら今日は……ああ、ダンジョン内での着替えを買いに行きたいと言っていたか。ポーションや食料の類いも補充したい」

「そうと決まれば支度をするわよ。ふふっ、旦那様と買い物デートね」

「私もいるのを忘れられては困ります」

「拗ねないで。3Pデートなのはわかってるから」

「……言い方はもう少しどうにかならなかったのですか?」

「わかりやすいし……買い物中にそうなるかもしれないでしょ?」


 俺はそんなに節操のない人間だと思われているらしい。

 流石に買い物中は自制するはずだ。

 ……屋外での行為に興味がないと言えば嘘になるが、それはお互い様だろう。

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