第7話 し、嫉妬じゃねえし!

 ――キーンコーンカーンコーン……

 四限を終わらせるチャイムが教室に響く。


(ふうー、午前の授業終わったー。今日も瀬名川さんと話すぞ。)


 僕、前北琢己まえきた たくみは冴えない人生の中で運命の人に出逢ってしまった。

 そう、後ろの席の瀬名川帆乃せながわ ほのだ。


 席が彼女の前になり、友達一号の認定を受けた僕。彼女のことをもっと知るべく、一日一回彼女とお話しすることを自分に課すことにしたのだ。


 え?そんなの簡単?馬鹿言いなさんな、中学時代は友達ゼロの“ボッチマン”(影で呼ばれていたあだ名)だぞ、僕は。人生を諦観し、無気力だったボッチマン。

 そんな僕が必死になる理由、それは……。


「あはは!それ、すごぉい!」

向日葵も驚くほどの眩い笑顔、底抜けに明るくてお人よしな性格。


 いや、繕わずに言おう。彼女の美貌に惹かれたんだ。自分には明らかに不釣り合いな、整いすぎた御尊顔。なんてったって、あのふと眉が可愛らしいんだよな……ん、んンっ。決して僕はむっつりなどではない!決して!

 とにかく、彼女の美貌以外の魅力を知りたいんだ。僕のちっぽけな青春を賭けて。


(あれ、瀬名川さん、席にいないな。どこにいるんだろ)


「えー?信じられないな~」

 ん、廊下からなんか聞こえるな。そっと行ってみるか。

 とある漫画から会得した、足音を消す術をこなしつつ廊下へ向かうと、


「だからー、そうだって言ってんじゃん!ほのちゃんも一緒にどう?」

 瀬名川さん、知らない人に絡まれてるな。誰だろう?


「んー、私興味あるけど、最近忙しいからまた今度ね!」

 お?デートの誘いか?――あ、死んだ。僕の目の前で屍が散っていった……二の舞にならぬようにせねば。


「あれ、前北くん?いたの?」

 げっ、見つかった、まだ今日の話題思いついてないのに。


「い、いやあ、トイレに行こうとしたら、偶然、ね?……あれ、さっきの男子からデートに誘われたの?」


「うーん、いまいちわかんないの、他クラスの知らない男子からUFO見に行かないかーって」


「え?知らない男子!?UFO?!」

 衝撃が脳天を駆け抜ける。知らない奴から誘われるとかモテ過ぎじゃん。それより、デートの口実にUFOって小学生か!若しくはシンプルにヤバいやつじゃん。よかった、へんな奴について行かなくて。


「なんか前北くん、お父さんみたいな顔してる」

 小さな手を口許にやり、いたずらっ子みたいに笑う。下された髪が凪いで、流麗なそれが一層引き立っていた。黒髪ロング、万歳。


「ってか、あだ名、ほのちゃんって呼ばれてるんだ」


「そうだよ!高校になってから呼ばれるようになったの。あれれ、さっきの嫉妬したー?」

 冗談を言いながら、笑窪を浮かせてクスクス笑った。少しわるーい顔で上目遣いをしてきた。


「ベッ、別に嫉妬とかじゃねえし!親しい仲なのかなって思っただけ!」


「ふーーん、でも、前北くんほど仲のいい男子、いないよ~」


「またまたー、そんなわけないよー」


「ほんとだって!あ、帆乃ちゃんって呼んでもいいよ?」


「呼ぶかいっっ」

 恥ずか死するわ!


 プッと笑いだした彼女につられて、僕も思わず笑みがこぼれる。

 こんな気さくに女子と話せるんだ、僕って。もっと、瀬名川さんと話したいな。


「あれっ、前北くん、お手洗いは大丈夫?」


「あっ」

 誤魔化しの言い訳を指摘され、急いでトイレに駆け込んだ。

 が、今思えば、ずっとトイレを我慢していたと思われたのではないかと、かなり恥ずかしくなっているのであった。

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後ろの席の瀬名川さん 蒼星絵夏 @Aohoshi-414731

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