第6話 君は友達?好敵手?

 四月も半ばとなり、仲良しグループも大体固定化しつつあった。

 まあ、僕は文庫本と友達だし、群れたがる奴なんてくだらないし。


 相も変わらず、授業が終わり一人で読書タイムを勤しんでいると、左隣からヌッと忍び寄る細黒い影が。


「よっす、前北まえきた小説好きなの?俺も好きなんだよねー」

 な、馴れ馴れしいな、こいつ。ナスビみたく面長で、ゴボウのようにヒョロガリ体型。いかにも本好きそうだな(失礼)。キリッとした目鼻立ちなのが、なんか癪に障る。


「おい、席隣なんだから名前ぐらい覚えろよな。荒波伸治あらなみ しんじ、ね」


「ああ、自己紹介でカバオ君の物まねして滑り散らかした人か」


「思い出させるなよ、トラウマを」

 少しムスッとした表情ながらも、口角をあげて親しげに体を傾けてくる。


「で、なんの本読んでるの」


 僕は本をおもむろに開け、表紙の題を指さした。


「『放課後』っていう本。東野圭吾さんの作品なんだけど、好きで結構読むんだよね」


 荒波君は傾けた体を反り返らせ、両の手を僕の机に乗せてきた。

「え、じゃあ、お前も推理小説好きなの?俺、自称推理マニアなんだけど、めっちゃ気合うかも!」


 すっげーテンション上がってんじゃん。僕も、ちょっとは嬉しくはあるけど。


「荒波君に負けないくらい、僕も推理小説好きで数えきれないくらい読んでるよ。最近は、海外ミステリにもはまってるんだよね」

 少し得意げに、このコミュ力お化けイケメン(細)に歯向かってみる。


「おぉー!アガサとかカーとかいいよな。でも、カタカナで長い名前の登場人物多くって全然覚えらんないし、人間関係把握すんのむずいんだよ」


「わかる!!途中で読むのやめたら意味わかんなくなってるよね」

 海外ミステリあるあるに、思わず高揚し声が大きくなってしまう。すると、


「ねえー、なんの話してるのー。なんか楽しそうだなあ」

 後方から、女神のお声が。幻聴かな。


「おう、前北まえきたと趣味ドン被りして盛り上がってた」

 幻聴ちゃうんかい(嬉)。


「いやぁ、俺仲良かったメンツとバラバラのクラスになっちまったから、友達できてよかったわー!」

 ええ、そんなん急に言われたら、照れてまうやん。思いがけず友達出来ちゃったよ。


「ふーん。でも、私が前北君の友達一号だもんねー!」

 瀬名川さんはそう言うと仲良しグループの方へ、ピュッーっと駆けていった。なんか頬がぷくぅっとしてたような気がするけど、見間違いかな、勘違いかな。


「なあ、瀬名川さん、可愛いよな」

 ボソッとナス男が囁きかけてきた。


「なッッ!?ま、まあ、顔も整ってるし、スタイルもいいしね」

 不覚。コイツ、敵。目標確認、狙撃準備完了。拳、グッ。


「でも俺には高嶺の花に過ぎるっていうか。瀬名川さん、天然そうだしちょっと、タイプとは違うかなー」

 矛を収めよ。奴は善き友達のようだ。


「チャンスがあれば、全然狙っちゃうけどね」

 艦長っ、狙撃準備完了してます!早急に御命令下さいっ!


 ――キーンコーンカーンコーン

「ゲッ、次数学じゃん、だる。また推理小説談しような」

(チッ、命拾いしたな)



 *

 はあ。今日も疲れた。でも、高校で初めて友達出来たなぁ、と思ったけど瀬名川さんが友達一号じゃん......え?いつの間に友達認定?しかも、一号だって~。

 にまにましながら帰り道、フッと頭によぎったライバル(?)の出現を恨み、石を思いっきり蹴飛ばした。

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