エピローグ

 むかしむかし。


 この国には、とても賢い王様と、心優しいお妃様がいました。2人の間に生まれた王子は、それはそれは美しく、賢く、優しい子供でした。

 民も皆、そんな王様たちが大好きで、国は喜びと幸せに包まれていました。


 けれども、突然の流行病が国に襲いかかりました。咳が止まらなくなり、血を吐いて死んでしまう、恐ろしい病気でした。

 民が病に苦しめられる姿に心を痛めた王様は、薬を探しに出掛けます。

 大空が広がる大草原、荒れ狂う波が立つ大海原、切り立った崖の縁、濁流が襲いかかる大河川。

 あちこちを探して回りましたが、どれだけ手を尽くしても薬は見つかりません。

 そして、ついに、病の魔の手が、お妃様と王子様にも伸びてしまったのです。


 最早、一刻の猶予もありませんでした。

 王様は決意を固めると、対価と引き換えに、たった一度だけ何でも願いを叶えてくれるという魔女の元へと向かいます。


 暗く深い森の中。


 昼間でも、太陽の光の一片すら届かない場所に、魔女は住んでいました。

 王様が皆を苦しめる病を鎮めてくれと懇願すると、魔女はあるものを望みました。それは、世界で一つしか無い、失われたら二度と戻らないもの。


 王様の「命」でした。


 ダイヤモンドやルビー、サファイアが嵌めこまれた豪華な王冠でもなく、きらきら輝く重たい金貨でもありません。

 王様は魔女の要望に息を呑みましたが、すぐに頷きました。賢いだけでなく、勇敢だった王様は、民と自分の愛する妻と子供のためにその命を差し出したのです!


 こうして、王様の命と引き換えに、病はすっかり消えてなくなりました。

 民は王様の勇気と決意に感謝すると同時に、その尊い命を失ったことに、たくさん、たくさん涙を流しました。

 そして、お妃様と王子様も、すっかり元気になり、王様がいなくなってしまった分、二人で手を取り合って、国を導こうと、助けられた命に誓ったのでした。


 けれども、幸せは長くは続きません。

 王様がいなくなったので、大臣がその地位を奪おうと、隠していた悪どい本性を露わにしたのです。

 お妃様は殺され、王子様はお城から追放されて、奴隷にされてしまいました。

 邪魔者がいなくなったお城で、大臣は好き勝手に振る舞います。

 自分が王様に成り代わり、毎日ご馳走ばかり食べて、たくさんのお金をかき集め、無茶な命令をし、人々を苦しめたのです。


 やがて、月日が経ち、王子様は子供から大人になりました。

 なんとか、こき使っていた主人の元から逃げ出した王子様は、対価と引き換えに、たった一度だけ何でも願いを叶えてくれるという魔女の元へ向かいます。

 悪い大臣に酷い仕返しをしてやろうと思ったのです。


 お腹がぺこぺこのまま、王子様は森へ向かいました。

 その途中で、人々が悪い大臣に苦しめられている様子をたくさん目にしました。

 悲しみに暮れて、日々を過ごす人たちに王子様は心を痛めたものです。

 けれども、そんな中でも、人々は優しさを忘れません。

 お腹を空かせた可哀想な王子様にパンを一切れ分けてくれる人もいました。


 暗く深い森の中。

 やっとの思いで、昼間でも、太陽の光の一片すら届かない魔女の住処に辿り着きました。

 王子様は願い事を告げます。

 苦しんでいる人々を、助けてください、と。

 てっきり、大臣への仕返しを願うだろうと思っていた魔女は随分と驚きました。

 自分の一番の願い事を捨ててでも、人々を助けようとする王子様に心打たれたのです。

 そこで、魔女は対価に何の変哲もないものを選びました。


 王子様の「髪の毛」です。


 煤けてぼさぼさになってしまった髪が、本当は金色に光り輝く美しい髪だと魔女は知っていました。

 それに、病を消し去るよりも、なんて事のない魔法だったので、伸びきった王子様の髪を一房もらうだけで十分だったのです。

 王子様は対価と引き換えに、大臣を追い出すためのおまじないを掛けてもらいました。

 賢く、優しく、勇敢な王子様は早速お城に戻ると、王様に成り代わっていた大臣に虐められていた人たちを味方につけます。そして、みんなで協力して、大臣の罪をどんどん暴いていったのです。

 悪いことをしていた大臣は、お城の人からも、民からも責められて、恐ろしくなってしまったのか、すぐさま逃げ出しました。

 王様に成り代わっていた悪者は、ついに、遠いところへ追放されたのです。

 果たして、王子様は人々を救うことも、大臣へ仕返しをすることも出来たのでした。


 こうして、優しく賢い王子様が戻って来たことを、民はとても喜び、この国は末永く幸せに溢れた国になりましたとさ。


 めでたしめでたし。

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チヨとルーノと暗がり森の魔女 りきやん @way_rikiyan

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