夜の音を拾う少年
sui
夜の音を拾う少年
夜が咲くたび、彼は目を覚ます。
他の誰もが眠る中、夜の音だけを拾って歩く少年だった。
理由はわからない。
夜の花が咲くと、世界が眠る。
けれど少年はその花の「音」だけ聞こえてしまう。
夜は静寂ではなかった。
それは遠い歌のようであり、時に誰かの囁きだった。
ある晩、少年は夜の花の中心で小さな音を見つけた。
それは、まだ誰にも拾われていない音。
「誰かの涙」だった。
その音を拾った瞬間、少年の手の中でそれは光に変わった。
夜の中で、光が生まれた。
世界にとって、それは異常なことだった。
夜は闇だから。
けれど少年は、光を手放さなかった。
なぜなら、その光は「誰かが忘れてしまった悲しみ」だったから。
少年はそれを誰かに返したかった。
けれど、この世界で目覚めているのは自分だけ。
だから彼は夜ごと歩き続けることを選んだ。
いつか光の持ち主に会うために。
あるいは、夜そのものが自分を見つけてくれると信じて。
気づかないうちに、少年の背中には夜の種がひとつ芽生えていた。
彼はまだ知らない。
自分自身が、次の夜を咲かせる者になりつつあることを。
けれどそれは、前の夜とは違う。
今度の夜は、光を孕んだ夜になるだろう。
なぜなら彼は、音の中に希望を聞いたから。
そして誰も知らない。
彼の歩むその先で、かつて夜を蒔いた庭師が
静かに次の種を託そうとしていることを。
夜の音を拾う少年 sui @uni003
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