クレーマー
制服はかわいらしさとは無縁であるものの、清潔感に溢れ、しかもプロが調理用に着る白衣の意匠が盛り込まれており、着用すると自分までプロになったかのような……そういった意識を抱ける。
店内オペレーションは、この頃流行のセルフサービス方式を積極的に取り入れていて、着席から注文、お冷などを全て客の方で賄ってくれる仕組み。
しかも、この店がありがたいのは、出来がった定食類に関しても、客の側が受け取り口へ取りに来る仕組みを採用していることだった。
実に――楽。
おかげで、店員側は調理や容器類の補充に専念することができるのである。
そもそも、定食屋というのは腹を満たすために来る場所であり、客の方だって店員からの丁寧な接客サービスなど求めてはいまい。
ことに、この定食屋チェーンの場合、米価格の高騰によっておかわり有料な飲食店が増えている中、ご飯おかわり無料をいまだ貫き続けていた。
それも、ごはんだけがおかわり無料なのではない。
もはや、これこそ店の主役との予備声高い材料のよく分からないお漬物や、〆にピッタリのおだしなども無料である。
――コメは力だ!
……というのは、姉が数年前、稲作ゲームにハマっていた際言っていた言葉だったが、なるほど、そう考えている人というのは、数多い。
とにかく、腹が減っている。
この空腹を、たっぷりの白米によって満たしたい。
客たちの大半がそう考えており、そのためならセルフサービス上等! むしろ、気楽にやれて助かる! という気風の層も多いこの店は、生まれつきやや目つきがキツイというか、どうも他者とのやり取りでギクシャクしがちなチドリにとっては、大変にありがたいバイト先であった。
しかしながら、いかにオペレーションを簡易化しようとも、この定食屋チェーンが飲食業であり、接客業であるという点に変わりはなく……。
悲しいかな。客の中には、我を通して他者に迷惑をかけてもおかまいなし……という人間も一部存在する。
この夜、ボックス席でけたたましい声を上げている四人の若者たちこそは、まさにそういった種の客であったのだ。
「ウェーイ!」
「カンパーイ!」
「お前それ、何度目だよ!」
「お料理追加いっちゃうー?
あえての定食屋でフライドポテト!」
「いーねー!
オレも追加いっとくべ!
蒸し鶏と海藻のぽん酢和え!」
「ちょま! シブすぎて超ウケるんですけど!
でもそれ、絶対美味いやつじゃね? オレの分も足しといてちょ!」
「りょ!
飲み物の追加はどする? オレ、そろそろハイボールに切り替えっけど!」
「レモンサワー追加よろ!」
「ッケー!」
……まったくもって、どこまで騒げるのか。
年齢と恰好を見るに、おそらくは大学生。歩くだけで「チャラチャラ」という効果音が鳴りそうなチャラ夫っぷりの青年たちである。
それが四人……だというのに、軽く二十人分くらいのデシベルは記録してそうなやかましさで、店内に大声を響かせていたのだ。
当然ながら、そんな風にしていれば食欲を満たすためにやってきたストイックな客たちから白い目を向けられるのだが、彼らはそんなことを気にしない。
確かにアルコールメニューもおつまみ足り得るサイドメニューも存在するのだが、すっかり居酒屋気分で大はしゃぎであった。
「どうしよっか……」
「どうするって、言われても……」
「店長、どうにかなりませんか?」
食器の返却口越しに様子を見て、そんなことをささやき合う。
厨房内では、チドリも含めた数人のバイトたちが、調理の手は止めないままに困った眼差しを向け合っていたのである。
一体、何が困るのか……。
それは……。
「いやあ、僕はこういう対処が苦手でねえ。
クレームを言ってくるお客さんもいないし、このままどうにかスルーできたらなって……」
……こういう時、店長が一ミリたりとも頼りにならないことであった。
あんたの城だろと言いたいところだが、しょせんはチェーンの雇われ店長であり、しがないサラリーマンである。
事なかれ主義というか、キツイことは避けがちな人物なのがこの店長なのだ。
「このままだと、SNSとかに苦情が書かれそうな気もしますけど……」
「そうだけど、そういうの気にしてたら、やってけない商売でもあるし……」
チドリの言葉に、ある意味ふてぶてしい返事をする店長であった。
と、ホールで動きがあったのはその時である。
「え……? オオハラ君……?」
ちょっとやり方を教えるなり、秒で順応してホールの支配者となっていた少年……。
たまにいるというやたらと要領よく仕事こなすタイプのバイトなオオハラ少年が、問題の迷惑客たちのもとへと歩み寄って行ったのだ。
「ちょ……! まだバイト初日なのに……!」
……チドリが思ったことは、頼りにならない店長が代弁してくれた。
ヤリたい盛りの17歳と27歳の彼女 英 慈尊 @normalfreeter01
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