アールグレイフルールと約束の夜明け

SE//薪が燃える音

SE//鳥のさえずり


「……おはようございますわ、

わたくしのお坊ちゃま」


SE//寝具が揺れる音


「まだ、空はほんのりと暗く……

けれど、東の空が、

かすかに白んできましたの」


「あなたの寝顔を眺めていると……

胸がじんわりとあたたかくなって、

朝が来るのが、少しだけ……

寂しく感じてしまいますの」


SE//足音


「夜の静けさに包まれたこの部屋。

わたくしたちだけの、

ひそやかな秘密の場所――」


「あなたのまなざしに映るわたくしは、

ほんとうの意味で、

“わたし”でいられた気がいたしますの」


SE//椅子に座る音

SE//木の椅子が、軋む音


「この数日間……

わたくしは、たくさんの想いを抱えて、

あなたのもとに通いました」


「完璧なお嬢様であること、

気品と誇りを失わぬようにと、

何度も何度も、鏡の前で笑顔を作って……

けれど、あなたの前では、

つい……

その仮面が、するりと落ちてしまうのですの」


//演技依頼:軽く笑う声、しかしほんのり涙を含む

「それでもあなたは、

そんな“わたし”を、そっと、

受け止めてくださった」


「わたくしの言葉に耳を傾け、

沈黙にも、意味を見つけてくださって……

そのやさしさに、何度も、何度も……

救われましたの」


SE//紅茶を注ぐ音


「夜明け前の一杯。

これは、ほんとうに最後の、

お茶でございます」


「――アールグレイ・フルール。

ベルガモットの香りに、

エルダーフラワーと薔薇の花びらを添えて……

少しだけ、甘く……

懐かしい香りがしませんこと?」


SE//カップが置かれる音


「それは、わたくしの想い……

あなたと過ごした夜の記憶を閉じ込めた、

とびきりの特別なブレンドなのですの」


「……今日という朝を迎えたら、

わたくし、お嬢様としての

役目に戻らなくてはなりません」


「舞踏会や、式典や……

忙しない日々の中で、

あなたの声が、まなざしが……

ふいに、胸の奥に灯ることでしょう」


SE//紙が手渡される音


「これは――

わたくしが、

あなたに宛てて綴った手紙ですの」


「読まれるのは、今でなくてかまいません。

わたくしがここに来られなくなった夜……

あなたが少しだけ寂しく感じる夜に……

そっと開いてくだされば、それで」


「そこには、わたくしの想い、

すべてを記しておりますの」


//演技依頼:ゆっくりと近づき、耳元に小さく囁く

「……あなたが、この胸にくれたぬくもり。

わたくし、決して忘れません」


「どれほど遠く離れても、

この気持ちだけは……

変わらずに、あなたのそばに」


SE//椅子を立つ音

SE//衣擦れの音


「さようなら……とは申しませんわ。

だって、これは“終わり”ではなく、

“始まり”でございますもの」


「あなたがいてくださるかぎり――

わたくしは、わたくしらしく、生きていける」


SE//カーテンが風に揺れる音

SE//鳥の声


「また、お目にかかれますように。

今度は……昼の光の中で、

堂々と笑い合える“わたくしたち”として――」


「それまで、どうか、お元気で」


SE//ドアの開く音

SE//ドアの閉まる音


SE//暖炉の火が弾ける音


//演技依頼:遠くなっていく声、けれど確かに届くように

「……愛しき、お坊ちゃま。

あなたに出会えたこと。

この夜をともに過ごせたこと。

それは、わたくしの人生にとって、

かけがえのない宝物――」


「……ありがとう」

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午後三時の、ごきげんよう。 泡依 ひかり @sana_nan

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