UW 7065 4月33日 続1
―聖ルーサー通り、聖ルーサー通り
ミスリル鋼合金のレールと車輪が擦れる音が響く。
窓にもたれかかっているアスタの小さな赤い頭が、慣性で前に傾く。
客室内を照らす青白い光が、灰色の樹脂製シートに冷たく反射している。その無機質な光景が、今の私の心境そのもののように思えた。この車両に乗っているのは私と眠っているアスタの二人だけだ。
発車ベルが鳴り、うるさいガス音と共にドアが閉まり照明が一瞬点滅する。
あれから一時間は経ったのだろうか?ルガルム学宮から下に降りて来て、最寄りの駅からメトロに乗った。学宮のある南部地区からドゥラガルの中心地のある北部に向かっている。この時間帯に北部に向かう人なんて居ない。車内がこれほど閑散としているのも当然だった。
この車両は旧型車両だからだろうか、振動が荒い。アスタのタブレットはさっきから通知が鳴りやまない。学宮襲撃はもうニュースになっているのだろうか?心配のメッセージが沢山届いているのだろうか。
私はとりとめの無い思考を頭に走らせながら今までに起こった事の記憶を消化しようとしていた。悲しみとは違う落ち着かない感情だ。感情と理性が正常に動いている確証が持てない。とりあえず今するべき事は、外国人である私たちは、それぞれの大使館か領事館に向かうべきだろう。特に私には大使館に父がいるし、アスタには学宮の寮以外に住む場所がない。まだ逃げ続けるべきなのか、それとも大使館地区まで行けば安全なのか——いやもうこれ以上逃げる必要は無いのか。とりあえず落ち着いて大使館地区に向かうだけでいいのか。
私は、手鏡を取り出し、姿がおかしくないかを確認した。ウッドエルフの青年男性。尖った耳、黄土色の短髪、灰緑色の虹彩、スウェットとスキニーパンツ、胸の張りも無い。しっかり妖術は上手く行っている。これで敵国民として捕らわれる事は暫くないはずだ。
大使館は新埋め立て地駅で降りれば良かったはずだ。先ほどから地図情報を開こうとしても位置情報システムエラーと言う表示で地図が起動しない。
「ユ・・・リエ・・・?」
アスタが目を覚ましたが、周りの状況がよくわかっていないようだ。
「起きたか、アスタ。」
私は彼女の左頬に右手を伸ばした。
「あなた・・・。誰?っひぇ!!」
アスタは驚き窓に張り付いた。私は顔の妖術を部分的に解き、白く大きな耳とボブ、黒い目を覗かせた。
「ユリエ・・・なの?」
「ああ、アスタ。今は妖狐の正体がばれないよう、ピープルの姿に化けている。」
「早く逃げません!と・・・。ここ・・・は?」
「メトロの海岸線だ。大丈夫だ逃げ切れた。今は大使館地区に向かっている。」
「そ、そうなのですね!じゃあ私たちは助かった!助かった・・・。」
彼女は何も映っていない筈の窓の外を見つめながら、震えた声でそう答えた。
空元気に繕う言葉とは裏腹に、真っ黒に反射する窓に映るアスタの頬には一筋の光の筋が流れ始めていた。
「大使館に行けばすべて解決する。安心するんだ。」
彼女はくるりと振り返って私の胸に飛び込んできた。衝撃で妖術が瞬間解けた。
泣く事を隠すのを辞めた彼女を私はしっかりと抱きしめた。彼女は今級友の事を思い出しているのだろうか?
私たちは暫くそのままでいた。
アスタは長い髪を掻き分けながら顔を上げた。少し瞼が赤く腫れている。
「それで、どうしてあなたはそんなイケメンさんの姿になっているんですの?」
「実はな・・・」
私はタブレットを取り出して、ニュース記事をアスタに読ませた。
「ガクロウが共同国に宣戦布告ですって?そんな・・・。いつかは起こるとは思っていましたけれども。じゃああの人達もガクロウの兵士だったのかしら?」
「そう。そこが疑問なんだ。もう一度この宣戦布告を見てくれ。」
『~目を瞑ってきた。しかし、この度の我らの首都ケイヨウに対する無差別攻撃はその一線を越えた。奴らは、我が国の兵士のみならず、女や子供に対しても刃を向けたのだ。我らの逆鱗に~』
「彼らも同じ攻撃を受けている。共同国が学宮に対してあんな襲撃を行うとも思えない。」
「つまり、戦争を起こしたい方々がいるという事でいいのでしょうか?」
「ああ、恐らくは。でも納得がいかない。何かが引っかかる。」
―新埋め立て地、新埋め立て地
「さっきからうるさいですわ!私のタブレット。本当に。お父様からのメッセージだと思っていましたのに!見て下さいませ!この327件ものメッセージ通知。件名なしで本文もありません。おまけに送り主非通知ですわよ、これぜーんぶ!」
「情報封鎖か。先ほどから、私のタブレットでも位置情報システムエラーが出て地図が使えない。私にはそのメッセージは来ていないが、脆弱性のある回線を使っている端末にメッセージを送り続けて、回線を圧迫麻痺させようとしているのかもしれない。」
「とりあえずミュートにしましたわ。ユリエの言う通りどうせ使えないのでしょうし。」
「よし、降りるぞ。」
―この電車は次の駅には停車いたしません。通過します。ご注意ください。
「あらら?」
電車は減速し切らずに非常灯のみが点いた駅構内を通過していく。
「なんで降りられないんだ?」
「とりあえず次の駅で降りましょう?もしかして、ドゥラガル全域にシステム障害が起こっているのではなくて?」
「そう・・・だな・・・。」
―キングストン、キングストン
再び列車は金切り音をあげて減速し、今度こそ停車した。二人は小走りに階段を上がり改札を抜け地上に出た。
『~におきましては、今後24時間、出来る限り室内に留まる事を強くお願い致します。また、この非常事態に対処をするため、これより憲法の規定に基づきガルム自由軍には警察を補助する警察権を一時的に与える事になります。以下に述べる~』
倉部大統領の会見中継が交差点の大画面に流れている。そこにいる人々はみな足を止め、放送に見入っている。タブレットの画面で見ているもの達もいる。ここドゥラガルの中心とも言えるキングストン広場には動揺が広がっている。摩天楼の隙間の上空を飛び交う航行機の数も普段よりも少ない。
「すまない。自分自身で認識阻害魔法をしてくれないか?私以外の動いている対象の透明化は得意でなくてな。それに君はミョルニルゴード家という大物。正体を隠してほしい。」
「おっと、その通りでしたわ。パスをユリエに繋いで・・・。はい、出来ましたわ。」
私は、妖術が使える獣毛種の上位種、妖獣種の妖狐で、固有魔力量こそは原人種(サピアン)や地人種(テラリアン)と全く変わらないが、獣種は魔力伝導値が最も高く、周囲の魔力の流れを操る妖体神の加護を受ける妖術を使う事が出来る。一方、ネームレスは聖魔大戦時に魔王勢力が作った人工種族であり、体内の魔力結晶を核に高い魔力を有し魔術に長ける。アスタと私の使う術は全くの別物なのだ。
二人は大通りを南に、歩道を歩いて大使館地区に向かう。
「ところで、ユリエ。わたくし疑問がありますの。どうして彼らは学宮をあんな形で襲ったんでしょうか?まるで殺す事そのものが目的だったみたいに。」
アスタは強い。先ほどまで泣いていたのに、もう状況を認識しようとしている。立ち直りは私より早かったのではないだろうか。
「仮に、戦争を起こすための挑発であるのならば、あんな辺鄙な場所にある学宮よりもここみたいな人口密集地の方が良かったでしょうに。それに、爆弾テロでも何でも良かった筈ですわ。挑発が目的で無いとすると、本当に殺す事そのものが目的であったのでしょうね。」
その通りだ。さすがはクリスティーナの名を継ぐもの。状況認識に長けている。
「それで、私は心配しているんです。私たちもターゲットだったのではないかと。私たちは逃してしまったターゲットと言う訳で、その場合まだ私たちは追われている筈で~」
空をバリバリという音が通り過ぎる。私は目線を上げると頭上を人一人程の大きさの黒い影が、道路上、ビルとビルの間を飛んで南へ行った。あれは航行弾だ。航行弾が高度を上げた。終末マヌーバだ!
「なん・・・。」
「伏せて!!」
私はアスタにとびかかり彼女に覆いかぶさるように伏せた。同時に衝撃波が駆け抜け、直後に土煙を伴った爆風が吹き抜けた。水晶片が私の腰を引っ搔いた。出血はそれほどしていない。
「大丈夫か。アスタ。」
私は起き上がり、彼女を立たせると、彼女は埃を吸って咳き込んだ。
「(咳払い)・・・。おかげで大丈夫ですわ。ありがとう。」
「すまない。無理やり押し倒したせいで腕が擦れて・・・。」
「こんなのかすり傷です。それより自分の心配をしてください!あなたは大丈夫ですの?」
「ああ、問題ない。」
辺りでも人が数人倒れているが、幸い重傷者は居ないといった所だ。停車している電動車が数台衝撃によって防犯ベルを鳴らしている。南の大使館地区の方に大きな粉塵雲が立ち上っている。
父は・・・。大丈夫なのか・・・?
私はすかさずタブレットを取り出し父とのチャットルームに飛んだ。よかった。父は既に大使館内にあったギボリアの神聖術でできた転移門で明名本国に飛んでいたみたいだ。もう恐らく破壊されているが。発信は私とアスタがちょうどメトロに乗ってしばらく経ったくらいの時刻だ。
「ユリエ・・・。もしかしてあなたの・・・。」
アスタは下から私をのぞき込む。
「私の父上は大丈夫だった。既に避難済みだそうだ。今は転移先の明名国内にいるはずだ。」
「それはよかった。」
そうだ、返信しよう。私が無事だと連絡しなければ。国際通信に切り替えなければ。いや。待て。
「いい加減この迷惑メッセージ!止まってくださいまし!」
「なぁアスタ。私たちは追われているかも知れないんだよな。」
私は遠くの粉塵雲を見つめながら言った。
「ええ、そうかもしれませんけど、単なる憶測でしてよ。」
「一体なんで丁度私たちが向かおうとしていた大使館区画に落ちているんだ?」
私は腕を上げて、雲が晴れつつある複数の爆心のうちの一つを指した。そこにはメトロの駅も入っていた全壊した複合駅が佇んでいた。アスタがタブレットのミュートを切り、連続した通知音が鳴り響いた。もしや、逆探されている?!
「アスタ!魔源を切って!!!今すぐ!逆探されている!!」
「え?、あ」
状況の分かっていないアスタを待たずに私は彼女のタブレットを奪って魔源を切った。私は急いでアスタの腕を引き、人混みへと駆け込んだ。
「一体全体っ・・・なにですの?せめてっ・・・教えてっ・・・くださいません?」
「アスタのタブレットに届いていた非通知メッセージ、あれは追跡に使われていたんだ。さっきキングストン駅を降りた時、連続通知音なんて誰のタブレットからも聞こえなかった。アスタのタブレットだけなんだ。なぜかは知らないが私のタブレットには通知は来ない。父上から貰った物だから軍製品で逆探対策がされているのかもしれない。」
「え、どういう・・・。」
「それに、大明名国大使館にいた父上は私が地下鉄に乗ってしばらく経って私にメッセージを送っている。つまり、地下鉄に乗り出した頃に大使館地区をターゲットとしてプログラムされた航行弾が発射されて、それを大明名国大使館は探知して避難を行ったという事だ。奴らは私たちがメトロ海岸線に乗ったと同時に、目的地が大使館地区だという事を察知したという事だろう。奴らがキングストン駅をも標的にしなかった事に感謝しなくては。もうアスタのタブレットの魔源は入れられない。再度逆探される。」
「それって本当ですの?」
「あそこから見てみよう。」
私とアスタは先ほどの衝撃によって流れ込んできた野次馬の集団を掻き分け、数ブロック離れた建物陰に隠れた。二分程待っていると、腹に小銃を隠した三人組の砂人種(カルバン)が私たちの居たところにやってきた。私が魔力探知に長ける妖狐種で良かった。私は小声でアスタに語り掛けた。
「見てくれ。あの三人組のカルバン。」
「見えませんわ。」
私はアスタを抱えてより見える高さから覗かせ、アスタにも望遠の妖術をかけた。
「ええ、いましたわ。」
私は彼女を降ろして、二人ともさっきまで居た場所から遠ざかる様に歩き出した。
「カルバンの方々という事は、アナムの方々なのでしょうか。」
「いや、そう簡単には断定できないと思う。奴らが雇ったアナムの傭兵、テロ組織の人物と考えるべきじゃないか?」
二人の足音が石畳の坂に響く。
「私は別の考えですわ。ガクロウが撃った飛翔体はアンティアに向けて放たれたのでしたよね?アンティアはアナムと同盟関係にあります。」
「ああ、そうだな。」
「そして、ガクロウは共同国陣営に宣戦布告をした。つまりは、ガクロウはアンティアとアナムの二国同盟が共同国陣営に参加したと捉えているのではないのでしょうか?」
「でもなんで、その共同国の仲間になった筈のアナムが、この共同国に加盟しているガルム連合国の学宮に攻撃を仕掛けたんだ?」
アスタは待っていましたと言わんばかりの誇らしげな顔をする。
「実はそこがミソなんです。共同国に参加したいと思っていたのはアナム一国のみで、アンティアを巻き込んで共同国に参加する為に、この国際社会の陰の舞台で一局を演じているのではないのでしょうか。世界各地で事件を起こせば、対立する二陣営がお互いに相手による攻撃だと判断するでしょうね。特に、アンティアが事件に加担したという情報をガクロウに流して事件を起こせば、ガクロウは相互不干渉であった筈のアンティアに裏切られたと判断して、アンティアを攻撃する。すると、アンティア-アナムの二国間同盟が共同国に参加する大義名分ができる。と言うのが私の読みでしてよ。」
「やはりアスタだ。そこまで考えが至らなかった。」
ミョルニルゴード家きっての才女と言われている理由を垣間見た気がした。
「当たり前でしょう?なんてったて、私、クリスティーナの名を頂いていますので。で、私たち何処にむかっているので?さっきから海の方へ下っていますが。」
「港だ。目下、私たちは何処かしらの大使館ないし領事館に逃げ込まなければならない。南西にあるこの国の第二都市、デルアブルを目指すには船が必要だ。そもそも、どこに行くにしても、この広大な湖上の島から脱出するには船が必要だ。」
「ユリエ、待ってください。そんな事お敵さんも百も承知のはずです。罠があるかもしれませんよ?」
アスタは足を止めた。
「お敵さんって・・・。聞かない言葉使いだな。」
「ともかく、誰もが使う連絡船を使うのには反対です!」
「でもどうやって・・・。」
「私についておいで下さい。」
そうしてアスタはその場でくるりと直角に方向を変え、足を北の方へ運び始めた。その方向の先には観光街がある。
「違うと思うが、今から観光をするわけじゃないよな?」
「もちろん違いますわよ。ほら、あれを見て御覧なさい。観光艇ですわ。南ガルム島観光用の。」
「無人操縦の高速電気艇か。」
二人は桟橋へと続く小道の階段を下りてゆく。
「ユーリィ?50ベロサ札一枚持ってます?」
「ああ、持っているが。」
「ちょっと貸してください。あの観光艇、手軽なのは良いんですが50ベロサ札しか受け付けないのが頂けませんの。私二枚しか持っていませんの。返しますので貸してくださいまし。」
「残額は限られてる。計画的に使わないと帰れなくなるぞ。」
私は胸ポケットから財布を取り出す。腕を入れた部分の妖術が一瞬解ける。
「問題はありません。私に一つ”案”がありまして。」
私がアスタに50ベロサ札を渡した。
「なんだ、その”案”とやらは。それに無人操縦艇でどうするつもりなんだ。この船では湖岸南西から川を遡上してデルアブルに行けないぞ。しかもプログラムされた南ガルム島以外には行けない筈だぞ。」
私たちは船に足を踏み入れた。定員最大10人程の小型な船だ。
「それは乗ってからのお楽しみですわ!」
アスタは船のドアを開けて一番前の二人掛け席にちょこんと座った。既に代金は投入し終わっているようだ。私はアスタの後ろの二人掛け席に座った。
『この度は、デラクルス観光株式会社の無人操縦高速観光船をご利用いただきありがとうございます。この船は南ガルム島行き、約5時間の旅を~』
船は電気ジェットモーターの作動を始めて離岸した。私は外見を変えていた妖術を解くと力が抜けた。
「やっと落ち着けるな。でも、船をこんなタイミングで使ったら魔力探知で敵に見つかるんじゃないか?まぁ、仮に彼らが哨戒艦艇を持っていればの話だが。」
日は傾き辺りはオレンジ色に染まり始めていた。
「で、どうするんだアスタ。その”案”とやらは。」
「魔力探知の問題はありませんし、この船は南ガルム島には行きません。まぁ、南の方向には行きますけれども。これからこの船を壊します!」
薄々勘づいていたので、私は思わず笑いが漏れた。
「魔力が溜まっているデバイスすべてを壊して海に捨てます。逆探知を回避する為です。それで、沈没信号でドゥラガルの港が大騒ぎしない様に、ブラックボックスは海には捨てません。正常な航海を偽装しなければなりませんので。」
「なる程、そこで私の鶴の式神の出番か。」
「お願いいただけますか?」
同情を誘う目でアスタはこちらを見る。
「最初からこのつもりだったんだろう。私が断ったらどうするつもりだったんだ。」
「あら、ご協力ありがとうございます!」
私たちは充分に船が沖に出て高速航海が始まった後に、機関部の扉をこじ開けて、魔電貯蔵交換機を丸ごと引き抜き、海に捨てた。これで、この船は完全に電気のみで無機的に動く高速船と化した。私のタブレットの魔源も切ったので、この船に存在する魔力映は大幅に減少し、アスタと微弱な私の魔力映だけになった。
ブラックボックスは緊急時にも信号を送れるように独自の給電システムを内蔵している。ブラックボックスを救命胴衣の袋に入れ、式神に咥えさせた。いささか重量オーバーだと思われたため、アスタは袋に反重力魔術をかけてくれた。式神は南ガルム島の方向へ飛び立ち偽装も済んだ。機関部には、規定航路往復用の観光船艤装によって使われていなかった電気式自動運転装置があったのでそれを起動させた。アスタは、小さい体を生かしながらこれらすべての作業を行った。流石工業財閥一家きっての天才だ。
この頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
「それで、今から向かうのは、デルアブルではないんだろう?航続距離が届かない。」
「その通りです、私たちが向かうのはデルアブルではありません。隣国で中立国家のテルランドですわ!」
テルランドは南東にある隣国で南西の都市デルアブルより近い。非常に高い高地にありアクセスは困難だが、山中をくり抜いたケーブルカーで行くことができる。そして、アクセス可能な山麓の街ニュードルゲンには、モルベン川を遡上すれば到達できる。ニュードルゲンはデルアブルよりも二分の一の距離だ。
「器物損壊に、無断出入国。大罪人にでもなった気分だな。」
「あら、敵国のスパイの娘さんとして捕まるかもしれない貴方が良く言いますわ。」
その通りだ。アスタには父は外交官として教えていたが、実際には父は諜報任務でこの国に訪れていた。アスタには隠し事が利かないようだ。
「それに、私のお父様であればこの位の弁償代なんて、どうって事無いでしょう。それに、忘れていませんの?私たち命を追われているのですわよ?」
「そうだったな。今日はありがとう。」
「それは私の言葉です。あなたのおかげで今に私は生きています。」
彼女はこちらを見ていなかったが、声色からいつもと違うアスタを感じる事が出来た。
「私たちも先日の不審船のお友達ですわ!」
アスタは私の前の席にやって来て座った。
「お腹空きましたわね。」
「ああ、明日途中の街に着いたら沢山食べような。」
「ええ。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい」
船に微かに点いていた電灯も消し、二人掛けの席に横たわった。
モーターのジェット音。窓から差し込む星明り。
今日は精神的ショックの強い日であったが、体力を消耗した私は横になるなりそれほど時間が経たないうちに、いつの間にか意識は薄れていった。
ゴッズウィル よりみちよたばなし @higgsino
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