第二十一節 囁く亡霊たち(後半)
風間洸二――元ギルド治安維持班のエース。かつての任務中、民間人との衝突を引き起こし、責任を問われて謹慎処分となった男。その後、復帰要請を断って行方を晦まし、現在に至る。
だが、完全には消えていなかった。
「この前、池袋の瘴気中和施設付近で、偽装した身分証で入場した記録がある。照合の結果、“類似魔力波動”が検知された。数値的には限りなく彼に近い」
クロエの言葉に、瑠璃が低く呻く。
「……じゃあ、やっぱり……」
「確定ではない。だが可能性は高い」
一翔は、無感情な口調でそう答えた。だが、彼の目は決して冷えてはいなかった。
洸二は、一翔がギルドに入った初期の頃の教官的存在だった。粗暴で不器用だったが、戦場では誰よりも冷静だった。だが、ある“事件”を境に彼は変わった。
その事件こそ、“秋葉原瘴気収束実験の失敗”。
瘴気中毒者が暴走し、街一区画が封鎖される事態となったその時、最前線にいた洸二は命令に背いて中毒者を救助し、その行為が結果的に事態を悪化させたのだと非難された。だが、一翔だけは知っていた――洸二は最後まで、市民を守ることだけを選んだのだと。
「俺は……まだ、あの人を完全には疑えない」
「だけど、もし“敵”として姿を現したら?」
瑠璃の問いに、一翔は小さくうなずいた。
「その時は、俺自身が止める」
その言葉に部屋が静まり返る。誰も軽々しく口を挟めない緊張が、空気を支配した。
しかし、それを破ったのは狩野拓巳だった。
「よーし、そんじゃ俺らの出番ってことだな!」
無責任に見えるほど明るい声。しかし、その裏にある覚悟を、皆は知っている。
「俺とクロエちゃんで洸二さんの接触経路を調べる。新宿地下、まだ奴が残した痕跡があるかもしれねぇ」
「ええ。そろそろ“アルギュロス”が動きを見せる頃。各地で瘴気濃度の揺らぎが急増してるし、それに合わせて『魔石の市場価格』も乱高下してるわ」
クロエが手帳型端末を操作しながら続けた。
「つまり、この混乱は偶然じゃない。“誰か”が計画的に都市機能を揺さぶってる」
「しかも、それはギルド内部の誰かが協力しなきゃ、実現しえない精度でだ」
一翔が重くまとめる。
会議はそこでいったん終わった。だが、終わりではなく、これは“始まり”だった。
* * *
その夜。一翔はマイルームダンジョンのさらに奥、かつて誰にも見せたことのない“封印区画”に足を踏み入れた。
人工の壁を超えた先、そこには一枚の写真が飾られていた。
――風間洸二と、一翔が並んで笑っている写真。
「……あんた、どこまで堕ちた?」
言葉は冷たい。しかし、その奥にあるのは、怒りでも軽蔑でもなく、ただ“問い”だった。
洸二は正義を貫いた男だった。だが、その正義が否定された時、人はどう変わるのか。
その夜、誰にも気づかれぬまま、もう一つの影が東京の瘴気網に侵入していた。
銀色の髪をなびかせた仮面の男が、ビルの屋上に立つ。彼の背後には、無数の影が蠢いていた。
「間もなく“契約”は果たされる。我らはこの都市を奪還する」
仮面の奥の瞳が、竹ノ塚の方角を鋭く見据えた。
東京の夜に、“亡霊”たちが集い始めていた。
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東京ダンジョン・リユニオン 風来坊 @kazu1614
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