8月4日

アマさんと二人で歩いて海に向かうことになってから、3日が経過した。

ということでまずはこの3日間どのような感じに事が進んだのかを話そう。

まず、進んだ距離だが、かなりペースが良い。約1.8キロと、蛙にしては信じられない速度で進んでいる。肩に乗せて歩いているなら遅すぎると感じるかもしれないが、実際は並走しているわけだからこのスピードは異次元だ。ただ一つネックな事がある。僕が暇すぎるのだ。特に話すこともないし、周りの景色は今のところ、お墓参りのたびに毎回来ていた道なので、特に変わり映えすることも無い。しかも集合した13時から、だいたいいつも3〜4時間ほどで、疲れて解散になるため、そこから家に帰り、また次の日同じ道をたどり、合流。来た道を進むので、この3日間で今のところ僕は同じ道を7往復してることになるのだ。しかし一番きついのはこれではない。

アマさんの蛙雑学タイムだ。

話すことがないので基本的にアマさんの蛙についての話を聞くことになるため、僕はこの3日間で足の筋肉と、蛙についての知識を手に入れたのだ。


「なぁリク知ってるか。」


「何がすか。」


「蛙のなかでも我らがニホンアマガエルは日本全域に生息していてな、田舎だけじゃなくて都会の街並みにも生息しているんだぞ。これはもう蛙界の王と言ってもいいよな。」


「どうぞ王になってください」


このような感じである。せめて蛙じゃなくてちょうちょとかなら綺麗だなとでも思えたのだろうか。と、アマさんと話していると、道の向こう側の人と目があった。一瞬知らない人だと思ったが、予想とは違い、むしろかなりの知り合いであったことがわかった。


「おい、リク。なんかめっちゃみてる人がいるぞ。知り合いか?」


「うん。しりあいってか、同級生だねしかも同じクラスの。」


「どうするんだ。話しかけてみるか。」


「うん。とりあえず目があっちゃったから話してみるけど。」


「けど?」


「多分彼が僕のことあんまり好きじゃないと思うんだよね。」


「なんでそう言い切れるんだ?」


少し言葉に詰まった。しかし、実際に学校でも妙に避けられている気がして、まともに喋ったことがないのだ。席替えで席が近くなったとしても。班行動で、班がおなじになったとしても。


「とにかく多分あんまり仲良く無いから。挨拶するだけね。」


「ふーん」


「あと、喋んないでね」


「なんでよ」


「もし人間の言葉がわかるってばれたら、政府に捕まって体中調べられちゃうかもよ」


「それは困る」




佐藤連は学校内でも一番のスポーツマンである。だいたい小学生というのは、僕のような運動が苦手なものでも、たった20分間の休みで、グラウンドにでてサッカーでもして、20分後にはしっかり汗だくでかえってくるのだ。でもその中でも連君は別格で元気で足が早くてサッカーが上手い。一つくらい才能を分けていただきたいレベルだ。そのため特に話たことも無い蓮君には避けられているとおもっているので、避けられている側としては、こうして一本道で出会ってしまうと難しいものだ。


「陸君じゃん。こんなとこで何してるの?」


「こんにちは連君。まぁ散歩みたいなものかな。そっちこそ何してるの?」


しかし彼の服装を見て驚いた。学校ではサッカー三昧でいつもボールを手に持っていたように感じた彼だったが、今の姿は、麦わら帽子に虫取り網、虫かごを持ってきていて、まるで虫取りでもするみたいだ。


「来週からサッカーの練習が始まっちゃうから、それまでなにかしようと思って虫を取りに来たんだよ。」


本当に虫取りに来てたとは。以外だ。あんまりそういうことには興味がないと思っていた。そのまま彼とは軽く話して別れた。すると胸ポケットに入っていたアマさんが出てきて話しかけてきた。


「なんだ、結構話せるんじゃん。全然普通だったよ。」


「自分でもびっくりしてるんだって。」


本当に学校の中では避けられているかのように話さなかったが、おそらく今の会話で学校で話した回数を等に超えただろう。でもまさかあの連君がむしとりをしているなんて。いや、そんなことよりも。

嬉しかったのだ。今まで話したことがなかった人と話すだけでこんなに嬉しい気持ちになるとは。いや、そもそも本当に避けられていたのだろうか。そんな人が急に話しかけてくれるのだろうか。そんな事を考えていたが、もしこのまままた学校で出会ったら、話さなくなってしまうのではないか。いや、むしろ今日が特別だったのではないかという考えがよぎる。


「アマさん。」


「ん。どしたの」


少し言葉が詰まる。


「今日はここで解散して連君と話してきてもいいかな。」


「私もそれがいいと思うよ」


「ありがとう!また明日!」


すぐに連君を追いかける。一本道だから迷う心配がなくて良かった。思ったよりも早く連君を見つけた。少し行きの荒くなった口を開く。


「一緒に…。虫取りしてもいい?」




彼と話すうちにわかったことなのだが、どうやら僕が彼に避けられていたと思っていたのと同じように、彼も僕に避けられていたのだと思っていたようだ。要するにお互い勘違いだったというわけだ。そうわかったときはお互いに笑ってしまった。

その後、彼とはまた遊ぶ約束をして別れた。今度は学校でも一緒に遊ぼうと言う話も。

なんだ。めちゃくちゃいい人じゃないか。



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海の蛙は泳げない @kinnjixyono

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