星彩

 地平線が明るくなり始め、星の光が消え行く時。


 神殿の外に出てエルクリッドは深呼吸をし、明るくなり始める丘陵を眺めていた。

 少し肌寒い空気の中でしばし佇んでいると神殿の石扉が開く音がしたので振り返り、まだ眠気眼で借り物のローブ姿のノヴァが来たのに微笑んで応える。


「おはよノヴァ。まだ寝てたら?」


「おはよぅございます……エルクさんこそ、早起きじゃないですか」


 目を擦りながらもノヴァも笑顔で答え、エルクリッドの手を掴んで顔を見合わせた。

 すぐ近くの倒れた石柱に座って昇り始めた太陽を見ながら、ごめんね、と言ってエルクリッドは言葉を紡ぐ。


「昨日はカッコ悪いとこ見せちゃったね。まだまだあたし弱いなぁ……伝説のカードを探すにしても、力不足、かな」


 相手が相手だったとはいえ、やはり力不足は事実。最強の頂に立つバエル程でないにしろ猛者は世界に多く、そして伝説のカードを探す上で必ず相対する。


 その時に敗北は許されない。だがどうやって強くなるのかすぐに浮かばないでいると、エルクリッドとノヴァは少しずつ近づく足音と息遣いに気が付き、丘の下の方からと思って目を向けると神殿への道を走って登ってきたシェダを捉え、彼もまた汗をかき息を切らしながら二人と目を合わす。


「っと、起きてたのかよ」


「あんた何やってたの?」


「走り込みだ。少しでも鍛えておけば魔力も増えるしな」


 確かに、と、エルクリッドはシェダのそれに納得しつつも、走り込みだけでは微々たる効果しかないとも理解する。しかしシェダもそれはわかっていて、少しでも強くなる為と思えば無駄ではないのも事実だ。


 そんな三人の所へ次いでやってくるのはリオ。神殿から出てきた所でエルクリッド達を見つけ一瞬きょとんとし、くすっと微笑んでから歩を進めやって来た。


「朝が早いですね」


「リオさんおはよー……リオさんも修行?」


 そんな所だと返しつつ、だが具体的に何をするかまでは考えてなかったのか言葉は続かず会話が止まる。

 何かをしたくても明確なものが浮かばない。昨日の今日というのもあるからか、少しだけ思考に迷いが被っている気がした。


 何とかその場をと思ってエルクリッドが口を開きかけた時、気の抜ける音が鳴り響く。それはエルクリッドの空腹を報せる長い腹の虫、一瞬真顔になってからかぁっと顔を真っ赤にしエルクリッドはゴーグルを目につけ顔を手で隠す。


「ナンデモナイデス、キノセイデス」


 片言気味にそう主張するエルクリッドだが腹の虫は収まらず鳴り続け、これには堪えきれずにノヴァ達は身体を震わせ始めてしまう。

 耳まで赤くするエルクリッドが言い訳を考えていると、すっと横から丸いパンが差し出され、その良い匂いに釣られるように反射的にぱくっと咥えその方へと振り向く。


「ふぁ、ふふぁふぇふぉふぁん」


「喋る時は口のものを何とかしてからですね。皆様お早い目覚めをしたようなので食事を作りました、それで呼びに来たのです」


 やって来たのはタラゼド。もぐもぐとパンを食べながら話そうとするエルクリッドに苦笑しつつ朝食を伝え、真っ先に反応したのはパンを飲み込むエルクリッドだ。


「ありがとうございますっ! 今後の事とか、色々あるけど……とりあえずご飯にしよ!」


「そ、そうですね!」


 単に早く食べたいだけでは? という疑問は苦笑しつつ答えたノヴァや見守るシェダとリオも浮かびはしたが、エルクリッドの明朗快活さを見てるとそれはいつの間にか消え去る。


 今日を報せる朝日が世界を照らす。瞬く星の輝きは眠りにつく中で、エルクリッドという輝きは日に照らされ強く瞬いていた。

 明日に迎えば運命と試練が待ち受ける事を今は知らずとも、彼女達は歩みを止める事はない。



To the next story……

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星彩の召喚札師Ⅰ くいんもわ @quin-mowa

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