二度と潤わない
私と彼が会話をすることはあの後、二度と訪れなかった。
混乱から生じた怒りが薄れ、罪と孤独が顕在化し、彼との対話を欲求してもそれは不可能だと確信したために。
彼は決して悪くない。
勇気を持たず、彼と会うことをやめた私が悪いのだ。
あの日以降、山田や谷口とくだらない日常を過ごし、田部さんと行為に及び、輪郭を持った記憶を頭に刻んだ。だが、それによって彼への意識は消えることはなかった。むしろ、楽しい記憶を刻み込むたびにそれは一層鮮やかになった。
ことさら、指定校推薦で大学受験を終えた私にとってその作用は深刻であった。同じように受験を終わらせた彼らと遊んでも、かつて彼と遊んでいた時に覚えていた充足の感覚を思い起こさせた。そして、この空虚さは罪悪感と孤独を深めて渇きを深刻化させた。
私は今年の春、大学生になった。だが、新たな環境で生活が始まっても心には澱が溜まっていた。
ただ、通学の度、最良の友人の家の前を通り、カーテンが閉め切られた二階の一室を一瞥するその瞬間だけ、自ら切り落としてしまった友情の輪郭を覚える。それは私に一瞬の潤いをもたらしてくれる。
カラッとした夏の陽光に満ちる今日もこれは変わらない。
「大介、いまもギター弾いてるのかな」
陽炎が繁茂する道の最中、私は彼の家を一瞥し、その瞬間しか得られない充足を覚える。
青春讃歌 鍋谷葵 @dondon8989
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