第2話 都会暮らし
1994年9月4日、大阪湾内泉州沖5kmの埋立地に世界で初めての完全人工島からなる海上空港が開港した。関西国際空港、通称関空である。
関空の開発に伴い、周辺地域でも大規模な開発計画が持ち上がった。関西国際空港関連地域整備計画と銘打たれた巨大プロジェクトは周辺自治体を巻き込み巨大な都市開発事業となった。
二色の浜環境整備事業もその一つである。
これは貝塚市地域の都市環境の整備などを目的に、貝塚市の沖合に約252ヘクタールの土地を埋立造成し、そこに街を作るというものである。
関空建設に伴い、職員用の宿舎もこの二色の浜の埋立地に用意された。
甚平の父臥龍は入国管理局職員であったが、この新築の公務員宿舎に部屋を割り当てられた。
新しく美しい街並みと建設されたばかりの真新しい公務員宿舎を前に、甚平は感動に打ち震えプルプルしていた。
広島から大阪に引っ越すと告げられた時、甚平は島を離れたくないと思った。2年前に開業したゆめタウン江能のゲームセンターを離れたくなかったのである。娯楽の少ない島内においてゆめタウンの開業は甚平にとって世界の転換であった。食べ物もおやつも服や靴もなんでも揃うゆめタウンはまさに夢のような存在であり、その上ゲームセンターも併設されたゆめタウンは甚平にとっての桃源郷であり、心を満たしてくれる至高の存在となっていた。
甚平はゆめタウン江能の開業後は事あるごとにゆめタウンに連れて行けと親にせがみ、自宅にいる際も
緑の風が溢れる街に
ハローハロー
大きなお日様 呼んでる街に
ハローハロー
青空を見上げて
手を繋げば輪になる
ほら虹色の微笑みが~
ゆーゆーゆー ゆめタウン
you&me ゆめタウン
あなたと私の夢が膨らむ
ゆめタウン
などとゆめタウンの歌をひたすら歌い続け、四六時中ゆめタウンの事しか考えぬ子供に成り果てていた。
甚平は学校帰りなどに大声でこの歌を歌いながら練り歩くのだが、それを見た祖父は「甚平お歌上手いな、賢いな」などと褒め称え、向かいに住むエビス氏はこの光景を見て「アホ一家じゃ」と思ったし口に出して言った。
しかし今や甚平にとってゆめタウン江能は取るに足らない存在となった。島とは比較にならない大都会大阪、フロア面積の規模が違う岸和田のサティに魅了された甚平はあれだけ愛してやまなかったゆめタウンの歌をその日限り歌わなくなった。そして心の中でゆめタウンを貶めるようになっていった。あんなものをありがたがるのは田舎者じゃと思いながら、甚平はサティのような素晴らしい施設が近くにあるのは一重に自分という人間が素晴らしいからだと思うようになっていった。
これは全くの誤りであり、イオン創業者の岡田卓也氏も別に甚平の為に前もって岸和田にジャスコ(後のサティ)を出店したわけではなく商圏等を鑑みてそこに商機を見出しただけであるが、甚平はこのように素晴らしい事が起こるとその全てを自分という崇高な存在があるおかげである、という特殊な思考の持ち主であったため、はからずやサティを運営するイオングループやゆめタウンを展開する株式会社イズミの発展とともに甚平の自己中心的な性格もおなじように発展を遂げていった。
プルプルしながら甚平は言った。
「まあ、こんなもんやな」
齢10にしてもはや手遅れであった。
オラは悪くない @kuso_Jovovich
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