第12話:未来へ続くハーモニー

〇月号の『リボン』が発売された。

朝から降り続いていた小雨がようやく上がり、

薄雲の隙間から柔らかな陽光が差し込み始めた。

学校の最寄りのコンビニの雑誌コーナーに、

ずらりと並んだ『リボン』の表紙が、

まるでスポットライトを浴びたように、

奏の目に飛び込んできた。

自分の夢が、形となって、

全国の読者の手に渡る。

その事実に、胸の奥から、

熱いものが込み上げてくる。

指先まで痺れるような興奮が走る。

奏は、まるで宝物でも扱うかのように、

迷わず一冊手に取り、

レジへと向かった。

真新しい雑誌の匂いを胸いっぱいに吸い込み、

ビニールに包まれたその重みが、

ずっしりと腕に伝わる。

これが、自分たちの企画が載った『リボン』。

ページをめくる前から、

心臓が高鳴るのを感じた。

世界でたった一つの、特別な一冊だ。

表紙を飾る鮮やかなイラストが、

奏の心を、さらに高揚させた。


放課後、奏は悠斗と待ち合わせをしていた。

いつもの部室ではない。

校舎裏の、人目につきにくい、

ひっそりとした場所。

夕陽が長く伸びる影を落とし、

静かに風が吹き抜けていく。

まだ少し湿ったアスファルトの匂いが、

雨上がりの空気に混じって漂ってくる。

奏は、手に持った『リボン』を

ぎゅっと胸に抱きしめながら、悠斗を待った。

彼の姿が、視界に飛び込んでくるまで、

奏の心臓は、激しく鼓動を続けていた。

数分後、曲がり角から悠斗が姿を現す。

彼の腕にも、奏と同じく、

真新しい『リボン』が抱えられていた。

ビニールの光沢が、夕陽を反射してきらめく。

二人は互いの顔を見て、

言葉を交わすよりも先に、

その表情だけで、

互いの喜びを分かち合った。

照れくさそうに、しかし嬉しそうに微笑み合った。

その笑顔には、

今日の特別な意味が込められている。

二人の間には、

温かい、心地よい沈黙が流れた。


奏と悠斗は、校舎裏のベンチに並んで座った。

二人とも、手には今日発売されたばかりの『リボン』。

顔を見合わせると、

二人同時に、互いへと雑誌を差し出した。

雑誌の巻末には、それぞれの想いを込めた

「スペシャルメッセージQRプレゼント」の

豪華QRカードが、そっと挟み込まれている。

そのQRカードには、読者への感謝のメッセージと共に、

二人が紡いだ物語の、その先へと続くような、

秘められた言葉が込められていた。


「あ……」

小さな声が、二人の唇から同時に漏れる。

その声には、驚きと、

そして、かすかな喜びが混じっていた。

そして同じタイミングで、

二人はハッとした顔で目を見開いた。

互いの瞳の中に、

同じ驚きと理解が宿っているのが分かった。

二人は顔を見合わせて、

次の瞬間、息を合わせたように

「ふへっ」とか「ひゃっ」とか、

おかしな声を同時にあげてしまう。

それは、照れくささと、安堵と、

そして何よりも深い喜びが混じり合った、

奇妙で愛おしい音だった。

笑いながら、恥ずかしそうに顔を背け合う。

その手が、自然と、

互いの指先を求めるように伸びる。

夕陽が、二人の指先を赤く染め上げた。

そっと手が触れ合い、

そのまま自然に絡み合う。

互いの手のひらから伝わる温もりが、

二人の心を満たしていく。

もうそれだけで、充分だった。

校舎の影が、二人の姿を優しく包む。

その奇妙で小さな声が、

夕焼けに染まる空へと吸い込まれていく。

二人だけの未来へ、

そっと続いていくようだった。

校舎裏の、静かな時間が、

永遠に続くかのように感じられた。


雑誌をベンチに広げたまま、

二人はしばし、静かに語り合った。

喜びと、これからの期待。

「本当に、こんな日が来るなんて…」

奏が、夢見心地な声で呟いた。

悠斗は、小さく頷き、

「ああ。でも、これは始まりだ。」

彼の瞳には、すでに次の目標が映っていた。

「これから、もっと大変なこともあるだろうな。」

悠斗の声には、覚悟が宿っていた。

「うん、でも、二人なら、きっと大丈夫。」

奏は、彼の横顔をじっと見つめながら、

そっと彼の手に自分の指を絡ませた。

悠斗は、一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、

すぐにその手を握り返し、

奏のほうにわずかに体を寄せた。

互いの温もりが、静かに心に染み渡る。


その日を境に、

「リボンドリームボイス」は、

瞬く間に社会現象となった。

SNSでは連日、

「あのボカロ漫画、やばい!」「感動して泣いた!」

といった感想が飛び交い、

メディアもこぞって取り上げた。

特に、祖母世代からの反響は大きく、

「もう一度、漫画の世界を楽しめるなんて」

「孫と一緒に感動を分かち合えた」と、

感謝の手紙が殺到した。

奏の祖母も、

雑誌連動のQRを読み込み、

「これなら、また漫画が読めるね」と、

涙を流して喜んでくれた。

その姿を見て、奏はプロジェクトの真の意義を

改めて実感し、胸が熱くなった。


学校では、

「リボンドリームボイス」は、

誇りとなった。

後輩たちが「私もボカロ調声に興味があります!」

「企画を手伝いたいです!」と、

部室に連日押し寄せるようになった。

奏は、彼らに、自分たちの経験を惜しみなく伝え、

次の世代へとバトンを繋いでいく役割を実感した。

悠斗は、技術的な指導に熱心に取り組み、

未来のクリエイターたちを育成していった。


数ヶ月後。

「推し活ポイント」による声優化が、

ついに現実のものとなった!

編集部会議室では、

編集長が満面の笑みで言った。

「今期の推し活レポートだが、

『リボンドリームボイス』の告白シーンが群を抜いてるな。

もうすぐ声優収録基準を突破するぞ!」

デジタル事業課長が、

興奮気味に報告する。

「読者からの『推し活ポイント』投票が集中し、

ついに声優収録が実現可能になりました!

どの声優さんにするか、社内でも議論が白熱しています!」

悠斗が、満足げに腕を組み、

「つまりさ、読者が“ここに声優つけたい”って思って

支えてくれるんだよな。

俺たちがやってきたボカロ版も悪くねぇけど…

声優版、見たいだろ?」

彼の言葉に、奏は感動で瞳を潤ませた。

「……自分がディレクションしたセリフを、

本物の声優さんが演じてくれるなんて…夢みたい。」


学校では、生徒たちが大盛り上がりだった。

「推し活ポイントで声優化決定だって! やったー!」

「自分たちも作品を育てる一員になれたって感じ!」

彼らの声は、まるで自分たちのことのように弾んでいた。

奏は、「こうしてリボンドリームボイスは

私たちだけのものじゃなく、

次の世代へバトンを繋いでいくプロジェクトになった」と、

未来への希望を誓った。

悠斗と並んで、校庭の桜並木の下を歩く。

春の柔らかな日差しが、

二人の肩を優しく照らしていた。


そして、とある晴れた日の放課後。

奏と悠斗は、

初めて出会った図書館の片隅にいた。

窓から差し込む夕陽が、

ほこりの舞う空気に金色に輝いていた。

二人はそっと手を繋ぎ、

テーブルに置かれた最新号の『リボン』の表紙に並んだ

二つのQRコードを、それぞれのスマホで同時に読み込んだ。

イヤホンを片方ずつ分け合い、二人で一緒に聴く。

スピーカー越しに、

奏の「…君のことが好きです」と、

悠斗の「…俺もずっと、お前のことが好きだった。」という

二人の音声が重なって流れ、

ゆっくりとフェードアウトしていく。

二人は小さく笑って見つめ合い、

自然に手を取る。

その手が、じんわりと温かい。

互いの視線が絡み合い、

言葉にならない愛おしさが胸に満ちた。

ボカロ(VOCALOID)と声優の双方が漫画の魅力を最大限に引き出す、

新たなエンターテイメントの可能性に満ちた、

希望あふれる物語の幕が、今、閉じられる。

彼らの夢は、これからも、

ずっとずっと、未来へ続いていくのだ。

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リボンドリームボイス-企画が通ったら恋も上手くいったみたい- 五平 @FiveFlat

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