『あっち』のエピローグ 亡命生活

記憶を失った順兵と共にわしは霧島の店に向かった。

「お、河川敷にいるじーさんじゃねえか。いいもんでも恵んでもらったか?」

「…S国に亡命したい」

「…金はあんのかじーさん」

「これを換金してくれ。お嬢さんにもらったんじゃ」

辰巳は玲奈からもらったピアスを差し出した

「…じーさん何者だ?」

「これから名を捨てるしがない老人と知的障害の息子じゃよ」

「わかった。手配する。向こうでも達者でな」


半年後わしはズメイ・タツミノフとしてアシモフスキー博士と共同で人工知能の研究をしている。

祖国は佐々木ら「雑魚の会」が政権を掌握したようだ。天神ら旧財閥や特権階級は裁判で有罪となったが死刑になった者は一人もいないらしい。

今は国連への再加盟を模索していると佐々木から手紙が届いた。ボロボロになった国を若人に任せるのは心が痛んだ

学者として祖国の再建に尽力すべきだったと人は非難するだろう

だがわしは化け物に取り憑かれた挙げ句記憶を失った一人息子を優先し亡命した。業人とはわしのことだった。


息子には研究所の掃除の仕事を与えている。元の知的障害のせいで物覚えが悪く大変そうだ。それでも今の不自由な生活でよかったと思える場面がある

「Юнпэй, вот тебе подарок.Шоколадные конфеты с трюфелями для вас!(ユンペイくんはいプレゼント!トリュフあげりゅ!)」

「Спасибо, доктор Азимовский!(アシモフスキー博士、ありがとう!)」

布酢怒がいなくなったからか、はたまた記憶を失ったからか息子は挨拶感謝謝罪ができるようになった

若干「ここ」がたりないのはどうしようもない。けど、だからこそその3つはできるようにしないといけない

わしに子育てのやり直しにチャレンジさせてくれ


もちろん楽観視してるわけではない。ここの警備には順兵が臭った酢のような臭いを発したら射殺するように伝えてある。

その日が来ないのを願うばかりである。

「お父さん、ないてるの?」

「いや、なんでもないんだよ」

「よかった。お父さん、いつもありがとうね!」

屈託のない笑顔でそう話しかける順兵は少年のようであった。

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向こう側からきた布酢怒 山岡裕曲 @beachcape

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