第3話 宴会

「どうかしたか、雪姫すすきちゃん、冬璃とうりちゃん?」

「…あ、ごめんなさい…あの、聞き間違いじゃないんですよね?」

「えっと…何がでしょう…?」

「名前…」

「筒雲 巡って…」

「……?本名、ですよ?」

「昔、この辺に住んでなかった?」

「住んでた…と言うよりかは遊びに来てたが正しいとは思うんですけど…」

「その時に一緒に遊んでたと思うんだけど!!?」

「覚えてない?お兄ちゃん!?」

「うーん…」


神墨かみずみ 雪姫すすきさんとその妹の冬璃とうりさん。

昔一緒に遊んだことがあるって言ってたけど、正直記憶がない。

大体、「めーくん」だの「巡お兄ちゃん」だの、そんな分かりやすい呼び方をしていた子なんていたかな。

私は一人っ子だから当然兄弟なんていない。

…はずなんだが。


「お?知り合いだったの?」

「いやぁ…ちょっと記憶に…」

「「えぇぇええ!?」」

「そう、なのか?二人の反応見てたら嘘でもなさそうなんだが…」

「…」

「まぁいいか。話し戻して軽く一言!」

「え!?あ、えっと筒雲つつぐも めぐりです。つい昨日この町に引っ越してきました。これからよろしくお願いします!」

「じゃあみんなコップ持って!改めて―乾杯!!」


乾杯してからは質問の嵐。

どこから来たのか。どこに住んでるのか。彼女はいるのか。雪姫ちゃんと冬璃ちゃんとの関係は。いつまでいるのか。お手伝いをする気はないか。趣味は。なぜ来たのか。などなど。

1つ1つ丁寧に、馬鹿正直に全部答えた。

東京から来て。ばあちゃんの家を貸してもらって。彼女なんていなくて。本当に記憶がなくて。しばらくいて。内容によってはと答え。わからない、と言って。


でも、ここに来た理由だけは、曖昧に答えた。


質問攻めが終わってからは、テーブルに置かれた豪華な食事を楽しんだ。

一番目を引いたのは鯛の姿造りだろうか。インパクトがすごい。

なんでも今日の朝釣れたのだとか。刺身はすごかった。身が透き通っていて、食感もプリップリで、初めてわさびと一緒に食べたのだが虜になってしまった。


「ここは港も近いし、漁師もいれば趣味で釣りをやってる奴もいる。海鮮の美味さはどこにも負けねぇな!」

「すっごく美味しいですこれ」

「鯛をお気に召したか、贅沢な口だねぇ。おいあんさん、最後の〆に冷たい鯛茶漬け頼む!」

「は~い!あと二尾残ってるし、全員分ありそう!用意しておくわぁ」


なんだろうか、女将のような雰囲気を感じた。


「おかわりいかがしら?筒雲くん」

「あ…えっとお願いします」

「ふふふ。育ち盛りなんだしもっと食べてね。あ、私は南原なんばる あん名月町ここからは少し離れてるんだけど、温泉旅館の女将をやってるわ。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「はいこれ、旅館の場所のメモと私の電話番号。困ったことがあったら連絡してね。多分、この中で一番に近い年齢だろうし」


『旅館 四季織屋しきおりや』というパンフレットに、最後のページに張られた小さなメモ。場所はここからおおよそ1時間で、見た感じ海に近そうだった。

後日調べてみると、ここの地域どころかエリアで一番評価が高い旅館だった。

そんな遠い場所からわざわざ来たらしい。

杏さんと挨拶を交わしてからワラワラと他の人たちも挨拶しに来た。

兄弟で漁師をやってる辰樹たつきさんと敦六あつむさん。その奥さんのまいさんと光代みつよさん。婆ちゃんの一番の友達だと言う多美子たみこさん。農家の義雄よしおさん。

……だいたい20人ぐらいいるが、全員の名前を覚えられる自信がない。


「そういえばさっき、雪姫ちゃんたちと知り合いっぽい話してたけど実際どうなんや?」

「雪姫ちゃんも冬璃ちゃんもかなりべっぴんさんやからの〜〜〜どっちを嫁にするんだ?」

「「「えっ」」」

「お父さん酔いすぎですよ!!!!いい加減にしてください!」

「がはははは!!じゃが気になるではないか!」

「そ、それは…」

「実際、どうなんじゃ?」


互いに顔を見合わせた。

私含めて3人ともひどい顔をしていたと思う。

しばらく沈黙が続いてから、耐えきれなくなったのか冬璃ちゃんが笑いだした。


「あははははは、2人とも顔ヤバいよwww」


おもむろに携帯を取り出しパシャリ。


「なっ!?」

「ちょっと冬璃!今の写真消しなさいよ!!」

「やだよ〜ん!ていうかお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃん撮ったんだよ?」

「え」

「へへへ~待ち受けにしとこ~っと」

「…やめてくれ…」

「ほら!めーくん嫌がってるじゃない」

「えー」

「いやそのめーくんて呼び方もどうにかならないんですか…」

「めーくんはめーくんだよ。すごい気に入ってたじゃん」

「えぇ…?」


「仲睦まじいな」

「若者が増えて、町が賑やかになるわ」

「今度農業手伝ってもらうわい」

義雄よしおさんだけずるいですよ!私たちの漁にも来てもらいましょう!ね、兄さん」

「そうだな!ぜひお願いしたい!」

「「「あっははははははは」」」


賑やかな宴会はあっという間に過ぎた。

奥の方から南原なんばるさんがおぼんに小さな茶碗を載せてやってきた。


「みなさーん、〆の冷やし鯛茶漬けですよー」


ちょうどいい頃に持ってきたと言わんばかりにみんな食べ始める。

…冷たいお茶漬けってこんなおいしかったんだ。

鯛から取れる出汁がこれまたいいアクセントになっている。

お茶もなんだか緑茶のような。

とにかく、すごく美味しかった。


―――――――――


「さて、宴もたけなわですがそろそろお開きにしたいと思います。お忙しい中お集まりいただきありがとうございました」

「そう畏まるなって慎吾。俺たちゃもう歳で暇してんだし、久しぶりの宴会で楽しかったわい!」

「そうよそうよ~、夏祭りの打ち上げ以外でこんな賑やかになるなんて久しぶりで嬉しいわ」

「そう言ってもらえると嬉しいな。こんなきっかけを作ってくれた筒雲くんには感謝しなきゃな!」

「そうね!来てくれてありがとう、巡くん」

「また活気あふれるわい」

「たまに遊びに行かせてね」


「…っ!今後ともよろしくお願いします!!」


「じゃあ解散!!あとは若い者に任せて老いぼれ共は二次会でもしに行くか!!!あーっはっは」


そう言って皆さんぞろぞろと帰っていった。

いい人たちだった。いい出会いになった。

楽しく過ごせそうだ。

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想いは近く、願いは遠く。 はつのひまほろ @mhrb_n

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