第2話 引っ越してからの一日
よく寝た。久しぶりによく眠れた気がする。
心地のいい朝だ。
窓を開ける。空気が美味しい。
都会の喧騒から離れるだけでこんなにも心が穏やかになるのか。新たな発見である。
転校先の高校は夏休みが終わった9月から登校することになっているので、約2ヶ月ほど暇がある。
その間何もしないわけじゃない。
まず今日は業者が来るから、それまでとにかく掃除。物を置く場所も決めておかなければ。
明日からは少し離れた大きい町でバイト探し。高校生で入れるとしたらコンビニか喫茶店だろう。あとやることがあるとすれば庭の手入れ。
ひとまず昨日の続きだ。昨日は使えそうなものとそうでないものを分けた。
使えそうにない物は蔵に入れておきたいのだが…実はまだ蔵の中を見ていない。
恐る恐る鍵を開け重たい扉を開ける。
土埃やら蜘蛛の巣やらかなり悲惨な状況ではあるが、思いのほか整頓されていて呆気にとられた。
パッと目に入ったのは冷蔵庫。―冷蔵庫が二つ…?
その上にはオーブンやら炊飯器やら、近くを見ても様々な家電が置かれていた。
ただケーブルとプラグが丁寧に梱包されていたのが不思議だった。
思い返してみれば家の中に家電が全くなかったような気がする。
念のため家に戻り確認してみると、確かに家電がなかった。
まだ現役なのだろうか。ホコリを払って一応外に出しておく。
そして冷蔵庫である。片方は一般的なサイズだが、もう片方は横に広い。というかこっちだけ電源が入っている。開けてみると米が6袋も。しかもこれ30キロ。
しばらく主食には困らなそう。ありがとう、おばあちゃん。
冷蔵庫も何とか外に持ち出したが家の中に入れるには一人じゃ出来ないので引っ越し業者にお願いしてみよう。
蔵の中には案外使えそうなものがたくさん入っていた。
タオルや石鹸といった貰い物が1度も開封されずに箱ごと残してあった。
他には皿やコップ、包丁、ブラシなどの掃除用具、剪定バサミや鎌、チェーンソー、ノコギリetc…何より嬉しかったのはクロスバイクだった。
これで移動がだいぶ楽になる。本当にありがとう、おばあちゃん。
蔵は2階もあってなんだか秘密基地みたいでついつい無我夢中になっていたが、気付けば午前10時。お腹が空いた。
「ごめんくださーい」
…業者が来てしまった。こうなったらご飯は昼まで我慢だな。
段ボールが4つに長年愛用してきた折り畳みの机と椅子。
庭に置いてある冷蔵庫の件も快く承諾してくれてとても助かった。
生活用品が家の中に揃って、ようやく住居という感じが出てきた。
あとは…
「どちら様?」
「えっ…」
業者以外の声が聞こえて素で反応してしまった。
「ここ、
「え、いやそんなこと言われましても…私はばあちゃんの遺言でここに引っ越すことになっただけなんですけど」
「ばあちゃん…?おめぇ、名前は」
「
「筒雲…確かに婆さんと同じ苗字だな。てことは嘘ではなさそうだな。安心した。」
「えっと…あなたは…?」
「あぁ悪い悪い、俺は
「よろしくお願いします」
挟馬さん。50代ぐらいだろうか。身長がそこそこ高く、体格がいい。声がデカく、かなり熱血な人だとわかる。
「どうだ、夜に歓迎会でもやるか」
「お願いしてもいいですか」
「おうよ。任せな」
良かった。田舎では人付き合いが大事というから、引っ越したからには挨拶をしなければと思っていたからちょうどいい。
「まだ土地勘分からんだろ。また迎えに来るぜ」
「ありがとうございます、助かります」
夜に急な予定が入った。なるべく早めに片付けてしまおう。
――――――
そして時間はあっという間に過ぎた。だいたい6時半頃だろうか。
「おめぇ歳いくつだ?」
「今年で17です」
「17…高校2年生か。ちょうど1人同い年の子がいるな」
「そうなんですか」
「あぁ。
「…仲良くできるかわかりませんけど、わかりました」
「大丈夫大丈夫、すげぇフレンドリーな子だからすぐ仲良くなるさ」
「ははは…」
廃校前の道を右に行って、少し上った先に明るく光ってる建物が見えた。
ガラガラガラと戸が開くと中からすでににぎやかな声。
「みんなー連れてきたぞー」
中から年老いた爺さんや婆さんの元気な声が。
「お!!新たな町民のお出迎えだ!」
「ささ、こっちこっち」
「座って座って~」
言われるがまま案内された場所に座った。宴会場…の一番前だった。
そして二人、この集団には似合わないぐらい若い女性がいた。
おそらく挟馬さんが話していた同い年の人とその妹だろう。
とりあえず目が合ったので軽く会釈だけしておいた。
「とりあえず生でいいか?…って高校生だったな!!!わははははは」
「もう
「え、えぇ。お茶でお願いします」
「よし。じゃあ早速始めるか!…コホン。みんな注目!新しくこの町に住むことになった、
挟馬さんの声を遮るようにガシャン、とコップが落ちた。
音のした方を見るとあの姉妹だった。
口をパクパクさせ、あり得ないものを見るような目でこっちを見ていた。
「めーくん…?!」「巡お兄ちゃん…?」
「………え?」
あまりにも親しげな呼び方を、初対面のはずの二人にされて困惑した。
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