第43話 三角公園、約束の5分前


夕方の三角公園は、

いつものように静かで、

だけどどこか今日だけは、違う色に見えた。

真悠はひとり、古いブランコのそばで立ち止まっていた。

制服の胸ポケットにしまったスマホには、

「来てくれたら嬉しいな」

とだけ送った、たった一通のメッセージ。

風が吹いて、髪がふわりと揺れる。

(伝えたいこと、ある。

でも“はっきり言える勇気”はまだ、私にはないかもしれない)

それでも、前に進みたいという気持ちはあった。

――そして、足音。

砂利を踏む音。

たしかに、近づいてくる誰かの気配。

真悠は振り返らず、静かにその存在を感じた。

そして。

「……真悠」

懐かしいような、でもどこか距離のある声。

真悠は、そっと振り返った。

その瞳に映した。そして——

言葉はなかった。

ただ、

やさしく微笑んだ。

あたたかくて、

どこか切なくて、

でもたしかに前を向いた笑顔だった。

その瞬間、すべての音が静かになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

交差する思いの彼方 脇井実唯 @myao_3939

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ