第74話 結界切断

暗雲を切り裂くように雷が鳴り響いた


風が吹き、雨が降り注ぐ


その中を一隻の船が進んでゆく


高波が船を揺らす中で黒いレインコートを来た一人の女が揺れる船首に立っていた


「ここか?ジル?」


ブライドは端末で船内にいるジルに尋ねる



船内ではNo.ⅠジルとNo.ⅩⅠニーナが船首の様子が映し出されたモニターを注意深く見つめている


「ええ。磁場が乱れている。ここが結界と外の世界のハザマよ。そしてメノウの体内にあるナノマシンの反応はその海の向こうにある」


この結界が張られた海を船で進めば、同じ場所を彷徨い続けることになる


目的の島には辿り着くことはできない


昔からこの場所は『魔海』と呼ばれていた


「すべての計器が狂っている。パンドラ様から聞いた時は、結界に隠された島があると聞かされた時は驚きましたが・・・人ならざらずものたちが暮らす島、そんなところが本当にあるなんて」


「大災害が起きた五十年前から、この世界は異世界と徐々に融合していっている。あの世界から来た存在が町を作っていてもおかしくはあるまい」


ーー侵食現象、学者たちは世界を変えるこの現象をそう呼んだ


あちらの世界から来た生物や、植物が、徐々にだがこの世界に侵食していっている


その中には動物や植物だけではない、異世界の人間やエルフ、ドワーフなどの亜人、そして知恵を持つ魔獣も含まれている


魔獣の中には人間と交配が可能な種族も存在している


No.Ⅵレイス=ヴァナルガンドのように人間と魔物の混血の存在も確認されているのだ


誰かがなんとかしなければ、いずれ、この世界は人は異世界と同一の姿になり、多種多様に人間という種も変わって行くだろう


それをリベラルは多様性の世界と呼ぶのか


保守派の人間が混沌の世界と呼ぶのか


どちらの主張が正しいのかは未来の人間にしかわからない


ジリリリリ!!


ベルが船内に鳴り響く


「ブライド、そこだ。二重牙バイデントを抜け」」


了解ヤー


ジルの言葉に従いブライドが腰のハデスをホルスターから抜く


その後ろでは黒いドレスの女性が恋焦がれるようにうっとりした眼差しで見ていた


吸血鬼、No.Ⅳフランチェスカだ


「ああ、いよいよ見られるのね。二重牙が」



二重牙バイデント解放」


ーー命令オーダー受託。システムオールグリーン。魔力回路接続確認。当銃はバイデントモードに展開します


銃が変形して魔力で作られた二又の剣が出現する


「くっ」


身体中の魔力が銃に吸われる


魔銃形態ペルセポネーより、マシだが、この感覚には慣れない


早く仕事を終わらせなければ


二重牙バイデントを振りかざす


ブライドの目にはその時はっきり見えた


目の前の海を隠そうとする結界の鎖を


「はああああああ!!」


その不可視の鎖を目掛けてブライドは剣を振り下ろした


世界が開かれる


嵐の世界から凪の海に船はたどり着いた


後ろはまだ大雨だが、前方の世界は雨も雷もない、穏やかな海である


「いい、いい!素敵、素敵過ぎるわブラック・ブライド!」


雨でぐしょぐしょに濡れたフランは膝を甲板について嬌声をあげる、雲ひとつない天を仰いで絶頂する!


急速に作られる脳内麻薬『ドーパミン、セロトニンオキシトシン、β-エンドルフィン』


戦闘本能と性的本能が一気に昂り、快楽として脊髄を上り、脳を駆け回るのだ


フランの黒い花嫁ブラック・ブライドに対する想いは一つ


それは恋焦がれるような、情熱的で純粋な妄執だった


「世界を覆うあれだけの結界さえ、一振りで切り裂くなんて、ああ、ああ〜!!」


ーーブラック・ブライド、必ず私があなたを倒すわ。他の人には渡さない。この私が絶対に


「島が見えます、ジル」


島を視認したニーナが叫ぶ


花嫁ブライドは嵐を切り裂くことができた。上陸しましょう。私の勘では抜き差しならない状況になっているわ」


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BLACK BRIDEー異世界と繋がった世界。黒い花嫁は変形する魔銃で魔物を撃ち堕とすー 鷲巣 晶 @kusyami4

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