君の声を写すカメラ

三角海域

君の声を写すカメラ

 古道具屋で見つけた古いポラロイドカメラ。「その人が考えていることを現像できる」なんて、店主の冗談だと思っていた。

 

 クラスの隅で一人絵を描いている彼女を見かけた時、なぜかカメラを向けてしまった。

 シャッター音。

 現像された写真には、文字が浮かび上がった。

『また一人で昼食。みんなは私のことをどう思っているんだろう』

 彼女は聴覚に障害があって、いつも一人でいる。話しかけたかったけど、手話もできないし、どうしていいかわからなかった。


 翌日、筆談用のメモ帳を持って彼女の隣に座った。

「絵、上手だね」

 彼女は驚いたような顔をして、でも嬉しそうに微笑んだ。

 それから毎日、筆談で話すようになった。彼女の絵の話、好きな本の話、小さな日常の話。

 

 でも時々、気になってカメラを使ってしまう。

 フィルムを使い切ればカメラの力も無くなると店主は言っていた。フィルムを使い切ったあとも私は彼女と変わらずに仲良くいられるだろうか。

『本当に私と話していて楽しいのかな』

『迷惑じゃないかな』

『いつか飽きられるんじゃないかな』

 

 そんな不安ばかりが写真に写る。

 ある日、彼女が描いた絵を見せてくれた。二人で笑っている絵だった。

「これ、私たち?」

 彼女は頷いて、メモに書いた。

『はじめて友達ができました。ありがとう』

 

 その瞬間、私は気づいた。

 彼女の不安を知ることより、彼女の笑顔を見ることの方がずっと大切だということを。

 本当の気持ちは、言葉ではなく、一緒に過ごす時間の中にあるのだから。

「ねえ、気付いてないかもだけど、あなたの笑顔って最高に素敵だよ? カメラ越しに見るなんてもったいないよ」

 そう書いたメモを見て、彼女は恥ずかしそうに笑う。

 もうカメラはいらない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の声を写すカメラ 三角海域 @sankakukaiiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ