第23話
「旦那様、到着しました」
馬車が止まった。
馬車を操縦していたアルベルトと同じ黒いマントを羽織った男がそう声をかけてきた。
アルベルトが先に降り、「こちらへ」と手をリリシアに差し出しす。その手を握り馬車から降りた。
降りると、そのまま目の前に立つアルベルトについていくよう歩き出した。
処刑執行場所であるアルファニアには異様な空気が流れていた。
アルファニアは円形の施設。
中央に処刑台だろうか、大きな木製の台が置かれており、その周りに人だかりがある。
木製の台と人の間には、数人の処刑人らしき人間が立っていて、そのためか台と人だかりとは適当な距離がとられてた。また、台にはアルベルトたち処刑人とは違う服装の男が立っている。
それを見下ろすような形でアルファニア上部に設けられている観覧席のような場所に煌びやかな装いをした大勢の人間が座っている。
けっして騒がしいわけではないが、リリシアが入ったときに少しざわめきがおきた。
アルベルトの後ろを歩き一直線に台へと向かう間、全員の視線を感じた。内容までは聞こえないが、こちらを見ながらなにかコソコソと話しているのが聞こえる。
やはり木製の台は本来の処刑台だったようで、アルベルトに続くように台へと上がった。これにより処刑台にはリリシアとアルベルト、そして先に立っていた男の三人となった。リリシアが処刑台に上がると周りの市民のざわつきが大きくなった。
遠目ではよくわからなかったが、先に立ってい男の胸元のワッペンには見覚えがある。そのワッペンは高等裁判院の者の証だ。
「これより、リリシア・ミッシュバルクの死刑執行を始める! 罪人名ダリリシア・ミッシュバルク、罪状背神罪、刑罰斬首刑、執行人アルベルト・アルバイン!」
高等裁判院の男がリリシアとアルベルトが歩いてきた方を向き、声を張り上げる。
アルベルトも同じ方向を見ていたので、それに倣い振り返る。
あ! あれは!
振り返って初めて気づいたが、入ってきた入口の上部に部屋のようなものが設けられており、そこに国王の姿があった。その隣には王妃の姿もあり、ふたりは大きな椅子に腰をかけてこちら見ている。そしてその背後にグランゼーノ王子とエミリヤが立っていた。ふたりは肩が触れるぐらいにかなり密着している。
ふたりも来ていたのね。元婚約者が目の前で処刑されそうになっているというのにグランゼーノ王子はなにかニヤけながらこっちを見ているし、ほんとにイヤな奴だわ。
リリシアはグランゼーノの様子を不快に思った。
「では、アルベルト殿お願いします」
その横で高等裁判院の男が小声でアルベルトに合図を出す。
「……」
「アルベルト殿?」
アルベルトが刑を執行しないからだろう。高等裁判院の男は怪訝そうに顔をうかがっていた。
「処刑人アルベルト・アルバイン! 今日は皆さんにご報告があります! 私はミュラー・ミッシュバルク公爵令嬢であるリリシア・ミッシュバルクと婚約することになりました! ですので今回の処刑執行は致しかねます!」
いつも落ち着いているアルベルトが、アルファニアに声を響かせた。
処刑台に立った処刑人アルベルト。その彼から出るはずもない言葉にすぐには理解が追い付かなかったのか、沈黙が流れる。
「何を言っているんだ!」
そのアルファニアの静けさを打ち破ったのはグランゼーノだった。国王の後ろにいたグランゼーノが血相を変えて前に出てくる。
「そんなことがまかり通るはずがないだろう!」
「そ、そうですぞ。アルベルト殿、これはどういうことですか」
威勢のいい王子とは対照的に国王が動揺しながら問いかける。
「どういうことも何も、私はここにいるリリシア・ミッシュバルクと婚約したので処刑をすることはできないということです。ただそれだけのことです」
「ただそれだけのことじゃないだろ!」
王子はかなり怒りを見せていた。
それに感化されたのか、貴族・市民の中からも、
「馬鹿なことを言うな!」
「グランゼーノ王子のおっしゃるとおりだ!」
「さっさとそこの異端者を処刑しないか!」
「処刑執行人ごときが! 王族には向かうとは何事か!」
と怒鳴り声が浴びせられた。
大多数の人間はまだ理解できないといった様子で、黙っていたが、王子を含め一部の人間から非難が噴出した。
次第にその声も大きくなる。
特に周りの市民たちは制御を失いそうなくらいに興奮しており、処刑台に近づこうとするのを、処刑人たちが必死に抑えている。
や、やばいんじゃ。ど、どうなるのかな。
想像以上の非難の多さにやはり処刑されるのではと不安になった。
しかしその不安を、アルベルトが払拭してくれることとなる。
「その女は、神に背いたんだぞ」
「いった……」
感情が高まった市民の誰かが小石を投げつけた。それがちょうどリリシアの頬にあたる。思わず頬を押さえた。
「大丈夫ですか!」
アルベルトが心配そうに顔を覗き込む。
「だ、大丈夫ですわ」
そう答えると鳴りやまぬ非難の中、アルベルトが腰の剣を引き抜き天に向けて掲げた。
何をするのかとその様子を見守っていると、処刑台に掲げられている一本の旗をアルベルトが切った。
リリシアの罪状は背神罪。
そのためだろうか、ヴァエンダ教のシンボルマークが描かれた旗が処刑台には建てられていた。
その旗をアルベルトは切り落としたのだった。
切られた旗は地に落ちた。
「皆さん、私は処刑人。我々は普通の国民とは違う扱いを受けてきました。それはヴァエンダ教の信仰についてもです。我々がヴァエンダ教への信仰を強制されることはなかった。それどころか処刑人がヴァエンダ教を信仰すること自体を嫌っていた。ここにいるリリシアはその処刑人であるアルベルト・アルバインの婚約者です。ヴァエンダ教から切り離されたこのアルベルト・アルバインの婚約者です。では、そんな彼女のヴァエンダ神への不信仰を誰が裁くことができるのでしょうか」
それはこじつけといえばそうだが、ただアルベルトの言葉に、非難が完全に止んだ。
「しかし……」
「よろしいですね。リリシアは処刑人の婚約者です。これまでの風潮を考えればリリシアがたとえ異端の経典を持っていたとしても罪を問われるいわれは全くない」
グランゼーノに先ほどまでの威勢はない。
「最後に!」
アルベルトは今までで一番大きな声を出した。
「全員、よく聞きなさい。私の婚約者であるリリシアに仇なすことは、処刑人筆頭アルバイン家当主であるこの私、アルベルト・アルバインに仇なすことと同義である」
アルベルトはもう一度、剣を天に掲げた。
「そのことを十分、理解しなさい。もしリリシアに危害を加えるならば、このアルバインの剣が必ず振りかざされることを」
そして、ものすごい速さでアルベルトが剣を振った。
はっきりと空を切る音がした。
「それはたとえ王族とあろうとも。よろしいですね陛下、王子」
最後にアルベルトはグランゼーノたちの方をしっかりと見つめ、釘を刺した。
一連、怒鳴り散らかしているわけではなかったが、すさまじい迫力を感じた。
まさかアルベルトがここまで言ってくれるとは驚きだった。
だって、リリシアとの婚約は仮であることを強調していたし、半ば強引ないきさつを考えれば、しょうがなく婚約を了承をしてくれたアルベルトは、まだリリシアのことをそこまで思っていないはずだから。
王子は最後の一言に、無言で後ずさり、戦意喪失、おびえた表情を浮かべた。
その様子に、リリシアは処刑を免れたことを理解した。
その安堵で、全身が脱力し、その場に腰をついた。
悪役令嬢と死の貴族 峰雲緑氷 @nogikums
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