第22話

 処刑執行日当日。



 いよいよだわ。ほんとに大丈夫よね……。



 部屋で待っているとアルベルトが迎えに来てくれた。あの日以来、会っていなかったので数日ぶりに顔を見て嬉しくなったが、それ以上に今日は緊張感があり、体が強張っていた。

 本来、今日は処刑される日。実際、今から向かうのは処刑執行場所として指定されているアルファニア。

 正直どうなるかわからない。

 アルベルトには処刑は免れるだろうといわれたが、当日を迎えて、本当に都合よくうまいこといくだろうかと不安にかられた。

 

「では、行きましょう」


 迎えに来てくれたアルベルトとは会話をかわすことはなかった。

 心理状態がそれどころではないこともあったが、それ以上にアルベルトの纏う空気が張り詰めていたため、声をかけることなどできなかった。

 夜会の日にも感じなかった、先日、捕らえられている部屋で二人っきりの時にも感じなかった恐怖をアルベルトに対して感じた。

 そんなアルベルトの腰には剣が収められている。



 沈黙と共にアルベルトに連れられ馬車に乗った。 

 夜会の日、ここに連れてこられたときは馬車に一人だったが、今日はアルバインも乗っている。

 リリシアとアルベルトは向かい合わせ。

 アルベルトのことを見ることできない。

 膝に落とした視線が、馬車の振動で小刻みに揺れる。

 静寂が一層気持ちを重くさせた。



「どうしたんですか。今日は」


 馬車に乗って少し経った時だった。流れる静寂のなか、意外にもアルベルトが言葉を発した。


「え?」


 驚いたリリシアは反射的にアルベルトの方を見た。そこにはさきほどの張り詰めた空気はなく表情こそ変わらないが、どこか穏やかさがあった。


「いえ、今日はやけにしおらしいなと思いまして」

「しおらしい……?」

「リリシア様はいつもおてんばですから」

「おてんば……って!」

 リリシアの反応にアルベルトが「ふふっ」と笑う。

「失礼ですわ、アルベルト様。私はいつだっておしとやかなレディですわ!」

「それはそれは、失礼しました。すみません」

 と言いながらまた笑った。


 か、からかわれているわ。私、すっごい不安だったのに!

 リリシアは少しムッとした。だから仕返しをすることにした。

 もう許さないわ。アルベルト様が悪いんだから。


「アルベルト様、ひどいですわ。私、処刑のことで心配だったのに! そんな私をからかうなんて、傷つきました」

「すみません、すみません」

「これは謝罪だけでは済みませんわ! なのでアルベルト様の隣に座りますね」

「え?」

 アルベルトの表情から余裕が消えた。


 そうそうこれこれ。アルベルト様が私をからかうなんて百年早いんだから。それに別に隣同士で座るなんて普通のことだわ。


「いいですわよね。だって私とアルベルト様は婚約者ですもの。何もおかしなことはありませんわ」

「ダ、ダメです」

「何ですか、婚約者だからいいでしょ」

「今はまだあくまで罪人と処刑執行人のていなんですから」

「ていって何ですか。私はもう婚約者のつもりですよ。アルベルト様も了承してくれたじゃないですか」

「それは、そうですが……」

「それにあんな刺激的なキスまでしたのに」

「だ、だから、それは、リリシア様が無理やり……」


 キスときいてアルベルトの頬が少し赤くなったように見えた。

 やっぱりアルベルトをからかうのは楽しい。さっきまでの重い気持ちはいつの間にか消えていた。

 ただ、最初はからかうつもりだったが、あまりにもアルベルトに拒否されるので、もうこうなったら何としても隣に座ってやろうと、

「じゃ、隣に座りますね」

 揺れる馬車のなか、立ち上がった。

「リ、リリシア様。危ないですから座ってください」

「大丈夫ですわ」


 アルベルトの忠告を聞かず、一歩、二歩進む。

 三歩目の足を上げた瞬間、なにか大きめ石でも踏んだのだろうか、馬車が大きく揺れた。


 あっ……まずい……。


 普通に立っている分には大したことのない揺れだったが、片足だけのリリシアの体は重心を失った。


「ほら。いったでしょう。大丈夫ですか」


 リリシアの体を抱き寄せる力強い手。見上げる先にはアルベルトの顔。

 完全に倒れると思ったが、アルベルトが立ち上がって支えてくれた。


 アルベルト様……。


「ん?……リリシア様、どうされました」

 リリシアは助けられたことにうっとりとしてしまった。

「アルベルト様ったら……意外と情熱的なんですね。こんなに力強く抱きしめてくるなんて」

「な! ち、違います。これは仕方がなく」

「そんな、今もこうしてずっと私を抱き寄せてるじゃありませんか」

「あ、いや、ってリリシア様、離してください」

 リリシアの指摘に焦ったように離れようとしたアルベルトだが二人の体は離れない。なぜなら、リリシアがしっかりとアルベルトをつかんでいるから。

「もう、しょうがないですね。いつも淡々として興味ないように装っておいて、アルベルト様も男の子ってわけですね」

 ここぞとばかりにリリシアは攻める。

「だから、違います。危ないですから早く座ってください」

「え! 隣にですか!」

「違います!」


 ふぅ、もうそろそろいいかな。


 さすがにからかいすぎたのでアルベルトに言われた通り、離れてもともと座っていた席に着いた。

 やっということを聞いてくれたといわんばかりに息を一つつきながらアルベルトも元の席に座った。


「アルベルト様、じゃ、帰りは隣に座っていいですか」

「えっ、いや、それは……」

「いいですよね! だってアルベルト様の言い分からすれば帰りは婚約者として馬車に乗るんですから!」

「んっ……」

 アルベルトは顔を窓の方に背け、外の方を向いて動かなくなった。


 ま、いっか。今はこの反応をみられただけで。



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