第21話
キスしたせいで気を失ったみたいだわ。
リリシアは先ほどまでアルベルトが座っていたソファに座っていた。その目下には目を閉じたアルベルトの顔がある。
アルベルトはリリシアがキスをしたせいで気を失っているようだった。倒れたときは焦ったが、呼吸もあったのでとりあえずソファに寝かせた。
アルベルトは身長も高く体格がよかったので、苦労したが、なんとかソファに寝かせることができた。
自分のせいでアルベルトが倒れてしまったという少々の申し訳なさはあった。もちろんそれはあったが、アルベルトはリリシアの想い人。どうやら気を失っているだけのようだし、それにもとはといえばアルベルトが帰ろうとしたのが悪いんだからと、せっかく眠っているこの際だと、アルベルトの頭の方に座り、自分の膝の上にアルベルトの頭を乗せた。
ほんと、かっこいいわぁ。この人とキス……したのよね。
目を瞑っていてもアルベルトはかっこよかった。起きている間は常にかなり気を張り詰めており、緊張感を漂わせていたが、今、それはない。とても穏やかな寝顔だった。
その表情を見ながら、少々、というかかなり強引だったが、初めてのキス、しかもアルベルトとのキスを回顧した。アルベルトとキスしたときに全身に流れた衝撃、鼓動の高まり、柔らかな唇、全部全部鮮明に覚えている。
あのままアルベルトが倒れなければ、あのまま何分でも何時間でもしていられた。だから正直、まだまだキスはしたりなかった。アルベルトの顔を見ていると、もう一度、あと一回だけと欲求がどんどん高まっていく。
気失っているし、してしまおうかと思ったが、客観的に考えてそれはちょっとまずいなと何とか自制した。
やっぱり、申し訳なさはあるし。
でも、この状態のままでは生殺しな気分でもあった。なのでせめてもと思い、アルベルトの頬を触った。
ツンツン……ムニムニ……。
これでどうにか欲求を抑えることができた。
あっ!
そんなことをしていると、膝の上のアルベルトの目が開いた。
「……ん……?」
アルベルトは寝ぼけた様子で、焦点が定まっていない。
「おはようございます」
「リ、リリシア様……?」
なのでぐんと顔を近づけた。
アルベルトは、リリシアの顔をみると目を大きく見開いた。
「私がキスをしたら、気絶してしまいましたので私の膝でお休みいただきました」
「キス……膝……あっ!」
リリシアの説明に今の自分の状況を理解したのであろうアルベルトが、慌てて起き上がろうとしたので、
「ダメです、アルベルト様。まだ返事を聞いていませんわ」
起き上がれないよう頬を抑えた。
「返事?」
「えぇ、求婚への返事です。まだアルベルト様からの返事を頂けていませんわ。私との結婚を承諾していただけましたら開放して差し上げます」
そうだ、まだ返事をもらっていない。リリシアはアルベルトが求婚を受けてくれるまで返すつもりはなかった。
そしたら、観念したといった様子をアルベルトが見せた。
「はぁ、わかりました」
「えっ!」
その言葉に、リリシアは驚き慌てた。
「そそそそれって。結婚してくださるということですか。わわわ私と」
まさかこんなにあっさりアルベルトが折れてくれるとは思わなかった。絶対抵抗されると思っていたので、意表を突かれた。
「落ち着いてください、リリシア様。今すぐ結婚するわけではありません。婚約です。あくまでもまだ婚約。しかもまだ仮の婚約です」
「えっ、仮?」
ん? 婚約はしてくれるのよね? 仮ってどういうこと?
今すぐの結婚ではなかったが、婚約者になるという点に関して不満はなかった。
が、仮の婚約者という部分に引っかかた。あまりにすんなり受けてくれたということもあって、まさかその場しのぎで誤魔化しているのではないかと疑った。
「えぇ、仮です。私はまだ完全にあなたを信用しているわけではありません。正直、処刑を免れるためだという疑いも私の中には残っています。だからそこまで言うなら仮の婚約を結びましょう。もちろん周りには仮であることはいいません。まだ私はあなたのことを知らない。だからあなたのことを見極めさせてください」
「見極め……」
「えぇ。リリシア様、あなたのことを知り、そのうえであなたの私への思いが信用できるものだと思えたら、そのときはよろしくお願いします」
「本当ですか」
「えぇ」
「うんうん、そうですよね、そうですよね。淑女の唇を奪っておいて、その責任を取らないなんて、そんなことは誠実なアルベルト様はしませんわよね」
「唇……って、それはリリシア様が……」
「はいはい、言い訳はいいです」
その頬を赤らめるアルベルトに疑う気持ちは完全に晴れた。
うんー、ま、いいか。仮とはいえアルベルト様と婚約者になれるわけだし。私の愛を思いっきりぶつけて惚れさせてみせるわ。
「今はそれでいいです。でもすぐに私のこの愛をアルバイン様にわかってもらって、正式な婚約を結んでもらい、結婚してもらいますから。覚悟しておいてくださいね」
「わかりました、わかりました。では、我々のことはどうせ五日後の死刑執行の日に王族貴族も来るでしょうからそこで報告しましょう。それまでは申し訳ないですがここにいてください」
「でも、それで処刑されないで済むのでしょうか」
せっかく婚約ができてもそこが問題だった。アルベルトと婚約しても処刑されないとは限らない。
「大丈夫でしょう。処刑人である私との婚約です。リリシア様の生い立ちを考えれば、彼らにとってそれは処刑以上の罰に感じられるかもしれません。なので反発はそこまで出ないでしょう」
「そうですか」
リリシアは、その言葉にホッとした。
「では私は屋敷に戻りますね」
「えっ、帰るんですか。泊って行ってもいいですよ」
「泊まりません! あくまでも貴方はまだ処刑を待つ罪人の身なのだから」
アルベルトが起き上がろうとする。
ので、もう一度頭を押さえる。
「待ってください。泊らなくていいですから。もう少しだけここにいてください」
はぁ、すこしだけですよ、と呆れた様子でアルベルトは頼みを飲んでくれた。
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