今日も君は、勝手に俺んちでくつろいでる。

ナマケロ

〇〇〇

☆登場人物(設定)

・新海 悠真(しんかい ゆうま)

大学3年生。一人暮らしでわりと堅実タイプ。

ひよりの自然すぎる距離感に振り回されつつも、

気づけば彼女が生活の“当たり前”になっていた。


・七瀬 ひより(ななせ ひより)

悠真の大学の同級生。明るくマイペースで距離が近い女の子。

なぜか悠真の家に入り浸っていて、実はずっと彼のことが好きだった。

料理も生活力もそれなりに高い、癒し系女子。



───────────────────────────────────────────────────────────



「ただいまー……って、なあお前、俺より先に帰ってくるのやめろって」


玄関のドアを開けた瞬間、

ソファの上でアイスを食べながらアニメを見ている女の子がいた。


こいつの名前は七瀬ひより。

俺の大学の同級生で、なぜか俺の部屋にほぼ毎日入り浸っている。


「おかえり〜。あ、これ冷凍庫にあったから食べちゃった。もう一本あるよ?」


「そういうことじゃないんだけど……てか、なんでまだ鍵持ってんの、もう返してよ」


「合鍵? だって渡してくれたじゃん。バイトの荷物運ぶとき。あれからもう2ヶ月だよ?別に良くない?」


「一時的って言ったんだが……」


「まあまあ、細かいことは気にしないの」


にこっと笑いながら、ひよりはスプーンを口に運ぶ。

ベージュのパーカーに短パン、髪はゆるく結んでて、完全に“家”モード。


……誰の家だよ、ここ。


***


俺――**新海悠真(しんかい ゆうま)**は、

都内の私立大学に通う大学3年生。

ひとり暮らし歴2年目で、わりと静かな生活をしていた。


……つい最近までは。


「ひより、今日は何してたん?」


「午後からオンライン授業だったから、午前中はここ来てごろごろしてた〜。

あと、洗濯機まわして干しといたよ。あとで取り込んでね?」


「えっ……あ、それは助かる」


こういうとこ、ほんとにずるい。

面倒くさがりだけど、たまにこうして“家庭的な一面”を見せてくる。


そして何より、俺の生活に自然に溶け込んでるのが怖い。


「今日の夜ごはん、どうする? なんか買ってきた?」


「んー、冷蔵庫にキャベツとベーコンあった気がする」


「あー、それならカルボナーラっぽくできるかも。アタシ作っていい?」


「……ほんとに作るの?」


「信じてないでしょ!? こないだの豚汁、普通に美味しかったじゃん!」


「……たしかに」


あのとき、ちゃんと“味噌を計って入れてる”のを見て、

ちょっとだけドキッとしたのを思い出す。


女友達――それ以上でも以下でもないと思ってたのに。

最近、彼女を見るたびに、胸がざわつくようになってきた。


***


「……はい、できた。これ、粉チーズ多めにしてみた」


「うまっ……。え、これ、店レベルじゃね?」


「でしょー? なんならレシピ覚えてきたもん。

『一人暮らしの男子に作ってあげたいレシピ・BEST5』で調べた」


「なんだそのピンポイントなランキング」


「……ふふ、秘密」


そう言って笑う彼女の横顔を見て、

俺はふと、あることに気づく。


(――こいつ、俺に好意あるんじゃ……?)


たぶん、そういう気持ちが“全くない”なら、

こんなに毎日入り浸ったり、料理作ったり、

勝手に合鍵持ったりしない。


でも、それを本人に聞く勇気はまだなかった。


俺たちは、ちょうど**“恋人未満の曖昧な関係”**にいる。


***


食後、片づけも手伝ってもらい、ふたりでソファに座る。


「……ひよりさ」


「ん?」


「なんでそんなにうち来るの? 家近いわけでもないのに」


「ん〜、理由いる?」


「いるだろ。普通じゃないって」


「普通じゃないって、なに。

……じゃあ逆に聞くけど、迷惑?」


その言葉に、少し返事に詰まった。


「……迷惑じゃないよ。むしろ、来てくれると、なんか嬉しいし」


「ふふ……じゃあ、今日も来てよかったね」


ほんとにこの子は、ずるい。

言葉も、態度も、距離感も。

全部が、恋人みたいで、でも恋人じゃなくて。


俺の中で、“ひより”が占める時間と空間が、

どんどん大きくなっていく。


(……たぶん、俺も――)


言葉にならない想いが、胸の奥にじわっと広がる。


次の週末も、たぶん彼女は来る。

俺の部屋で勝手にTVつけて、アイスを食べて、俺の横で笑ってる。


その未来が、ちょっとだけ――楽しみになってきた。



───────────────────────────────────────────────────────────


月曜日。午後の講義が終わると、スマホに通知が届いた。


【ひより】

「今日も行くから」


あいかわらずの“行く前提”メッセージ。

だけど、それに「うん」と返してしまう自分も、もうすっかり慣れてしまっていた。


(もういっそ、ルームシェアってことにすればいいんじゃ……)


そんな冗談めいたことが、ふと頭をよぎる。


***


「今日って掃除した?」


「してない。講義間に合わなくてバタバタ出た」


「……ふふ、だと思った。ほら、また脱ぎっぱなしの靴下〜」


「やめて……それは……」


「洗っといてあげようか?」


「ママかよ」


「ママじゃないよ。嫁だよ」


その言葉に、俺は思わず固まる。


「……って、なに言わせてんの。照れるじゃん」


「いやいや、こっちのセリフだわ」


冗談半分のはずなのに、

心臓がどくっと跳ねた。


(ほんとに……“冗談”なんだよな?)


だけど、ひよりの笑顔はあまりにも自然で、

彼女の気持ちが、どこまで本気なのかわからなくなってくる。


***


夕飯のあと、ふたりでリビングの床にごろごろ寝転がる。


「……このままずっと、こうしてたいなぁ」


ぽつりとひよりがつぶやいた。


「は?」


「なんかさ、こういうのが幸せっていうのかなって。

恋人とか、結婚とかじゃなくてもさ、

好きな人と、同じ時間を過ごしてるってだけで」


「……」


(いま、好きって言った?)


それは偶然の言葉だったのか。

それとも――告白だったのか。


「……ひより」


「ん?」


「お前さ……俺のこと、どう思ってるの?」


静かな空気が流れる。


ひよりは目を伏せたまま、少しの間、何も言わなかった。


「……好きだよ」


「え?」


「ずっと前から、好き。

でも悠真、気づいてないし、

今のままでも居心地いいから――怖くて言えなかった」


はっきりと。

でも、どこか震えた声で、彼女はそう言った。


俺は、心臓の音がうるさくなるのを感じながら、

そっと、彼女の手に触れた。


「俺も、ひよりのこと……好きだよ」


一瞬、ひよりが目を見開いて、それから――ふっと笑った。


「やっと言った」


「お前、ずっと待ってた?」


「うん。悠真から言ってくれるの、ずっと待ってた」


手を握り合ったまま、顔が近づいて――

気づけば、自然とキスをしていた。


***


その日から、俺たちは“恋人”になった。


でも、やることは何も変わらない。

合鍵はそのまま。冷蔵庫の中も、いつも通り。

今日もひよりは、俺の部屋で勝手にくつろいでる。


だけど――

もうそれを“他人行儀”だなんて思わない。


今はただ、

“俺の隣”に、ひよりがいてくれることが嬉しい。



───────────────────────────────────────────────────────────



恋人になって、1週間。


「おはよ〜……」


玄関のドアが開いて、七瀬ひよりが自然に入ってくる。


(うん。……いや、ちょっと待て)


「ひより、俺らさ……付き合ってるんだよな?」


「んー? うん、そうだけど?」


「恋人になったら、もう少しこう、照れたり……とかない?」


「えっ、いま更に照れろって言うの? 今さら?」


「いや、だって、前と全然変わってなくね?」


ひよりはケラケラ笑って、

テーブルにコンビニの袋を置いた。


「だってね、悠真はさ、最初から“特別”だったし。

前から好きだったし。今さら、急に恋人っぽくなるのも変じゃん?」


「……いや、変じゃないだろ普通に。

キスもしたし、ちゃんと付き合ってるんだし……」


「じゃあ今日、キスしてみる?」


「えっ……」


彼女は俺の反応を楽しんでるように、ニヤっと笑った。


そして、すっと顔を近づけて――

ほんの一瞬、唇が触れた。


(……やば)


心臓が爆発しそうになる。

でも、ひよりはケロッとした顔で言った。


「はい、おはよーのキス。これから毎朝よろしくね」


「え、毎朝……?」


「恋人でしょ? 甘々な日常、始めよ」


***


付き合ってからの“ふたりの日常”は、驚くほど自然だった。


勉強もバイトも変わらず。

でも、ちょっとした瞬間が全部、特別になった。


■ お弁当を一緒に作るようになった

■ スマホに「💕」つきのLINEが届くようになった

■ ソファで並んで座ると、自然に肩が触れてる


ある日の夜。

ひよりが俺のTシャツをパジャマ代わりにして、ベッドの上で転がっていた。


「……これ、彼氏の服って感じでいいよね」


「ちょっと待って、それ俺の一軍Tシャツなんだけど」


「だからいいの!」


そう言いながら、ひよりはにっこり笑う。


ふと、彼女の髪がふわっと揺れて、

柔らかく俺の顔にかかった。


「ねぇ、悠真。……今日、ここ泊まっていい?」


「いや、いつも泊まってるじゃん」


「うん。でも今日は、“恋人”として泊まるの」


(……もう、勝てる気がしない)


彼女は、昔から俺の生活に溶け込んでたけど、

今はもう、心の中にもすっかり住み着いてる。


恋人になって、距離が近くなって、

今まで以上に彼女が愛しくなった。


そしてそれは、たぶん――

もっとずっと、続いていく。



TheEND

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今日も君は、勝手に俺んちでくつろいでる。 ナマケロ @Namakero12

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