第6話 蛇女と死神
「ぁ……」
目が合った瞬間、その女性はビクリと体を震わせた。
金髪の長い髪が風に揺れ、真っ白な肌に、整った顔立ち。場違いなくらい綺麗な服を着ている。いや、服というより、あれはドレスか?
「……お、お前、生きてるのか」
思わず口をついた言葉に、女性は戸惑ったようにこちらを見ていたが――すぐに諦めたような、悟ったような笑みを浮かべて歩いてきた。
そのまま近づいてくる彼女の姿に、俺は違和感を覚えた。
何か……変だ。
よく見ると、スカートの裾から伸びているのは――細く、鱗に覆われた蛇の尻尾。
「……蛇かよ」
反射的に剣を構えた俺に、女性は微笑んだ。
「怖く、ないの?」
「そりゃ、驚くけどな」
「私は“ゴーゴン”……って言えば、わかる?」
「メデューサの親戚か」
「ふふっ、そうとも言えるわね」
女性は俺から数メートルの距離で立ち止まると、静かに自分の身の上を語り始めた。
元々、南の大商人の家の娘として生まれ育ったらしい。
だが、成長するにつれ、自分の体に異変が出始めた。
「髪が、蛇に……目が、人を石に変える呪いを持つようになったの」
普通なら村八分、いや、殺されてもおかしくない話だ。
だが、この女性――名前はセレナと言った――は、奇跡的にその“呪い”が発現しなかったという。
「普通の人間として生きてきたわ。でも、この町に来てから……」
セレナは視線を外し、石像の並ぶ町を見渡した。
「隠しきれなくなった。人が怯えるのが怖かった……怖くて……怖くて……だから、近寄ってきた人を……」
「石にした、ってわけか」
そう言う俺の声は、責めるよりも納得する響きだった。
町中に転がる石像たち。
その正体は、この町に来た商人、旅人、兵士、そして――好奇心か、敵意か――セレナに近づいた者たちの成れの果てだったのだろう。
「怖い、でしょ? 私みたいなの」
セレナは寂しげに微笑み、だがどこか試すように俺を見た。
「いや、別に」
「え?」
「俺なんて“死神”さ。即死魔法で生き物を片っ端から殺して、今日も猪をステーキにしてるようなヤツだ」
苦笑交じりに言うと、セレナの表情が一瞬、驚きから安堵、そして微かな笑みに変わる。
「ふふっ……似た者同士、なのかもね」
「かもな」
ぽつぽつと話すうちに、気づけば二人は焚き火の傍に座り、残りの猪肉をつつきながら語り合っていた。
セレナの話は悲しくもあり、皮肉でもあった。
普通の生活を送りたかっただけなのに、体が、血が、彼女を怪物へと変えていく。
「でも……あなたなら、私を怖がらないの?」
「さっきも言ったろ。俺の方が、よっぽど人間やめてる」
そう言って笑い合い、夜は更けていった。
焚き火の火が小さくなるころ、俺はセレナの肩を引き寄せ、自然と唇を重ねた。
拒絶も、戸惑いも、そこには無かった。
ただ互いに、孤独と恐怖を知る者同士、無くてはならない存在だと、本能で理解していた。
そうして二人は一夜を共にし、互いの温もりを確かめ合った。
◇ ◇ ◇
翌朝――
「久しぶりだな、裏切り者」
不愉快な声が、静かな町に響いた。
見ると、門の方から二人組の冒険者が歩いてくる。
以前、俺を裏切って逃げた奴ら――名前は忘れたが、顔はしっかり覚えている。
「ほう、女を抱いて、のんきに暮らしてたとはな」
嘲笑混じりに言い放つ男に、セレナがピクリと反応する。
「こいつらが、君を……」
「いや、単純に俺を裏切ったクズ共だ」
セレナの怒りが伝わってくる。
俺の手も、自然と剣に伸びていた。
「さっさと死んでくれ」
「
呪文を放つと、片方の男はその場で崩れ落ちた。
「なっ、ま、待て、話せば……」
「石になりたい? それとも、死体がいい?」
セレナの目が妖しく光り、もう片方の男の身体が徐々に灰色へと変わっていく。
「や、やめっ、ぐあああああっ!」
絶叫と共に、男は完全な石像と化した。
これで、町に不快な奴はいなくなった。
セレナと俺は、互いに顔を見合わせて、微笑んだ。
「この町、気に入った?」
「まあ、静かで、いい場所だ」
石像だらけの、誰も寄りつかない廃墟。
だが、二人にとっては隠れ家であり、安息の地となった。
そして、誰にも邪魔されず、ひっそりと暮らしていくことを、俺たちは選んだのだった。
◇◆◇◆あとがき◇◆◇◆
ここまで読んで頂きありがとうございました。
余り反応が良くなかった為に、ここで断念です。
今後もよろしくお願いします。
スキルが【黒塗り】だった俺、【黒衣】の神の使徒として覚醒したら、世界が震えた 永史 @nagaman
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