第5話 残された女性
分かれ道を北へと向かう。
歩き出して割と直ぐ、これはちとマズイんじゃないかと思った。
道は当然ながら舗装もされていない押し固められた土で、馬車が通るせいか、
だが、この北へと向かう道は、1kmも進まない内に草で茫々に変化していた。
すなわち、草が生えまくる位に誰も通っていないと言う事。
「冒険者を連れてるんだろ。誰か突破する奴がいるよな。いるはずだよな」
大きな独り言を言っても、前にも、後ろにも誰もいない。
こうして歩きながら考えていると、一つの疑念が出て来た。
それは、この即死魔法でどんな生き物でも倒せるのか?
まだ見ぬゴブリンは大丈夫だと思う。その大型Verのホブゴブリンも多分大丈夫。
じゃあデカいと噂のサイクロプスは?ドラゴンは?
その大きさ、強さに対して、この魔法はどんな魔物でもつようするのかという事だった。
LEVEL1と丁寧に書かれているという事は、そういう低いレベルの魔物しか倒せない可能性があると言う事だった。
ここでこの世界の冒険者LEVELを考えてみたが、この世界にゲームのようなレベルは存在していない。
魔物の討伐量、ギルドへの貢献度に応じてA、B、Cランクと言うモノがあるみたいだが、それすらも付いていない俺等はザコと言う事らしい。
中堅でC、ベテランの強者でB、最強のつよつよ者でAランクと言う噂を聞いた事がる。
所謂、初心者や初心者に毛が生えた程度では、ランクを付けるまでもないと言う事だった。
単純明確。ここの世界は漫画の読みすぎでは無かった。
合理的、無駄というかめんどくさい事は極力しない。
そして危険は極力避けると言う事か。
野性の鹿、野良牛、遠くで見ているキツネらしき動物。ダメだダメだ、得物としては大きすぎる。たぶん即死魔法で殺せるとは思うが、ただ殺すだけで食料にもせずに、防衛しなくてもいい生き物は殺したくない。
殺したとて、こんな大きな生き物は、9割方腐らせてしまう。
丁度いい大きさの獲物がでてこな――
「
いきなり音も無くとびかかって来た巨大蛇を即死で殺す。
「人間様を餌にしようなんざふてえ野郎だ!死ね死ね死ね!」
剣でとどめとばかりにグサグサと頭を突き刺す。
蛇はまあまあ旨いんだが、、皮を取る時にうろこ状の物が手にくっつくので、余りやりたくない。
「まあ食べるけど」
輪切りにした蛇をフライパンに入れ、そこら辺に落ちている木々を集めて火打石で火を付ける。
毎日がサバイバルさ。
直径20cmはある胴体に火を入れ、そこら辺に生えている野草を千切って入れる。残りは動物にくれてやると道の外へとポイする。
って言うか、道の真ん中で火を使っているのだが、誰も来ないから良いよな。
蛇のステーキは両面焼いて食べる。妙にスーっとした清涼感のあるステーキ。小骨が多いから面倒だが、脂身が無くて憎々しい……いや、肉々しい。
朝ご飯を食べ終わり、山を登っていく。登っては下り、また登っては下りを3回数えた所で夕方になった。
適当に摂ったトカゲの肉を焼いて、木に登って今日は休む。
それから同じ事が3日続いた…………
異変を感じたのはその4日目のことだった。
もう少ししたらゴルジュの町に着いてしまう。
いったい魔物は何処にいるんだ?
足の速さからすれば馬車と歩きの違いから、4日目には着くものと思っていたが、出ると言っていた魔物が一切出てこない。
出て来るのは野生動物ばかりだった。
そして魔物も出ないまま、俺はゴルジュと書かれた町へと着いてしまった。
前の町のように柵で町が囲われ、ここから入れよと言う門が設置されている。
その門には誰もおらず、それどころか町の歓声と言うか誰かの話し声や、生活音等が一切聞こえなかった。
まさか魔物にやられて廃墟となった?
妙にボロボロになった家、投擲でもしたのか道端に転がっている大量の石ころの数々、どこかしこにある石で出来た石像の数々…………ここは石細工の町かという程に石像が多い。
ここ……やたら石像が多いな。まるで……いや、考えすぎか。
誰もいない町に入り、所々で戦闘のあったような矢が家々に刺さってあったり、木造の家が燃やされたりと街中での様子が伺えた。
「まずった。何の魔物か聞いておくべきだった。ドラゴンとゴブリンでは心構えが全然違う」
もちろん、この世界にもドラゴンはいる。
人里離れた所にいるらしいが、酔った勢いで俺はやるぜと言うだけでドラゴンをやったと言う冒険者は居ないと思われる。
ゴブリンも普通にいるらしいのだが、人間程多くは分布していないのか、未だに見た事はなかった。
これから田舎って奴は大変なんだ。
ヒョロッと現れた猪が、俺に向って突進してきた。
「
この数日、オカズやおやつ代わりに得物を取っていた死属性魔法の
顔を引きつらせた猪が滑り込んできたところを、首に剣を差し込む。
後ろ足にロープを掛けて近くの木の枝にぶら下げ、一気に血抜きをする。
その間に近い家に入り、樽に入っていた水を桶に汲む。
「……っていうか、水が腐ってねえ。廃墟になったのはここ最近か?」
少し用心しながら家の竈でお湯を作り、表で吊らされていた猪にぶっ掛け皮を剥ぐ。まあ、後は大体どれも同じで内臓を丁寧に取って肉の部位ごとに切り分ける。
肝臓等は旨いのだが、寄生虫の危険性もあるので、内臓は丸ごと野生動物の餌だ。
妙に静かな町の中、薪を集めてぶら下げた猪の真下でキャンプファイヤーだ。
「シュラスコだっけ?一度してみたかったんだな~」
と、俺は猪のシュラスコ風丸焼きを行い、ナイフで肉を削っていた時、微かな物音に気付き、その無人の家に視線を向けた。
「あっ」
「ぁ……」
少し離れた家の影でこちらの様子を伺っている人と目が合った。
明らかに場違いな、豪華なドレス姿の女性が、怯えたような目で、家の影に隠れながら俺を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます