月と私

@otyaumauma

第1話


 









9月のはじめ頃



夏もそろそろ終わりに差し掛かり、だんだんと気温も涼しくなっていく時期。


とはいえ、まだまだ気温は高く,少しジメジメとした湿度の高い風が吹いている夜に私はスーパーへと訪れていた。






(これくらいでいいかな、、)


夏場は喉が渇くため、お茶や水を気持ち多めにカゴへ放り込んでいく。

家にある飲み物のストックがなくなってしまい、ちょうど少し散歩したい気分だったので、私は家の近くにあるスーパーへと出かけていた。


コンビニでもよかったのだが、スーパーよりも値段がやや高めになるため,少し歩くがスーパーを選んだ。

ついでにと自分のご褒美とアイスコーナーを覗きつつ、会計を済ませ外に出る。


空を見上げると形がとても綺麗な満月と目が合う。

雲が見当たらないせいか、それとも夜に出歩くことが少ないせいか、いつもより大きく見えた気がした。









やはり、夏の終わりと言うこともあり昼間は少しうるさいと感じるくらいに聞こえてくるセミ達の鳴き声も夜には鳴りを潜めていた。


休憩がてら,ベンチで先程買ったアイスを食べて一息つく。

スーパーからそれなりに歩いたので、アイスは少し溶けていると思っていたのだが,袋の中のアイスは、まるで冷凍庫に入っていた状態を保ったままのように形を保ち,冷え切っていた。






アイスの形が溶けないうちにと、いつものペースより早めに食べながら、さっきまで悩んでいた進路についてもう一度考えてみる。

自分の体感では、少し前までは中学生だった気がするが、いつのまにか高校生になっていた。


最近まで高校受験で苦しんでいたというのに、もう次の進路について考えなければいけない現実に嫌気がさす。


将来の夢などを持たずに、これまでのらりくらりと過ごしてきたツケが今まわってきてしまったのだろうか?


あまりにも非情な現実に思わず顔を仰ぐ。

目を開けると、いつもは優しく照らしてくれる月の光がなんだかアイスの様に冷え切っているみたいに感じた。







しばらく公園で休憩していたが、何も思い浮かばない。家に居てもあまり手が進まなかったので、外ならと思ったがあまり変わらないらしい。


周りの友達はみんな、なりたい将来像を持っていて,一人取り残されていくような気分になってしまう。

一人ぼっちだとすぐ気持ちが沈んでしまうから、夜でもウォーキングなどで使われている公園を選んだはずが,今日に限って一人もいないらしい。




(今日はとことんついていないな)


とますます気持ちが沈みつつ、このままでは変わらないので家に帰ることにした。


月明かりと規則的に置かれた照明の下をのんびりと歩いて行く。

先程よりも大きく見える月がまるでスポットライトを当ててくれているように感じた。






そろそろ夜も遅くなるため、帰ることにした。だが、



「あれ?」


しばらく歩いていたが、一向に出口が見えてこない。






(もしかして、迷子とか?)


頭の中にあまり思い浮かべたくない最悪な二文字が浮かび上がってくる。


いや、そんなはずはない。小さい頃から遊びに来ている勝手知ったる公園なのだ。でもどれだけ歩いても出入り口が見えてこないということも現実だ。


いつもはそれなりにいる人がなぜか一人も居らず、生き物の鳴き声や存在一つ見つからない。この異質な空間が、とてもきもちわるい。


次第に自分の足取りが早くなっていく。






『ひたすら歩いているけれど、なぜか出口まで帰り着けない』


このわけがわからない現象が今実際に起こっている。うっすらと目に水の膜が張って視界がぼやけていく。


慌てて目を擦るが視界は変わらない。痛みが出るほど擦るが変わらない。

頭が疑問符で埋め尽くされると、擦りすぎた痛みで頭が少し冴えていくような気がした。


周りを見渡すと白いモヤがぼんやりとかかっている。


どうやら気付かぬうちに霧が出ていたらしい。本格的に恐怖心が身体を覆う。何故こんなことになっているのだろう?










その後はひたすらに走った


走って,走って,走って,走って,走って,走ったが出口は一向に見つからない。


だが、今足を止めてしまうと、手遅れになってしまうような気がする。でも、運動部でもない自分には体力の限界が訪れていた。








ついに足が止まってしまった。

途端、肺や脇腹が疲弊していると主張するかの様に痛みが襲い出す。


息を整えようと大きく息をすると、消毒液の様なツンとした独特な匂いがした。

霧が体を覆って、呼吸をするたびに、頭にもやがかかっていく。



息を止めれたら良いのだが、先程の全力疾走で疲労困憊だ。






(あたまがくらくらしてきた)


次第に力が入らなくなり、バランスが取れないため体が傾いてしまう







(もうつかれた)


体が傾いたことにより、結構な衝撃があった気がしたが、もうなにもわからない




徐々に意識が薄れていく










徐々に体の感覚がぼやけていく








最後の力を振り絞り、あちこちを引き摺りながら上を向く。























空を見上げるとそこには黄色の光る球体があった。

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