第25話 2つの花火
「もうすっかり暗くなってきたね…花火はもうすぐ始まるの?」
「そうだね。19時半からだってさ」
かき氷を食べて、フルーツ飴を食べて、綿あめを食べて、お腹いっぱいになったので、金魚すくいをやったり射的をしたりお面を買ったりして、たくさん遊んだ。
それはもう…使ったお金を考えれば、少し遠くに遊びに行けるくらいには遊んだ。
そして、これから始まる花火が最後。
これは無料で見られるので、お金はかからないけど…いつも不思議に思うことがある。
「花火って、誰がお金を出してるんだろうね?」
「んん?そりゃあ、企業だよ。特に地元の企業とか。ちゃんと調べたらどの企業がどのくらい出資してるのかわかると思うよ?」
「そうなんだ…テレビやスポーツ選手と一緒なんだね」
花火は玉の中に沢山の火薬を詰めている。
当然お金がかかるだろうし、そのお金がどこから来ているのか?
その答えは企業が出資――スポンサーになっているというものだった。
まあ、そうじゃなかったらお金を集めるのは相当大変だろうからね。
「サカイは家族で花火を見に行ったことないの?」
「ないかな。花火なんて、バラエティー番組とかcmとかでしか見たことないや」
「…連れて行ってもらえなかったの?」
「どうだろうね……子が子なら親も親というか…まあ、生きてるのか死んでるのか分かんないような家族だし、花火何て見に行こうと思わなかったよね」
自分が空っぽだったのは間違いない。
そんな私から見て、私の家族もあまり満たされている感じはしなかった。
まあ、家族との会話がほとんど無かったから、そういう印象が無いだけなのかもだけど。
「そっか…でも、間違いなくサカイは生きてるよ。こんなに生き生きしてる笑顔はなかなか見ないからね」
「それも全部、ホミのおかげだね」
「ふふん!もっと私の事褒めてくれて良いんだよ?」
「えぇ〜?そう言われるとなんだか嫌だから、言わな〜い」
「むっ…せっかく連れてきてあげたのに…」
「それは感謝してるよ。……いや、違うか」
「え?なにが?」
ホミの顔をじっと見つめる。
いきなり私に見つめられて困惑しているホミに…
「いつもありがとう」
「…それだけ?」
「それだけだよ。さあ、早く花火が綺麗に見える場所に連れて行ってよ」
ごく普通の、当たり前の感謝を伝えた。
けどそれって、すごく難しいことで…ただ一言『ありがとう』と言うだけなのに…自分からそれを出来たことは数えるほどしかない。
ホミはそのことに気づかないだろうけど…それで良いんだ。
「…ホントにありがとうって思ってるの?」
「思ってるよ」
「な〜んか適当にされてる気がする…」
不満そうにしているホミに連れられてやってきたのは、なんと駐車場だった。
「ここの奥は、休憩スペースみたいな小さな広場があってね。しかも、そこからだと障害物がなくて花火が隠れないんだ」
「そうなんだ…でもいいの?駐車場なんて、危なくない?」
「まあね。でも、広場は車が入れないようになってるから大丈夫。駐車場の端を通って行けば、安全に行けるよ」
ホミの言う通り、駐車場の端を歩いて安全に(?)通り抜けると、本当に広場があった。
けれど、その広場には既にたくさんの人がいて、私たちが花火を楽しめるスペースは無さそうだ。
「むぅ…仕方ないね、そこのフェンス越しに見ようか」
「私はそれでもいいよ。わざわざ人混みに入るのもなんだしね」
広場に行くのは諦めて、少し離れたところからフェンス越しに空を見上げる。
駐車場に設置するには無駄に高いフェンス。
なんでこんな物が必要なんだろう?なんて思いながら待っていると、遠くで光の玉が昇っていくのが見えた。
「始まったね」
「だね」
フェンスの網目越しなので、あまり見栄えはよろしくない。
見え隠れする火の玉を目で追いかけ……夜の空に大きな花が咲いた。
「「おぉ〜!!」」
トップバッターを飾るに相応しい大きな花火。
お祭りの会場からは、それなりに距離がある場所で花火が上がっているようだけど、それでもその大きさはよくわかる。
美しく咲いた花は、見事な色使いがされていて、あっという間に消えてしまうのが惜しい鮮やかさだ。
光が静かに消えて、暗闇の空に戻った頃――
……ドンッ!
「わっ!?」
かなり遅れて花火の破裂音が聞こえてきた。
こんなにも離れているのに、音が体を震わせて、体の内側でブルブル震えている。
生で見る花火ってこんなに音が響くものなのか…
「ふふっ、はじめての花火はどう?」
「こんなに離れてるのに、音がハッキリ聞こえてくるものなんだね…びっくりしたよ」
「なら、間近の花火会場で見てたら泣いちゃってたかもね?」
「そこまで子供じゃないよ!」
はじめての花火の破裂音に驚いた事をイジってくるホミ。
思っていた以上に音が大きくてびっくりしただけだもん!
怖いわけじゃないもん!
けど、そんな事を言ったところで、ホミは私をイジるのをやめないだろう。
全く…何から何まで子供扱いしないで欲しいね!
「ほら、せっかくの花火を見ないと損だよ?私の方ばっかり見てないで、あっちを見なさい」
「誰のせいだと思ってるのさ…」
抗議しようとホミの方を向いていたせいで、花火を見ろと怒られてしまった。
ホミが話しかけてきたからホミの方をみ見てたのに…理不尽な話だよ。
文句を言いたくなるのをグッと堪えて、フェンス越しの花火を見る。
やっぱり、フェンスの網目が邪魔をして花火を100%楽しむことは出来なかった。
けど……それでも綺麗だと思えた。
小さな花火がたくさん打ち上げられたり、大きな花火が一つだけだったり、八の字の花火や何かのキャラクターのような花火、高い所から滝のように落ちる花火や賑やかしのような上空で咲かない花火。
その一つ一つが綺麗で…遅れて聞こえてくる花火の音も風情がある。
「綺麗だね…」
「うん…フェンスが無ければもっと良かったんだけど…」
「ふふっ、どうかな?網目越しの花火って、なんだか詩的で良くない?」
花火という美しいものを、フェンスの網目越しに見る。
檻の中から外の世界の美しい景色を見て、それに憧れているみたいで、なんだかとてもセンチメンタルな気分になるね。
「こうやって、檻の中で外の世界に憧れを抱いて、でも檻を超えられなくて諦める。外に出ようという努力をしないって意味で…私たちにはピッタリじゃない?」
「……まるで、今の生活が閉じ込められてるみたいな言い方じゃん。私との生活は窮屈?」
ポエミーな事を言ったら、ホミがムッとした表情で今の生活に不満があるのかと聞いてきた。
私は別に、そういうつもりで言ったわけじゃない。
じゃあ、どういうつもりなのかと言うと…
「窮屈?そんなわけないよ。檻の中には慰め合える仲間が居て、何より心地が良い。私のことを大切にしてくれるホミが居て、やらなきゃいけない事から逃げてるから気分が楽。けどふとフェンスの外側を見てみると…」
「美しい花火が見える。花火は…未来かな?光って消えて光って消えて……いいことばかりじゃないけど、苦しいことばかりでもない。…なんて、恥ずかしいこと言わせてくれるじゃん」
「いい雰囲気だったのに……恥ずかしいのは事実だけど」
広場に行けなくて、フェンス越しの花火で妥協している人は私たちだけじゃない。
私たちと同じように花火を見ている人に、この話が聞かれてしまっていると考えると…かなり恥ずかしいね。
少し冷静になってくると、羞恥心が私の心を蝕む。
先に羞恥心に耐えかねたホミが私の手を握ってきて、肩を寄せてくる。
私はそれを受け入れて、羞恥心を強い意志で押し返し、ホミの苦しみを一緒に背負う。
そう考えると、なんだか私が頼られている気がして気分が良くなってきた。
気分がいいと調子に乗ってしまうもので…気恥ずかしそうにしながら花火を見つめるホミに話しかける。
「普段からこうして頼ってくるてもいいんだよ?」
「え?何の話?」
頼られている…というのは私の勝手な思い違い。
ホミに『何言ってるの?』と本気で困惑された。
それが恥ずかしくて…一気に顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「…何のことを言ってるのか分かんないけど、私に頼られる人間になりたいなら、洗濯物を一人で畳めるようになってから言ってね」
「うっ…!はい…」
私の気持ちを察して話をなんとか終わらせてくれた。
恥ずかしくて花火どころではない。
花火はあんなにキラキラしてて綺麗なのに…それを素直に見られなくて…チラチラとホミを見る。
ホミに視線を向けたとき、ふと気付いた事があった。
それは、ホミの瞳に反射して映る花火。
小さすぎて花火かどうかもわからないけれど…花火なのは確か。
だって、他にあんなに綺麗に輝いているものはないから。
「ん?どうかした?」
「え……ああ、いや。何でも無い」
慌てて花火の方を見る。
こんな展開、ラブコメじゃないんだからと思いつつ…花火ではなく恋人の方を見てしまう、ラブコメの主人公の気持ちがわかった気がした。
暗い夜の中、隣にいる大切な人が花火で照らされている姿は…どんな花火より、綺麗だったから。
女子高生2人は田舎暮らしで満たされたい カイン・フォーター @kurooaa
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