第10話 ある日の放課後
零奈とバトルした次の日の放課後。俺は堅翔と燈弥と一緒に、片瀬けん玉教室にやって来た。
「こんにちは——あっ、零奈に北条さんも来てたのか!」
俺が声をかけると、零奈は顔を赤くして、楓は手を振って挨拶をしてくれた。
「あっ、初めましてだね、僕は中村堅翔、よろしくね」
零奈と楓も堅翔に自己紹介をしていた。
その後で、楓が手をパンッと合わせた。
「では、役者もそろいましたし、零奈ちゃん始めましょうか!」
「……楓、これは復活させなくてもよかったんじゃない?」
「それはダメですよ! 昨日は嬉しすぎて、忘れてしまってましたが、今日はそうはいきませんよ」
零奈はおでこに手をついてため息をついている。
——どうしたんだろ?
楓はスマホを三脚に立てて、じっと画面の角度を確認していた。
「二人は何をしようとしてんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたわ!」
燈弥が質問すると、楓が人差し指を立てて少し興奮した感じで説明を始めた。
「私は、零奈ちゃんのカッコいい剣術師としての姿を世に知らしめたいんですの! 動画にして、ファン一号として保存する使命が私にはありますのよ!」
——なんか、テンション高くないか?
嬉しそうにほっぺたに手を当ててしゃべる楓に少し驚きつつ、俺は堅翔と燈弥と顔を見合わせた。
「……逃げるか?」
「そうだねー」
「ちょっとめんどくさそうだしな」
そんな風に小さな声で話し合っていると、楓が俺の肩に手を置いてきた。
「逢坂さんは、逃しませんわよ。零奈ちゃん復帰戦の最初の撮影は、逢坂さんとのバトルに決めているんですから」
「な、なんだよそれ!?」
「それに私、昨日のバトルで、逢坂さんのファンにもなってしまいましたの」
にっこり笑ってる楓だけど、肩に乗せた手、めちゃくちゃ力強い!
全然逃げられねえ!
「そっか、剣城は女子とけん玉するんだねー」
「じゃあ堅翔、俺たちは男子同士、外でけん玉しに行こうぜ」
二人は俺を置いて外に行こうとしている。二人の背中に向かって俺は叫んだ。
「お、おい二人とも待ってくれ——た、頼むよ北條さん、離してくれ!」
「逢坂さんは、零奈ちゃんとバトルをしてください! そして、素敵な姿を私に見せてくださいませ」
出て行ってしまった二人の代わりに、助けてくれ、と零奈の方を見るけど首を振っている。
「……逢坂ごめん、こうなった楓は止められないわ」
「そ、そんなぁ!」
頭を抱える俺に、でも、と零奈は続けた。
「昨日のバトル、途中で終わっちゃったでしょ? だから……その続き、やりたいなって思ってるんだけど、どう?」
「……やる」
撮影をされるって考えるとなんだか緊張して嫌だけど、昨日のバトルの続きって考えれば、全然嫌じゃない。
むしろ燃えてくる!
「じゃあ早速、バトル始めようぜ!」
「まぁ、撮影されるのはちょっと恥ずかしいけど……本気でいくから覚悟してなさい!」
零奈がバトルギアを装着し、俺もけん玉を手に持ち構えを取る。
それから、バトルギアからお互いにパートナーを呼び出した。
「ユキト、昨日の続きだ! 零奈と決着をつけるぞ!」
「剣城くんやる気満々だね——僕もだけど!」
顔を見合わせて、グータッチをしていると、零奈とヤエの声が聞こえてきた。
「零奈ちゃんと、こうして当たり前にバトルができるなんて——本当に、ヒーローのおかげね」
「……そうだけど——逢坂、気にするからあんまりからかわないであげて」
ヤエの言葉を聞いて、俺は顔から湯気が出るかと思うくらい熱くなった。
ヒーローなんて言われたら恥ずかしい。
「剣城くん、集中するんだ。相手は手強いよ!」
「そ、そうだな。恥ずかしがってる場合じゃない!」
ほっぺたを叩いて集中する。
「お二人とも、素敵な表情ですわ! 最高のバトルをお願いしますね」
スマホの録画ボタンが押される音がした。
バトルギアからアナウンスが流れだし——
「零奈、負けないぞ!」
「私だって!」
『レッツ、けん玉ファイト!』
アナウンスが教室に響いた。
俺たちのバトル、見せてやるぜ!
けん玉バトル バトルギア! 赤松 勇輝 @akamatsuyuki
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