憲法第14条2項
そらみん
処分対象の少年
「何かがおかしい」
私は先生として、医師として大学のとある病院に勤めていた。
しかし、今は何だこの姿は。
女子高生の格好に身を包み、しかも若干若くなっているではないか。
「この世界は何かおかしい」
その正体はすぐに分かった。
『憲法第14条2項』
法律の専門家ではない私にもすぐに分かった。
この世界は、私のいた世界ではない。
医大生一年生の時に履修した「法律学概論」では、このような憲法は存在しない。
いや、存在し得ないのだ。
全ての少年少女は国家の庇護下にあり、管理されているのだ。
個人番号が振られ、皆は通称で呼ばれている。
そしてデバイスで管理されているのだ。
だから私、個人番号「ヌル」には、身体にあるはずの注射痕がない。
そして私の手元には、主席選抜の書類が。
「おめでとう! 君は学校を飛び級して国家に選ばれたんだ!」
先生らしき白衣の人物はそう言う。
「はぁ……」
そして私はとある病院へと勤めることになった。
それは奇しくも、前世、と言えばいいのだろうか。
前の世界そっくりの大学病院であった。
「あなたにはこちらからこちらまでの子供達を担当してもらうわ」
事前に送られたファイル。カルテには子供達の個性や年齢、そして個人番号が詳細に記されていた。
年齢は赤ちゃんから二十歳まで様々。
小児科で扱う範囲を超えている。
「ええと、こちらはどのような……?」
「国家安全機密科。憲法第14条2項はご存知ね?」
「はい」
「その年齢に当たる人物を診てもらうわ」
「それは私に務まるのでしょうか」
「ええもちろん。だって、国家直々に選ばれた人間ですもの。適性があってのことだと考えておりますわ」
「はぁ」
私はため息をひとつ。
手元のタブレットを見ながら、順番に観ていく。
「はーい! 常森さーん! 診察室へどうぞ!」
やけにテンションの高い看護師の案内で、一人、また一人とまるで回転寿司のように、淡々と「診察」を行う。
気になったのは、皆が目立つところに注射痕があるくらいだ。
しかし少年少女皆、特に気になったところはない。
カルテ通り。
しかし、そこでトラブルが発生した。
「よろしくお願いします」
やけに行儀のいい少年だ。よほど家庭に恵まれているのだろう。
「ええと……」
タブレットを見てギョッとする。
「処分対象」
そこにはそう書かれていたのだ。
え、なんで?!
驚きを内面に隠しながら、聴診器を当てる。
心拍、肺、特に問題はない。
外科的にも問題はなさそうだ。
問題があるとするならば……そうだな。精神か、遺伝子系のエラーだろうか。
いくつか DSM に基づいた質問を投げかけてみるが、特に問題はなさそうだ。
おかしい。
どうして国家はこの純粋無垢な少年を処分対象にしたのだろうか。
「あの、実は……僕、発達障害らしいんです」
答えは少年の口から出た。
「この国では先天的に問題のある少年はすぐに処分される、って言うのは学校で習いました。僕も、クラスの皆は知らないけれど、処分対象であることは、通知されたので分かってます。でも、僕がいなくなったら、産んでくれた両親や友達に迷惑がかかっちゃう……それは、嫌なんです……」
ぽろぽろと少年の口から本音が漏れる。
ああ、この優しい少年は、国家のために犠牲になることを知っている。
もしこの子が処分対象じゃなければ、どんな人生になっていたのだろう。
優しくて、優秀で。
普通に進学して就職して、良いお嫁さんをもらって、家族とも仲良く幸せな人生になっていただろうに。
それを、国家は許さない。
「僕はどうしたらいいんでしょうか……?」
涙を流す彼に、言葉は思いつかない。
同情? 慰め?
そんなものは逆効果だ。
もし私のいた「向こう側」の世界なら、彼は平穏に過ごしていたのだろう。
「僕は……僕は……」
彼の涙が、自分の顔を反射する。
私は。
どうしたらいいのだろうか。
憲法第14条2項 そらみん @iamyuki_t
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