番外編

仮面の少女 セナ編

セナは大陸の北にある、小さなエルフの村で生まれた。

優しい父と母に育てられ、幼い頃の彼女はすくすくと成長していった。


だが、あるときから身体の成長が止まってしまった。

それは、エルフ特有の性質だった。

成人するまで成長を続ける者もいれば、ある日を境に子どもの姿のまま時を止めてしまう者もいる。


セナは――後者だった。


「……お父さん、私はこの体のまま生きていかなきゃいけないの?」

震える声で問いかけたとき、父は困ったように、それでも優しい笑顔を浮かべた。


「……そうだな。私たち一族には、どうしても抗えぬ運命がある。だがセナ、お前は可愛い。その姿のままでいいんだ」


言葉はあたたかかった。

けれど、それが慰めでしかないことも、幼いセナは薄々感じていた。

見た目が幼いままという事実は、彼女にとって重いコンプレックスとなっていった。


――数か月後。


平穏は唐突に奪われた。

人間の手によって村は侵略され、仲間の多くが捕らえられた。

セナの家族は辛うじて逃げ延びることができたが、行き先もなく、飢えと疲れに追いつめられていった。


そして――。


「……セナ。お前には、魔法の素質がある。北の果てに“魔法の巨匠”と呼ばれる者がいる……そこを目指せ」


父は最後の力を振り絞り、言葉を託した。

頬に触れる手の温もりは、もう弱々しかった。


「いやだよ……! お父さん、置いていかないで……!」

「泣くな。セナ……生きろ。お前なら……」


そのまま父は瞼を閉じ、二度と目を覚ますことはなかった。


セナは何日もその場を動けず、ただ父の言葉を反芻していた。

成長の止まった小さな身体を抱えながら――。

彼女は、これからの運命を一人で切り拓かねばならなかった。

北へ向かう旅路は過酷だった。

森を抜け、雪山を越え、飢えと寒さに耐えながら、セナは「巨匠」の元へたどり着く。


巨匠は一見厳格で冷たい人物だった。最初、子供の姿のセナを侮ろうとしたが、彼女の必死の眼差しに心を打たれる。


「君に授けよう。この大陸でも稀有な魔法、『神鏡』を——他者の魔法を写し取り、自分の力とする魔法だ」


しかし、巨匠は忠告する。

「だが、注意せよ。写し取った魔法は万能ではない。無理に使えば、体も心も消耗する」


セナは修行に没頭した。

自然と対話し、心を研ぎ澄ませ、自分の弱さと向き合う日々。

やがて彼女は、伝説の魔法『模写』を自在に操る力を手に入れた。


修行を終え、巨匠は彼女に言った。

「さあ、外の世界に出るがよい。経験を積み、人々の役に立つ冒険者となるのだ」


こうしてセナは、北の村を出て冒険者として歩み始めた。

そして時を経て、現在――フランと出会い、ギルドで新人の面倒を見ながら、あの伝説の力を秘めたままの日々を過ごしている。

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宮廷魔術師は解雇された 〜1か月の猶予をもらいましたが、上司とかのせいで結果が出せなかったので、冒険者になります~ 天使の羽衣 @tensinohagoromo

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