第8話

ハブられてる?宝来さんがねえ……原因は一つなんだろうけど、穏やかじゃないな。


「それって、やっぱり……」

「うん……でもね、実際はそれより前から嫌がられてたのかも」


「何でそう思うの?」

「チクるみたいになっちゃうけど、一緒に映画観にいくことになったのってね……何人かの子に背中押されたからなんだ。スウェインくん格好いいし、もちろんokしてくれた時は嬉しかったよ?でも……今日来てみたらこんな感じになってた」


それって……。


「ハメられたってパターン?」

「あんまり悪く考えたくないけど……」


なるほど、それで前からね。断られたらざまあみろ、上手くいったら調子乗んなってか?女子ってこえーな、そうはなりたくない。

そんな状況下にあって、宝来はまた微笑んでくれた。


「ごめんね、愚痴っちゃって。伊古さんは仲直り出来るといいね」


何と答えていいかわからない。俺と浪漫に関して言えば、お互いさっきのことに触れなければいつも通りになれるのかもしれないけど……宝来さんの抱えている問題はそう簡単には解決しなさそうだし。


それから少し話をしながら、俺たちは昼食を終えた。途中女になった経緯について聞かれたけど……宝来さんがスウェインに好意を持っている可能性は高いし悪く言うのも気が引けて『朝起きたら急に』といった程度にしておいた。


「メアド交換しない?私今こんな状態だから、仲良くしてくれると嬉しいな」

「うん、いいよ」


赤外線通信でお互いの連絡先を交換した。もっとも俺だって女子から白い目で見られる立場だし、宝来さんにとってプラスになるとは考えにくいけど……少しでも役に立てたら本望だ。


「ねえ、ぴこちゃんって呼んでいい?」

「うん」


たった昼休み1回で、俺は宝来を随分身近に感じるようになった。明日の課題について相談してみたところ、既に当たっていた様で色々アドバイスもくれたし……これは浪漫が憧れるのも納得だな。


浪漫……か。


さてどうしたものか。気は進まないけど、俺から歩み寄るのが一番手っ取り早いよな。




結局放課後まで浪漫に話しかける機会はなく、この前みたいにさっさと教室を出て行ってしまう。


(何だよ、あいつ……)


これで待ってなかったら今日中の仲直りは絶望的だな、というかこの条件で待てる奴なんているか?


(諦めるか……)


宿題……真面目にやらないとな。後明日の課題か。宝来さんの言った通りやれば、一人でも何とか出来るだろう。

今まで俺は浪漫に頼りすぎていたんだ……仲直り以前に少しは自立しないと。

そんなことを考えていたら、いつの間にか校門まで来ていた。


そこには、


浪漫がいる。俺は真っ直ぐ見つめた。


「……」


しかし浪漫は俺を睨み付け、そのまま走り去る。俺は慌ててその後を追った。




「待て!待ってえ!」


全速力で追いかける。くそう、男時代なら浪漫より速く走れたんだけど……身体能力ダウンがハンパない。


「待……!ひゃあっ!?」


足元の小石に躓き、俺の視界から浪漫は消え去る。


(いだい……)


見事にずっこけた。スカートを捲って見ると……予想通り膝を擦り剥いていて、患部から血が出ていた。

これでもう浪漫には追い付けない……がっくりした俺はそのまま、ぼーっと蹲る。




「……パンツ見えてるぞ」

「浪漫っ!」


俺はそのままの姿勢で、目の前に浪漫のズボンを掴む。そんな俺の両脇に手を入れて立ち上がらせた。


「わかったか?ぴこ、これが爆弾だ」

「爆弾?」


何のこっちゃ。

わからないでいると、浪漫はそのまま俺に背を向けて歩き出した。もちろんその後を追う。


「浪漫……昼休みに言ってたことだけどさ、あれって何だったんだ?」

「……ぴこ、お前が悪い」


浪漫は質問には答えず、そう言った。全く意味がわからない。


「どういうこと?」

「お前は無防備過ぎるんだよ。いくら外見は大差なくても、元々女装すりゃあ似合う奴が実際女になって寄って来てみ?好きにならん方がおかしいだろ」




……は?

スキニナランホウガオカシイ?


「浪漫、それって……」

「まあそういうこった。だから今までみたいにしてっと俺に欲情されるぞ、気をつけな」


いやいやいや!おかしいのはそっちじゃね?ついこの前まで男だった奴が女になったところで好きにならんだろ!それ以前に……。


「浪漫、宝来さんが好きなんじゃなかったのかよ!?」


映画行った時も晩飯誘おうとしてたじゃねえか。


「まあ、宝来さんは好きだけどな。俺とじゃ接点が無さ過ぎる。それより家来てくれたり一緒にいてくれる子がいたら、俺はそっちを選ぶ」


……確かに元男としては、気持ちはわかる。にしても、うーん。


「だからな、ぴこ……お前が嫌なら俺に構わず今まで通り男に戻る方法を探せ」

「……協力してくれないのかよ」


まあ実際浪漫の入れ知恵でスウェインが靡いたことはないし、大して変わらないかもしれないけどさあ。


淋しいじゃないか、そんなの。


「心配しなくても、別に今すぐ付き合えとか言ってねえよ。でも……悪いな、俺の中でお前は女のままでいい」

「……」


こうまでハッキリ言われると……もう説得する気もしないな。後は、俺がそれを受け入れられるかどうかなんだけど、どうしたものか。




俺は……




「浪漫さん、いいものあるよ?」

「……何だ?」


「宝来さんのメアド」

「くれえぇぇええええ!」


餌で釣ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔術師攻略戦線。 もじ @moji_1998

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ