第7話
「暑いよお……」
梅雨真っ盛りの今日この頃、エアコンの無い教室内はサウナのような状態である。クラスメイトの多くがダウンしている中、俺は浪漫の教えに従い頑張って起きていた。
「ねえ、魔術で涼しくしてよ」
「ふん、この程度で我慢出来ないのか?我は何ともないぞ」
マジかよ……どんな神経してんだ?汗一つかかずに涼しい顔してやがる。この野郎自分だけ涼しくしてるんじゃねえだろうな……。
「では今日はここまで……次回はここの和訳ね。スティーブ役をスウェインくん、メアリー役は隣の伊古さんお願い」
暑さで怠くなったのかとっとと支度を済ませ英1担当は姿を消した。どうせ職員室がクーラー効いてるからだろう。にしてもあのハゲ俺が女になってることに何の違和感もない様子だったなあ……。どうでもいいけど。
「えっへん」
「……何だ?」
「何だはないよ。ぴこちゃん今の授業最後まで起きてたよ、えらい?」
凄くね?女子でも半数はギブアップしてる中で45分間戦い続けるとか……。これは褒めて然るべきでしょ?
「お前、それは威張れることではない。普通だ」
「がーん」
あんまりだ……こっちは死ぬ思いで耐え凌いだというのに。一気にテンションの下がった俺はそのまま机に突っ伏した。
「それより次の課題、我の足を引っ張ることだけは勘弁願いたいな」
「課題?」
ってまさか、あれに当たっちまったの?教科書の会話を暗記して発表した後、やたら細かい質問に英語で答えるという。マジかよ……最初見た時無理だろって思った。くそうスウェインが相手じゃなきゃ休むんだが……。
「ま、気負う程のことではないな。たかだか数行の内容を覚えるだけだ」
スウェインは簡単に言うが、それはお前が外人だからであって……英語の苦手な日本人には難しいんだよ。あーあ、マジどうしよ……ミスったらまたお小言だろうし。
ここは助けを求めよう。
「あのお、明日失敗しないように教えてもらってよかですか?」
「うーん……」
流石に隣の席同士共同戦線張らないといけない場面だろ?これは断る方が悪い。
「教えること自体は構わんけどな、正直何がわからないのか理解出来ない。日本人でない我では役に立てんだろう」
「うーん……」
今度は俺が悩む。確かにスウェインの感覚だとそうかもな、俺も日本語の覚え方なんて説明出来ん。
「まあお前には頼れる友がいる。我より力になってくれるであろう」
結論、また俺は浪漫に頼ることとなった。しかし……浪漫か。宿題は写さしてもらってはいるが教わったことはないかもねえ。
「おーいぴこ!」
「人をお茶みたいに言わない」
昼休みになった。
今日は移動教室帰りなのもありスウェインが見当たらない。
「そんなことより駄菓子食う?」
「駄菓子?いや、もらうけどさ……何故?」
仕方なく浪漫からふ菓子を一つ受け取る。出来ればちゃんとご飯が食べたいんだけど……。
「じいいぃ……」
「……浪漫さん?」
やたらこちらの反応を伺ってくる。変な奴だな、俺なんか見たってどうしようもないだろうに……。
「そっか……お前男時代から中性的な顔立ちだったなあ」
「はあ?何気持ち悪いこと言ってんの?」
言ってる意味がさっぱりだ。人にじろじろ見られながら食べるのはあまり気持ちのいいものではない。
「やっぱいらない」
俺は浪漫に駄菓子を突っ返して教室を出る。慌てて後を追ってきた。
「!?待てって!じょ、冗談だろ怒んなって!」
「今日は一人で学食行くっ!着いて来んな!」
浪漫を振り切り教室を出た。正直後味は悪いけど俺のせいじゃないし。
(あーあ、浪漫と揉めちゃったよ。課題のこと頼まないといけなかったのに……)
どうすっかなあ、マジで。というか今日中に和解しないと宿題写せないじゃん。自力でせにゃならんの?
無理だろ……。
スウェインは手伝ってくれない、宿題は写せなくなる、男に戻れる気配は無い。八方塞がりじゃねえか。
(厄日だ……)
意気消沈した状態の俺に、以外な人物が声をかけて来た。
「あっ、伊古さん。一人?」
「宝来さん……うん、一人だよ」
俺と同じく列に並ぶのを嫌ったのかパンと牛乳を抱えている。
「そうなんだ、意外……伊古さんいつも宝来くんと一緒なのに。あ、ちなみに私も一人なの。一緒に食べない?」
意外ねえ。それはこっちも同じだ、宝来さんは可愛いし……クラスでも人気者だと思ってる。そんな彼女が昼休みに学食で一人でいるなんて俺と浪漫が喧嘩するよりよっぽとレアだろう。
「いいけど、席空いてないね」
「平気平気」
宝来さんと二人してやって来た中庭、何とか空いているベンチを見つた。
「そうそう。映画、面白かった?」
こちらを伺い宝来さんは尋ねる。もちろん浪漫を無理やり引っ張って行くくらい観たかったので、語れるっちゃ語れるよ?30分くらい。
でも……今はそういう気分ではない。
「うん、まあ……それなり」
「そっか」
俯き加減になっているのが自分でもわかる。もちろん、緊張しているからではなく……浪漫のことが引っかかっていたからだ。
「嫌なら答えなくていいけど……宝来くんと、喧嘩でもした?」
「……喧嘩、なのかな」
厳密に言えば喧嘩ではない。
ただ俺が浪漫を避けただけだ。しかもその原因があいつの意味不明な行動で、俺がただそれを毛嫌いしただけという……。
実際、浪漫は何がしたかったんだろう?それさえわかれば……。
「ふふふ。でもいいな、二人は喧嘩出来る関係なんでしょ?」
「いいなって、何で?」
先程までとは違い、曇った表情に変わる宝来さん。そしてその訳を語り始めた。
「私ね、今クラスの女子にハブられてるんだ」
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