第6話

「「あ」」

「奇遇だな」


浪漫と二人映画館にやってきたのだが……そこで何故かスウェインと出くわしてしまう。気まずいねえ、非常に。向こうも女連れだし。


「えと、公営くんと伊古くん……さんの方がいいかな?」

「じゃあ、さんで……」


スウェインと一緒にいるのは同じクラスの宝来(ほうらい)彰子(あきこ)さん、どちらかといえばギャル系の多いうちの中では清楚系の可愛い子だ。


「……」


そして、浪漫が密かに憧れている子という……まさに最悪のシチュエーションである。全くスウェインもよりにもよって宝来さんとか、いい趣味してるじゃねえか。


「お前たちも『恋愛パティシエ』という映画を観にきたのか?」


しかも転校早々クラスでもトップ3位内確実の子捕まえて、話題の恋愛映画かよ。リア充めが!


「ははは、俺とぴこが観る映画とかあれに決まってるじゃん!」


そして浪漫は何故か手をぶんぶん振りながら『成森鋼鉄拳』を指差した。


「そうなんだ?私も少し興味あるんだ、今度感想聞かせてね?」

「も、もちろんっ!」


俺たちに手を振り、スウェインと宝来さんは去って行った。そして残された俺たちであるが……浪漫は何処かぼーっとしている。


「……浪漫さん?」

「聞いたかぴこ!?宝来さんが俺に感想聞かせてだってマジ参ったわ!」


……哀れ。


「いやあ、こんな馬鹿映画観たがってくれてありがと!」

「……まあお前が満足なら何も言わんけど」


なるほどこれがファン心理か、多少のおいたは許せるという……。しかし浪漫よ、あのビッチ連中を掻い潜り最初の休日にデートを取り付けるとか、宝来さんかなりの肉食だぜ?あまりお勧めはせんなあ。


「よーし、パンフレットも買ったし見所押さえるぜええ!」

「……ま、せいぜい頑張れ」


隣で必死にパンフレットにチェックを入れる浪漫を冷ややかな目で見つめた。

そして本編前のショートムービーを堪能したのち、謎の山奥で坊さんがやたら体を鍛えるお話が始まる……。




「あーみーだーぶー……」

「……見所なんてねーよ、ハゲが鉄の塊と殴り合うだけじゃねーか」


純粋に映画を楽しんだ俺の隣で頭を抱えている浪漫。もういい時間だな、帰るか……。


「なあぴこ!宝来さんまだいるかな!?晩飯誘おうぜ!」

「はあ?いやいや向こうは俺らと違ってデートだろ、無理だって」


あれだよ、お洒落なレストランとか行ってるよ。無駄な抵抗はやめて出直そう。


「くっそ!スウェインの野郎……おいぴこ!」

「な、何!?」


いきなり手を握られたので流石に焦る。そして浪漫はその手をぶんぶん振ってくる。


「お前マジ全力でスウェインを落とせ!そしたら俺が宝来さんと幸せになれるから!」

「……」


……マジ哀れ。




映画館を後にした俺たち、帰りの電車を待っていると思い出したように浪漫は一冊のノートを取り出した。


「何だそれ」

「ああ、例のやつだ。とりあえず短期間だけと周りからのぴこの評価を聞いてきた、スウェイン以外のもあるから面白いぞ」


評価?そんなの気にせにゃならんのか……それを受け取り、早速ページを捲った。


まずは……スウェイン

評価☆


「おい、この☆は何?」

「現状の好感度を5段階で書いてもらったんだ」


☆1つって、最低評価じゃねーか。まあわかってたけどな!何々……『女男以前に授業中常に寝ているのが悪印象、好き嫌い以前の問題』、だと?えっ?あいつそんなところ見てんのかよ……。


「わかったか?人は意外と見ているもんだ」

「授業中、寝ちゃ駄目なのか……」


次、不良1

評価☆☆☆


『まん◯見せてくれたのは良かったが、それ以外は特に。キャラは好き』……ははは、わかりやすい。


「わかるか?こうやって弱点を知り、そこを補正して好かれるのがギャルゲ式なんだ」

「そうなのねはいはい……」


みんなだいたい☆3か。まあ浪漫以外と特別親しいわけでもないし仕方ないわねえ。


は!?


☆5の奴がいる!誰だ、ぴこちゃんを好いてくれてるお人は。手作り弁当プレゼントだな、不味いが……




って、忍者?

『セッ◯スしたい』とか……これは危ない。出来るだけ近付かないようにしよう。


「……なあぴこ、お前晩飯どうすんの?」

「は?」


運良く座ることの出来た車内で、隣に座る浪漫が俺に尋ねた。一瞬何を聞かれているのかわからなかったけど、とりあえず素直に答える。


「どうするって……これから帰るんだし、うちで食べるっしょ?」

「まあそうだろうけど……少なくとも俺は帰りたくないわな。今日の一件で質問責め確実だし」


うう……それじゃあ俺が悪いみたいじゃないか。まあそうかもしれんが。


「というわけだ、付き合え」

「うーん……」


まあいいっちゃいいけど、それって火に油注いでない?


「……奢るぞ」

「行くっ!」


こうして俺は浪漫と夕食を共にすることとなった。一瞬『これってデートじゃね?』って思ったけど……まあ浪漫だし、俺の事情も目的も知ってるから問題ないでしょ。

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