空っぽ

さとうきいろ

空っぽ

わたしにも鍵穴があり空っぽの子宮をきれいな言葉で満たす


正確な時間にピルを嚥下してアラームごと消す並行世界


ふるさとの雪予報聞く幼体のわたしはそこでねむっていますか


孤独死をするならどこで終わろうか程よいサイズのラグがふわふわ


一篇の詩すら暗誦出来ずとも生きて深夜にコロッケ揚げる


ベランダでココアシガレット咥えたら夜の再生速度が変わる


恋情の枯れた身体をデリケートゾーン専用ソープで洗う


車窓 ビル ビル ビル 家 田 田 田 田 田 田 雪 日本海 白鳥 帰巣


処女のまま死ねばよかった地元では桜は四月下旬に咲くし


無くなったキッチンペーパー わかってる でもまあいいかを繰り返し今日


心まで繋げないこと知っている同士で繋ぐ手のあたたかさ


隣駅のスーパーやばいアウェイじゃん ケチャップHeinzしかないし


いつまでも佐藤さんって呼ばれたいってそんなにダメなことなの


「さとう」って言う時の「う」の唇のかたちが好きで さいとうも可


躊躇いもせずにユッケの黄身を割るあなた愛され育ってきたのね


機能性より可愛さで選ぶ家電 それをあなたは許してくれた


ふたる 意味:ふたりでいるといつの間にか両者ぷくぷく太ってくこと


ブックカバー外されないまま並べられ正体不明ばかりの一角


正しさに苦しむわたしに釣り糸が絡まりもがく白鳥になる


ポケットにスマホと文庫本を入れ家出する三十八歳二か月


ぽれぽれと重たい雪が降っているリモートワークのマウス重たい


シャカシャカとダウンジャケット響かせる自信があれば母になれたか


目を瞑りココアシガレット噛み砕くちょうどその時星座が消えた


適切な恋しかしてない友人をよそ目に黙々にんにくを擂る


ぴっかりと白い光で満たされて処女膜だって再生しそう


両腕の届く範囲をあたらしい単位にしよう「世界」とかどう?


幻視する 皺くちゃになってベランダで胡瓜を上手に育てるわたしを


羊水のデータベースに刻まれた家族ではない家族になろう


しすぎた日朝靄だった今だってあの日がわたしのFin.だと思う


この部屋で四季を一周過ごしても空っぽのままのガラスの花瓶

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空っぽ さとうきいろ @kiiro_iro_m

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