部屋から部屋へ

@satsuki-ogawa

レタスのサンドイッチ

家に帰ってきて、しばし一休みした。

この時期は酷く過ごしづらかった。重く蒸し暑い大気が梱包材のようにみっしりと敷き詰められ、吐いた息すら鼻の先で止まるようだった。そこで室内の、涼しくて軽やかで清潔な空気のことを考えてしまうと、僕はそのたびにどちらが人工的なものなのかわからなくなった。僕としては、後者のほうがより自然に感じてしまうのだ。

しかし、その日は用事があったので外出しなければならなかった。ただ大人しく出かけるのも嫌だったので、僕は家からレタスのサンドイッチを持っていった。手作りのそれは1日の殆どを冷蔵庫で過ごしていたため、心地よく、良い塩梅に冷えていた。僕はそれを行きがけのベンチに座って剥いた。世界に解き放たれたサンドイッチは、太陽のもとで自分がいかに美しく輝くか、知っているようだった。パンはしっとりと柔らかく、全体の密度を大きく高めていた。それでも必要な隙間には、レタスが強くしなやかな造形を持って新鮮な影を蓄えていた。ハムとチーズは、重なり合って二本の淡いパステルカラーのラインを引いていた。全てが必要な仕事をしていて、しかもそれ以上は何もしなかった。こんなに素敵なことはないと思った。そしてサンドイッチを食べ終え、僕はベンチから腰を上げた。

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