部屋から部屋へ
@satsuki-ogawa
レタスのサンドイッチ
家に帰ってきて、しばし一休みした。
この時期は酷く過ごしづらかった。重く蒸し暑い大気が梱包材のようにみっしりと敷き詰められ、吐いた息すら鼻の先で止まるようだった。そこで室内の、涼しくて軽やかで清潔な空気のことを考えてしまうと、僕はそのたびにどちらが人工的なものなのかわからなくなった。僕としては、後者のほうがより自然に感じてしまうのだ。
しかし、その日は用事があったので外出しなければならなかった。ただ大人しく出かけるのも嫌だったので、僕は家からレタスのサンドイッチを持っていった。手作りのそれは1日の殆どを冷蔵庫で過ごしていたため、心地よく、良い塩梅に冷えていた。僕はそれを行きがけのベンチに座って剥いた。世界に解き放たれたサンドイッチは、太陽のもとで自分がいかに美しく輝くか、知っているようだった。パンはしっとりと柔らかく、全体の密度を大きく高めていた。それでも必要な隙間には、レタスが強くしなやかな造形を持って新鮮な影を蓄えていた。ハムとチーズは、重なり合って二本の淡いパステルカラーのラインを引いていた。全てが必要な仕事をしていて、しかもそれ以上は何もしなかった。こんなに素敵なことはないと思った。そしてサンドイッチを食べ終え、僕はベンチから腰を上げた。
部屋から部屋へ @satsuki-ogawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。部屋から部屋への最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます