死にたがりのミランダ
宝月 蓮
子供時代編
破滅する義妹に転生
(オリヴィアお
ミランダは伯爵令嬢オリヴィア・ヴォルケと出会った時、そう決めた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
ミランダは平民だ。しかし、母は貴族の愛人である。
ミランダの父は、母の愛人である貴族だ。
「ミランダ、貴女は貴族の血を引いているのよ。その目、あの人と同じ色だわ」
ミランダは母からそう言われて育った。
ピンク色のふわふわとした髪は母親似、真紅の目は父親似だそうだ。
ミランダの顔立ちは可愛らしく気が強そうである。
近所でもミランダに見惚れる同い年くらいの男児達がかなりいた。
母が貴族の愛人であるお陰で、ミランダは貧乏とは無縁だった。
新鮮な食材、美味しい食事、美味しいお菓子、質の高い服。ミランダは近所の子供達が得ることが出来ないものを簡単に手に入れることが出来た。
そしてミランダが八歳の時、母の愛人である貴族――ヴォルケ伯爵に母と共に引き取られた。
ヴォルケ伯爵の妻が亡くなったからだそうだ。
ミランダは貴族になれることにワクワクしていた。きっと今まで以上に贅沢が出来て夢のような生活を送るのだと思ったのである。
母は後妻となり、ミランダは伯爵令嬢になった。
その時、ミランダはヴォルケ伯爵が前妻との間にもうけた娘、オリヴィアと顔を合わせる。
つい触りたくなるくらいに艶やかで絹のような銀色の長い髪、思わず魅入ってしまう紫の目、儚げで可憐な容姿。
オリヴィアの姿を見た瞬間、ミランダの脳内に大量の映像が流れ込んだ。
(これは……一体何……?)
この世界とは別の世界の映像。
それはミランダの前世だった。
ミランダは前世日本人だった。
母は産後うつにより精神を壊しており、父はそんな母の世話や全ての家事を前世のミランダに放り投げた。
母に何かあると父は「どうしてお母さんをちゃんと見ていないんだ!? お前のせいでお母さんはこうなったんだろうが!」、「お前さえ生まれて来なければ……!」と前世のミランダを怒鳴る。
父は母を愛しているらしいが、面倒ごとは全て前世のミランダに押し付けていた。
典型的な毒親だ。
前世のミランダが家事などで少しでも何かミスをしたり、やり忘れたりすると、父から「お前は価値のない出来損ないの人間だ!」、「出来損ないのお前を好きになる奴なんて誰もいない!」と執拗に罵られた。
毒親育ち、更にヤングケアラーだった前世のミランダは自由な少なかった。
だから友達もいない。
前世のミランダは一度だけこの状況がおかしいと思い、外部に助けを求めた。
しかし助けを求める声は父に握りつぶされてしまった。
それ以降、前世のミランダは助けを求めることを諦めてしまう。
父は世間体を気にするので、学費だけは出してくれていた。
しかし父は職場の同僚から大学の理系学部は一限から五限まで全部のコマが詰まっている日が多いと聞いたので、前世のミランダが理系学部に進学することは許してくれなかった。
母の世話を押し付けられないからだ。
前世のミランダの心の癒しは漫画、ライトノベル、アニメなどのコンテンツ。
少ない自由時間の中で、それらに夢中になっていた。
その中でも特に夢中になっていたのは、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵から溺愛される』というタイトルのライトノベル。
元々は小説投稿サイトに投稿された物語だった。それが人気が出て書籍化され、コミカライズ、アニメ化もされている。
もちろん前世のミランダはコミカライズ版とアニメにも夢中になっていた。
内容は、魔力がないからと父、
おまけに魔力がないと言われていたヒロインは、実は希少な光の魔力を持っていた。
この力で国やヒーローのピンチを救い、ハッピーエンドを迎える。そしてヒロインを虐げていた悪役達は見事に落ちぶれる。特に父、義母は脱税、違法薬物の取り引きなどの悪事にも手を染めていたので処刑だ。義妹は処刑は免れるものの、最終的には死んでいる。
いかにもテンプレ展開な作品である。
前世のミランダが大学生になったある日、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』のアニメトークイベントがあると発表された。
母の世話もあるが、そのイベントにはどうしても行きたかった。当然父から許可されることはないので、前世のミランダは誰にも言わずにこっそりとイベントに参加した。
しかしその帰りに悲劇が起こる。
母が処方された睡眠薬を過剰摂取して昏睡状態になったと連絡が入ったのだ。
イベントに参加していた前世のミランダはその連絡を受けることが出来なかった。よって連絡は父に行く。
前世のミランダがイベントに参加したことに対して父は激怒した。
今まで父から直接的な暴力だけは振るわれたことがなかった。しかしこの時は容赦なく殴られた。「お母さんじゃなくてお前が昏睡状態になれば良かったんだ!」、「もうお前は死んじまえ!」などという暴言と共に殴られ続けた。
おまけに父は『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』を始めとする、前世のミランダにとっての癒しだったライトノベル、漫画などを全て捨ててしまった。
新たに購入することも許されなくなったのだ。
生きる希望を全て捨てられた前世のミランダは、プツリと何かが切れた。
そして自宅マンションのベランダから飛び降り、自ら命を絶つのであった。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
「お初にお目にかかります。オリヴィア・ヴォルケと申します」
完璧なカーテシーをするオリヴィア。
(ああ、やっぱりヒロインだ……)
ミランダはオリヴィアに見惚れてしまう。
ミランダだけでなく、きっと誰もが見惚れてしまうだろう。
ミランダが前世で夢中になった『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』のヒロインの名前はオリヴィア。
今ミランダの目の前にいる人物だ。
ミランダは自分の立ち位置をすぐに理解する。
(私は……ヒロイン、オリヴィアを虐げて破滅する義妹……)
前世で悪役令嬢転生もののライトノベルも読んでいたことを思い出し、ミランダは内心苦笑した。
(私はオリヴィアが大好きだった。それならばやることは一つ)
ミランダは少しだけ口角を上げる。
(オリヴィアお義姉様を守って、私は悪人共と一緒に死のう)
当たり前のようにその発想に至ったミランダ。
(仮にオリヴィアお義姉様も転生者で、
転生しても、破滅を回避したり生きたいとは思わなかったのだ。
次の更新予定
死にたがりのミランダ 宝月 蓮 @ren-lotus
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