百の声を宿す妖と少女の、静かで優しい出会い
- ★★★ Excellent!!!
<「讙ノ巻:一目三尾、聲ヲ百ニ裂ク 壱:聲を喰む妖、いま目覚める」を読んでのレビューです>
蘅音コウインという少女が、西苑禁林という異界のような空間で「声を喰む妖」と出会い、封じられていた旋律を解き放つ。文章は詳細な描写と静謐な心理描写が織り込まれ、宮廷の日常から霧深い森の異界へと読者を自然に導く。妖の存在や百の声の描写は幻想的で、静かに、しかし確実に物語の緊張感と神秘性を高めている。場面転換も滑らかで、落下や霧の描写、妖の姿の描写などが視覚的・聴覚的に印象的に描かれ、世界観の深さを実感させる。
個人的に印象的だったのは、「……次の瞬間——風が、止まった。閉じていた金の瞳が、ゆっくりと開く。まるで夜空に、満月が昇るように。」の場面である。長く封じられていた旋律が解き放たれる瞬間を、風の静止と瞳の開きで表現しており、少女と妖、そして世界全体が呼吸を合わせたかのような感覚を生む。この一文だけで、静謐と感動、そして神秘性が一度に伝わる巧みさに驚かされる。
読む際には、妖と少女のやり取りや、声の描写に注意を向け、静かに漂う森や霧の雰囲気を味わいながら楽しむと、物語の幻想的な世界観や、封じられた旋律が放たれる瞬間の感動をより深く感じられるだろう。静謐な描写のなかに、優しい情感と神秘的な緊張感が同居する一編である。