遠くの山よ
星屑肇
遠くの山よ
静かな田舎の村に住むナオは、毎日山を見上げることが日課だった。村の外れに聳え立つその山は、遠くにあるけれど、彼女にとって特別な存在だ。朝日が昇ると、山はまるで生き物のように輝き、夕暮れには赤く染まったその姿が、ナオの心を穏やかにしてくれた。
「遠くの山よ、いつか私をその頂に連れて行ってくれ」と彼女はつぶやくことがあった。ナオには夢があった。山の頂に立って、周囲の景色を見渡し、心の中に抱く様々な思いを解放したいという願いだった。村の生活は穏やかで、周囲の人々との絆も深かったが、彼女の心には冒険の火が燃えていた。
ある日、ナオは幼い頃からの友人であるケンに誘われて、ついに山登りに挑戦する決意をした。二人は登山道の入り口で、重いリュックを背負い、期待にあふれた笑顔を交わしていた。しかし、心のどこかで不安も感じていた。果たして本当に登れるのだろうか? それでも、ナオは自分の夢に向かって一歩を踏み出すことを決心した。
登山は予想以上に厳しい道のりだった。険しい岩場や滑りやすい斜面は、二人の体力を試すものであり、時にはさまざまな障害物が立ちはだかった。それでも、ナオはその都度、遠くの山を思い浮かべ、心を奮い立たせた。「山の頂で待っている」と自分に言い聞かせながら。
やがて、彼らは数時間の登攀を経て、山のふもとから見上げていた景色とは全く異なる世界に足を踏み入れた。高山の花々や清らかな小川が広がり、静かな風が吹き抜けていた。ナオは心の中で感じていた冒険の喜びが、徐々に現実になりつつあることを確信した。
ついに、ナオとケンは山の頂にたどり着いた。その瞬間、風が心地よく彼女の髪を撫で、まるで山が彼女を歓迎しているかのように感じた。広がる景色は、言葉にできないほど美しく、眼下には村が小さく見え、その向こうには彼女の日常が広がっていた。ナオは高鳴る胸を抑えながら、手を広げて大声で叫んだ。「見て! 私たち、頂上に立った!」
彼女の叫びは山に響き渡った。達成感と喜びに満ちた瞬間、ナオは自分にとって何が本当に大切なのかが見えてきた。山は彼女に、多くのことを教えてくれた。勇気、友情、そして何よりも心の奥に眠っていた冒険心を引き出してくれたのだ。
遠くの山よ、ありがとう。ナオは心の中で感謝し、再び山を見つめた。彼女にとって、この日は新たな旅の始まりでもあった。挑戦することの大切さや、自分の可能性を信じることが、未来の力になっていくことを感じながら。
下山の途中、彼女は振り返り、山を見上げた。これからもずっと、彼女の心の中には遠くの山があり続けるだろう。そしてその山は、彼女に新しい挑戦を促し、未知の世界を広げていくに違いなかった。ナオは微笑みながら、日常の生活へと足を運ぶのだった。この冒険が、彼女をどのように成長させてくれるのか、楽しみでならなかった。
遠くの山よ 星屑肇 @syamyu
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