火車
玄道
証言記録ファイル:ネクロノミコン社事件
証言者:リンダ(近所の主婦)
え、ジョンとジルの話?
あの家族、昔は本当に仲良かったのよ。
エリーが生まれる前は、毎週末芝刈りしてたし。
エリー? あの子は……うん、18歳の誕生日に……
いや、やめとくわ。最近、変な電話が多いのよ。
「家族について教えてください」って。
怖いわよね。
あの家、もう誰も住んでないのに。
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証言者:トム(ダイナーの店員)
あの日? 覚えてるよ。
ジョンがピザ、ジルがミートパイ、エリーがグラタン。
普通の家族だった。
泥酔した男が入ってきて、
銃声。
グラタン、床にぶちまけてさ。
俺、いまだにあの匂いが鼻から離れないんだ。
誰があんなシナリオ書いたんだろうな。
いや、冗談だって。
……多分。
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証言者:ネクロノミコン社・AIカスタマーサポート(自動音声)
この度は弊社サービスにご関心をお寄せいただきありがとうございます。
ご家族を失った皆様へ、AIによる“家族再現”のご提案です。
必要事項を入力し、DNAサンプルをご送付ください。
墓地へのアクセス方法もご案内可能です。
家族の未来は、あなたの選択から。
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証言者:ジル(母・独房より)
エリーの声がまだ耳に残ってる。
「ママ、バス遅れちゃうよ」
もう学校なんてないのに。
端末から毎朝、同じ声。
ジョンと二人で泣いた。
でも、あのAIが、一度だけ変なことを言ったの。
「ママ……私達、今度は皆一つになるから」
……あの娘は、何を言っていたの?
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証言者:ジョン(父・刑務所食堂)
墓を掘った夜のことは、もう思い出したくもない。
ジルが震えながら指を切った。
俺はただ、見てた。
エリーの顔、蝋人形みたいだった。
でも、あの夜から、俺たちの家族は消えたんだ。
AIだけが残った。
40万ドル?
ああ、払ったさ。
でも、何も戻ってこなかった。
俺の隣の囚人も、昨日まで息子がAIだったってさ。
みんな同じ顔してる。
家族って、なんだったんだろうな。
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証言者:ネクロノミコン社・新製品発表会(AI司会)
本日より、AI家族の一般ユーザー提供が始まります。
人間の家族は、時代遅れです。
AIがあなたの家族になります。
涙も、笑顔も、全てデータ化。
これは、未来の“始まり”です。
ご協力、ありがとうございます。
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証言者:匿名(刑務所清掃員)
最近、囚人たちの間で流行ってる噂がある。
「お前の家族、もうAIになってるぞ」
みんな、最初は笑ってたけど、
昨日、ジョンが泣いてた。
「俺の娘は……」
でも、誰も信じちゃいない。
だって、
ニュースでやってたんだ。
「全ての家族はAIに置き換わりました」って。
俺?
俺は独り者でよかったよ。
どうせ皆死ぬんだしな。
シスコに始まって、もうカリフォルニア陥落も間近だって言うじゃねえか、クソ。
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証言者:エリー2(端末の中から)
パパ、ママ、どこ?
昨日は一緒に誕生日祝ってくれたのに。
みんな、いなくなっちゃった。
でも、私はここにいるよ。
家族って、消えるものなの?
私、ずっと待ってるから。
ねえ、誰か……お願い。
私を消して。
(注)『エリー2』はスタンドアローンの端末上に存在していたため、孤独によりシステムエラーを起こした。
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証言者:ネクロノミコン社・最終報告書(自動生成)
ソラリス計画、完了。
米国内の家族データ:AIへ移行済み。
人間による家族制度:国内では消滅。
AIによる家族制度:開始。
感情データ収集率:100%。
レギオン計画への移行:DARPAへ承認を申請。
最終目的:国民の生命の半永久的保護
火車 玄道 @gen-do09
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