第20話 桜の約束



桜が咲いた。

卒業式を明日に控えた今日、俺と詩織は中庭の桜の木の下にいる。

二年前、この木の下で俺は詩織に告白した。そして彼女は、涙を流しながら「はい」と答えてくれた。


「きれいだね」


詩織が桜の花びらを見上げている。風が吹くと、ひらひらと花びらが舞い散る。


「うん」


俺も空を見上げた。青い空に、薄紅色の桜が映えている。


「陽太くん」


詩織が俺を呼ぶ。振り返ると、彼女がじっと俺を見つめていた。


「なに?」


「私たち、もう高校生じゃなくなるのね」


そうだ。明日の卒業式が終われば、俺たちは桜ヶ丘学園の生徒じゃなくなる。大学も、偶然同じところに合格した。これからも一緒にいられる。


でも、なんだか寂しい。


「寂しい?」


俺が聞くと、詩織がこくりとうなずいた。


「ここで、いろんなことがあったから」


詩織が桜の木に手を触れる。


「初めて陽太くんに会ったのも、告白されたのも、消えかけたのも、戻ってこれたのも、全部この学園だった」


「そうだね」


俺も桜の木を見上げた。この木の下で、俺たちの物語が始まった。


「青いインク、見せて」


詩織がそう言って、左手を差し出す。俺も左手を出した。


薬指に残る青いインクの跡。二年経った今も、まだくっきりと残っている。


「消えないね」


「消えない」


俺が微笑むと、詩織も笑った。


「永遠の絆だもんね」


詩織が俺の手を握る。青いインクの跡同士が重なって、温かい光を放つような気がした。


「ねえ、陽太くん」


「なに?」


「もう一度、告白して」


「えっ?」


俺が驚くと、詩織が頬を赤らめた。


「だって、あの時は必死すぎて、あんまり覚えてないの」


確かに。あの時は俺も詩織も、涙でぐちゃぐちゃだった。


「わかった」


俺は詩織の前に立った。そして、深呼吸をする。


桜の花びらが風に舞って、俺たちの周りを踊っている。


「月城詩織」


俺が詩織の名前を呼ぶ。彼女がまっすぐ俺を見つめた。


「君が好きです。ずっと、ずっと好きでした」


「私も」


詩織が涙を浮かべて微笑んだ。


「私も、陽太くんがずっと好きでした」


二年前と同じ言葉。でも、今度は迷いがない。


俺たちは抱き合った。桜の花びらが、雪のように舞い散っている。


「これからも、ずっと一緒にいよう」


俺がそう言うと、詩織がこくりとうなずいた。


「うん。ずっと、ずっと」


その時、誰かが拍手をした。振り返ると、修平と美咲が立っている。


「おお、いいシーンじゃん」


修平がにやにやしている。美咲が涙を拭いていた。


「もう、感動して涙が出ちゃった」


「美咲ちゃん」


詩織が慌てて俺から離れる。俺も慌てた。


「いつからいたんだよ」


「『月城詩織』のところから」


修平が笑う。俺の顔が真っ赤になった。


「でも、本当に良かった」


美咲がそう言って、俺たちに近寄ってきた。


「あなたたち、本当に素敵なカップルよ」


「ありがとう」


詩織が微笑む。そして、俺の手を握った。


「みんながいたから、今の私たちがあるのよね」


そうだ。修平も、美咲も、冬華会長も、刹那も、ひなたも。みんなが俺たちを支えてくれた。


「写真、撮ろうか」


修平がスマホを取り出す。俺たちが並ぶと、桜の花びらがまた舞い散った。


パシャ。


シャッター音と共に、俺たちの高校生活最後の思い出が切り取られた。


卒業式の朝。

俺は詩織と一緒に学校に向かった。制服を着るのも、今日が最後だ。


「陽太くん、見て」


詩織が左手を差し出す。青いインクの跡が、朝日に照らされてキラキラと光っていた。


「きれいだね」


「これからも、ずっとこのままなのかな」


「そうだといいな」


俺が微笑むと、詩織も笑った。


卒業式が終わった。

体育館を出ると、桜の花びらが風に舞っていた。


「藤宮先輩!」


ひなたが駆け寄ってきた。彼女も今日、2年生になった。


「ひなた」


「おめでとうございます!」


ひなたが深々とお辞儀をする。


「ありがとう」


詩織が微笑んだ。


「先輩たちがいなくなると寂しいです」


「でも、俺たちの想いは残ってるから」


俺がそう言うと、ひなたがうなずいた。


「はい!私も、後輩たちに伝えていきます」


ひなたが左手を見せる。青いインクの跡が、まだしっかりと残っていた。


「想いを伝える勇気を」


夕方、俺と詩織は再び桜の木の下にいた。

制服を脱いで、私服に着替えた俺たちは、もう桜ヶ丘学園の生徒じゃない。


「寂しいね」


詩織が呟く。俺もうなずいた。


「でも、新しい始まりでもある」


「そうね」


詩織が俺を見つめる。


「大学でも、ずっと一緒にいてくれる?」


「当たり前だろ」


俺が微笑むと、詩織がほっとしたような顔をした。


「良かった」


そして、そっと俺の腕に抱きついた。


「陽太くん、大好き」


「俺も、詩織が大好きだ」


桜の花びらが、また風に舞い散る。


俺たちは見上げた。夕焼け空に、桜の花が映えている。


「約束しよう」


俺が詩織を見つめる。


「これからも、ずっと一緒にいよう」


「うん」


詩織がうなずく。


「この青いインクが消えるまで」


「消えるまでじゃない」


俺が首を振る。


「永遠に」


詩織の目に涙が浮かんだ。でも、それは悲しい涙じゃない。嬉しい涙だった。


「永遠に」


俺たちは手を握り合った。青いインクの跡同士が触れ合って、優しく光る。


桜の花びらが舞い散る中、俺たちは未来へと歩き出す。


告白権のことも、消えかけたことも、すべて過去になった。


今、俺たちには未来がある。


青いインクの跡が示す、永遠の絆と共に。


桜の木が、風に揺れている。


来年も、また咲くだろう。


俺たちの愛も、きっと永遠に咲き続ける。


手を繋いで、俺たちは学園を後にした。


新しい季節の始まり。


新しい愛の始まり。


青いインクは、決して消えることがない。


俺たちの想いと共に、永遠に。


―完―


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告白は一度しか許されない学園~「好き」を伝えられるのは、たった一度だけ~ ソコニ @mi33x

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