ねえ、先生わたしと

女子大生の暇つぶし

第1話

トントントン

 体育館のステージ台に上がり、マイクを手にした。

「こんにちは、愛児高校から来ました、瀬戸玲武といいます。数学教師で、三年2組の副担任になります。これから頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。」


 教頭先生が、先生に代わり、マイクを持つ。「これで新任の先生の発表を終わりたいと思いますー。では、われらの生徒会長のあいさつに参りましょうかねー!」

 と笑顔で言う教頭に学年主任が不安そうにつぶやく。

「教頭、雪が来れないそうです。」

「え、いないの?雪ちゃん?なにかあったの?」

「道に倒れてたおばあちゃんを助けてあげて、病院まで送るからって」

「それはそれは雪ちゃんらしい!!!!!!」

 そして、教頭は生徒に向かってこう言った。「みなさーーん、雪ちゃ、あ、われらの生徒会長はご老人を助けるため今日これなかったそうですー。だから生徒会長のあいさつは省きますがーね、雪生徒会長を見習って行動してくださいねーー。わが校の鏡ですからね!!あーはっはっは」

 校長はご機嫌よく言い、朝の始業式が終わった。


 瀬戸にとっては、とても憂鬱な始業式だった。一年を終えたら、すぐやめるような学校の始業式ほど無価値なものはない。瀬戸は父親からある事情で会社の事業を継げと言われていて、教師四年目を機にやめることを決意していた。そして、もう一つの無価値と思う原因があった。それは、この学校が県で一番頭の悪い公立高校だったからだ。全員髪を染めて柄悪い連中ばっかで瀬戸の人生では出会わないような輩ばっかりだった。なによりやっかいなのは、3年二組の担任が学年主任で忙しく瀬戸がほぼ担任として働かなければならないという現実だった。

 学年主任の佐藤につられて、教室までやってきた。

ざわざわざわ、女子生徒が好意の目で瀬戸を見ては、顔を赤らめる。はい静まれーと佐藤先生が叫んで、教室が静かになった。「いっぱい質問させるからよ、静かにせんか!はい静かになったな、じゃあな、瀬戸先生のな自己紹介しよう!はい、瀬戸先生おねがい。」

「はい、こんにちわ、瀬戸玲武です。玲武と書いて、れんといいます。よろしくお願いします。」とぶっきらぼうでな口調で答えた。途端に女子生徒たちが手を挙げて、質問をしてきた。

「先生は彼女いますか?」「先生の好きなタイプはー?」「昔モテてましたかーー」などいっぱいの声が聞こえてきた。佐藤が途端に「一人一つずつだぞ!何人も言うな!!うるさいぞ!」と叱り、そしてみんなに問いかける。「雪はまだ来てないのか?」と。

 一番後ろの席の女の子が答える。

「えっとね、愛てきにはね、あとちょっとで来るんじゃないかな」「愛の意見は聞いてないぞー」

佐藤がさっきの怒り顔からは想像できない笑顔ではなしていた。瀬戸は分かった。このクラスの女王様はこいつだなと。長い茶髪にカールパーマでタヌキ顔。そして、ぶりっこな話し方。瀬戸のすごく嫌いなタイプだった。今からくる雪というやつがこういう感じなのだろうと察していた。


すると、ガランとドアが開いた。そこには、この学校の生徒ではないような黒髪ボブにメイクもナチュラルで制服も気崩さず、凛としている女生徒がいた。時間が止まったように、目が離れなくなり、見つめ合っていた、女生徒がスマホを落とすまで。

女子生徒と瀬戸は同時にしゃがみ、携帯に触れた。女子生徒は微笑みかけた。瀬戸はその笑顔が作り笑いに感じ、手をどけた。そして、立ち上がり学年主任にこの生徒はと聞いた。すると、女子生徒が

「逆にですよ。右記先生この人誰ですかー」と聞いた。

「瀬戸玲武先生と言うんだよ、雪。あ、瀬戸先生。こちらが白川雪。この子が成績優秀な生徒会長ですよ!でもなー雪!さすがに始業式に遅刻はないだろー。

「右記先生、私人助けしたんですよ、そしたら遅れても問題ないですよ、しかもその方が先生達も嬉しいじゃないですか、」

雪はそう言って学年主任の手を取り微笑んでいた。学年主任も嬉しそうだった。

―なんだか気持ち悪いな。

その光景に瀬戸は感じていた。すると、愛や男子生徒が雪を呼ぶ。でも雪は、誰にも気づかれないように一番前の窓きわのメガネの男子に手を振ってることを瀬戸は気づいてた。雪は何事も無かったように、

「おい雪――!久しぶりじゃね」

「まじで遅れるとか面白すぎだろーーーハーーッハッハ」

「まじで会いたかったわーガチ雪とまた同クラでうれしー」

「それは、あいたちが成績が一番悪いからだよ!!でも雪ちゃんは先生にあいと一緒じゃないと無理ってお願いしたからだよ。あいのおかげー!ねえてか雪ちゃん遅いよー絶対あいと一緒に学校行った方が良かったじゃん!」

「始業式くらい静かに過ごさせてー」

雪だけ会話の温度が違うのかのように誰の返答もせず、微笑みながら教室の一番後ろの窓際で眠りについた。

―この女子生徒がこのクラスの一番ってことか

その会話の一部終始を見ていた瀬戸は、自分と同じ匂いだと感じた。

瀬戸は職員室に戻って、自分の席がないことに気づいた。右記は、その驚いてる瀬戸の顔を見ながら数学担当の遠藤に聞いてみろと言った。

「遠藤先生ですか?僕、瀬戸って言います。よろしくお願いします。」

「お、新任じゃないですか。僕は二年間、こっちで教諭しています。よろしくお願いします。驚きますよね案内しますね」

遠藤は見た目からメガネで冴えない感じでオドオドしていた。職員室を出て突き当たりの左の部屋に案内された。そこは、職員机がひとつに、生徒に勉強を教えるためのように、勉強机がひとつに椅子ふたつで、そこら中に、数学の本が置かれていた。

「ここが、新任の数学教師の部屋になります。今回は一つ席なんですけど、去年は私と新任の教師三人でした。」

「なんで私専用の部屋があるんですか。別に職員室でもいいんですけど、」

「ここで授業したら分かりますよ。この学校、県内で一番頭の悪い公立高校じゃないですか。数学教師で来る先生みんな頭いいんですよ。瀬戸先生はなぜかわからないですけど、こういう僕みたいな面接をたくさん失敗した数学教師がここに行き着くんですよ。で、色々生徒に殴られたりいじられたりして、やめてく数学教師が多いんです。そのために一人の時間も必要だからっていう理由で作られたそうです。それでも辞めてく人はいますけどね、でも去年は誰も辞めなかったので僕たちは職員室に移動しました」

と遠藤が苦笑いをしながら瀬戸に伝えた。瀬戸は、不思議そうに、

「でも、遠藤先生は二年間この部屋にいたんですよね。どうしてですか」

「あー、そうですね、一年目は耐えれず辞めようと思ってましたよ、でも校長が雪さんのクラスの担任にするから辞めないでくれって言われて、それで二年目もここにいましたね。」

遠藤は照れくさそうに瀬戸に伝えた。

─またも、ここでも白川雪がでてきた。

瀬戸はそれに疑問を感じた。

「校長先生も白川雪を褒めてましたが、どういう生徒なんですか?」

「雪さんは本当に素晴らしい生徒ですよ!雪さんが居なかったら私とっくにやめてますよ。」

遠藤は笑顔で話し続けた。

「雪さん以外のクラスで授業してもゴミを投げられたり、授業妨害されたり、うるさかったりで真面目に授業受けてるの二、三人もいなかったんです。でも、雪さんのクラスだけは違うんです。雪さんがうるさい人がいると注意したり、男子生徒と仲もいいんでちょっかいだそうとすると、止めてたりするんです。まあ授業は静かで、ほぼ眠ってるんですけど、僕はその一時間だけでも嬉しかったんです。」

「そうなんですね。ありがとうございます教えてくれて」

遠藤はその言葉を聞いて満足そうに帰って行った。

―雪さん雪さん雪さんって洗脳でもされたのか遠藤先生は、

瀬戸は白川雪を気持ち悪い生徒という対象とみなした。


そして、色々仕事を覚えることが多く忙しくして、一ヶ月経った。瀬戸の数学の授業は五、六時間目はないので自分の部屋で一日を終えることが多かった。ある日、仕事を終えた瀬戸は学校をフラフラしていた。瀬戸は保健室にたどり着き、ドアをトントンと叩いた。どうぞという声に反応しドアを開けた。そこには一人の養護教諭がいた。見た目は二十代。そして綺麗。この学校で白川雪以来の容姿に出会った。

「こんにちは、初めまして。瀬戸玲武っていいます。数学担当で、三年六組の副担任です。」

瀬戸は、余裕のある雰囲気でそう言った。

「初めまして瀬戸先生。私、安藤恵美って言います。ずっと会えていませんでしたね。」

瀬戸はドアを閉めて、椅子に腰かけた。

「今日は天気がいいですね」

「そうですね、春も終わりそうですし、だれも今日は保健室に来てないので、平和ですよ。」

「平和っていいですね、ところで安藤先生、すごくお綺麗ですけどいくつですか?」

「それ聞きます?笑 私は三十です。瀬戸先生より上なんですよ実は」

「三十ですか。てっきり年下かと思いましたよ。」

「やっぱ肌には気をつけてますからね。嬉しい限りです。」

瀬戸と安藤はたわいのない話をし続けた。話は盛り上がっていた。

「瀬戸先生って大学の先輩みたいな話し方よね。大学時代を思い出すわ。」

「何言ってるんですか。やめてくださいよ笑。」

「瀬戸先生みたいな落ち着いたクールタイプで、喋りとか距離感がチャラいところ、女子にすごくモテるじゃない。ずっとチヤホヤされてきたでしょ?何も考えてないような顔が女子は寄ってきちゃうんじゃないから?当たりでしょ。」」

「やっぱ年上の女性ってこういうタイプ見抜けますよね笑。大学では年上の先輩は危険な男認識されましたよ。あっちからくるくせにね。」

「やっぱ瀬戸先生はヤリチンかー」

瀬戸と安藤は笑いあった。

「安藤先生は彼氏いるんですか。」

「私はなんとね、結婚してます。なんなら医者と。私の美貌で落ちたから浮気もしないし、誰に口説かれても意味ないんだよね。」

「なんか、安藤先生の方がある意味ヤリチンじゃないですか、」

「いやいや、私は大学卒業してからって感じだよ、ってバカじゃないのー」

瀬戸は、久しぶりに人と対等に話した感じがした。友達は忙しくなかなか会えていなかったからだ。

「久しぶりに友達以外とちゃんと話しました。」

「やっぱ友達いないのね。でもさ、私一ヶ月後学校やめるんだー妊娠しててさ。」

と笑いながら言い続けた。

「4月に発覚してさー。六月までは続けてって言われちゃったんだよね。」

「で、主婦になって、人生謳歌すると」

「その通り!やっぱ瀬戸先生はそういう考えが頭いっぱいあるんだね。私がここにいるうちに色々教えてあげるよっか!ここの生徒のこと。」

「そんなに知ってないでしょ。ここに来て何年ですか。」

「これでも四年目よ。だから要注意人物は誰でも知ってあげる例えばー…」

「白川雪ですか」

「え、なんでわかったのよ」

と安藤はすごく驚いていた。

「やっぱ女の子のことなんでも知ってるからそういう観察力があるのね。すごいよ瀬戸先生。」

「僕は世でいうどうしたん話聞こか男ですよ。清潔な見た目のね笑」

「あなた裏ありまくりねでキモイわね笑。まあ、白川雪のやばさに気づいたのは褒めたたえたいわ。クラスで授業した時、なにか異変はなかった?」

瀬戸は首を横に振った。

「じゃあ今からじゃない本領発揮するの。雪のクラスってやけに静かでしょ。それは雪が最初の日の一時間目の授業でうるさい人に対して、先生あっちうるさいですとか、男子には好かれてるから、男子も静かにしてるのよ。でも、あの子は医大志望だから授業は聞いてないわよ。ただ静かに勉強したいだけなのよきっと。しかも、色んな先生、白川雪と里山愛だけ名前で呼んでるしょ他の生徒は名字なのに。それなんでかわかる?あの二人媚び売りながら、名前で呼んでくださいって言うの。なんでか分からないけど、その方が好かれるからじゃない。私は女子を昔から見てきたからわかるのよね。」

「じゃあイジメも半端ないと、」

「それはないわね、あの子たち、男の子とか先生には好かれたいだけで人をいじめることはないと思う。だって、あの二人。女子には興味無いもの。

「どういうことですか」

「あの二人他に友達いらない感じなのよ、共依存って感じでね。まあ気をつけて、明日から病院通いであんま私いないから頑張ってねー」

―白川雪、どういう生徒なんだ。

五時間目の終わりのチャイムが鳴り、瀬戸は保健室を出た。

五時間目の休み時間、瀬戸はクラスを見に行った。教室後ろのの窓際の席には、男子生徒と雪と愛がわちゃわちゃしていた。

「なあ雪、なんで昨日カラオケ来なかったんだよー。俺ら待ってたんだぞー」

「ねえ、あいはそこにいたじゃん!いっぱい歌ったんだよ健人より!」

「そうだぞー愛ちゃん健人より歌ってたぞー。だけどさ、雪こいよ」

「城島くん私昨日勉強するって言ったよね。ずるじゃないよー」

「夕、言われてやんのー!じゃあ一緒に勉強するか雪ちゃん!」

「ハー黙れ衛二。お前は愛と成績一緒だろ」

「ねえそれあいにも失礼なんだけどおぉーー!ねえ雪ちゃん言ってよー」

三年六組のクラスで一番輝いてるグループを見た瀬戸は昔を思い出した。雪のポジションは瀬戸で、自分のように感じた。すると、前の席で女子三人がはしゃいでいた。

「ねえ、相島ちゃん!私いっつも後ろの席で思うんだけどね、ビホブホっていう声うるさいなーって、」

「キャハハ!杏奈それ分かるーー遠くても声聞こえる聞こえる!しかもこの教科書臭いけど大丈夫そ?待って待ってこのページ男同士キスしてるきんもー」

「めっちゃ面白いじゃん!見ていいかな相島ちゃん!ってもう沙耶見てんじゃん!てか相島ちゃん、最近メイクしてるよね。体型もメイクしたら?」

三人はずっと笑っていて、相島さんはずっと下を向いていた。瀬戸はその光景を雪がずっと見ていることに気づいた。

「ねえ愛、トイレ行きたい。」

「ええー授業中に行った方が得だよ雪ちゃん」

「そうだよあと五分だぞ行くな行くな」

雪以外は自分たちに夢中で何も気づいてないようだった。

「顔可愛くして、池田先生にあった方が私のおかげでみんな得するよ、城島くん優しく池田先生にトイレで遅れるって伝えてよね。」

雪は微笑んで席を立った。相島さんの机ではまだそのいじりが続いていた。

「もうこの教科書さ捨てて良くない?!」

「ええ!!それめっちゃいいと思うキャハハ!」

沙耶がゴミ箱に投げると同時に、ゴミ箱前を通った雪の頭に当たった。痛っという声に教室は静まり返った。

「ええーーー!!雪ちゃん大丈夫?痛そう!」

「雪ちゃんごめん、、、そんなつもりなくてさ、ただ見てなくて、」

雪はその返事を遮り、相島さんの机の前に立った。

「相島莉乃だっけ。相島さんさ、その外見どうにかしたら」

まさかの発言に瀬戸だけでなく、教室中が驚いた。

「相島さんは、ぼっさぼさの髪ないし何も発言しないからこんなこと言われるんじゃない。で、メイク。そのぼっさぼさの髪に隠れてメイクしたって見えないし、しかも全然下手でメイクとは言えないし、体型がデカすぎ。あと、この頭悪い学校に来たからいじめられてるの、あなたが勉強しないから。顔&体型&頭が全部マイナスとかまじ終わり。でも一つでも+にしただけで結構変わるよ。相島さん可愛いし、教えてあげよっか」

と少し笑っていた。そして、三人組を見ながら、

「まじで、めんどくさいからトイレ行こうとしたのに。小野さんたちは何をやってもブスのままだよ。あと、私小野さんに名前で呼ばれるような仲じゃないんだけどやめてよね。」

そう言い捨てて、下に落ちている教科書を沙耶の足に投げた。

「雪ちゃんかっこいいよ!」

と愛が雪を抱きしめながら、教室を出ていった。瀬戸は愕然とした。雪という人物が理解出来なかった。瀬戸は高校時代、雪のように一軍の静かな男子的存在だったが、雪はそれに加えて、女子が嫌いというかめんどくさいものを嫌うのだろうと。教室では男子共がまじで俺は雪を愛してるだの好きだのくだらないことばっか言っていた。


そして、土曜日久しぶりに友達が家に来た。

「玲武久しぶり、元気してた?」

「おう、亮は元気にしてたのか?」

「公がよく残業するせいで、俺も手伝う羽目になってるよ。」

「はーー元々俺の学校に亮が来たからだろー」

亮と公は高校からの親友で、大学で女遊びばかりして留年し友達がいなくなった瀬戸の数少ない友達だった。

「どうだよあの噂のバカ高校は。」

「俺の頭が悪くなりそうだよ。簡単なことしか教えてないしさ、生徒もやばいし」

「俺はぜってー一年っていう期間でもいきたくねー」

「公、良くないぞその発言、一年の辛抱で玲武は次期社長!」

「社長という名だけで、ずっと遊ぶだけで仕事しない社長になるんだわ。兄貴が駆け落ちしたいせいで、代わりに何も出来ない俺が世間からいいように見えるためだけのポストだぞ。辛すぎるー。」

「よっ玲武!お酒でもいっぱい飲んでストレスぶちまかせ!まあ可愛いギャルいっぱいいんの?笑」

「全然可愛くないギャルが腐るほどいるよ、でもさ、一人だけ髪は黒で、メイクもナチュラルで、制服も着崩してない結構可愛い女子生徒がいるんだけど、なんかきもちわるいんだよな。」

「玲武騙されるな、絶対そいつ清楚系ビッチーーー!!」

「公、うるさいなーー。そいつの話いっぱい聞かせろよ笑。」

その日は、記憶が無くなるまで三人は飲み明かした。。


ある日、瀬戸はクラスで授業をしていた。

「ねえねえ見て、夕くん頭カクカクしながら寝てるよ!」

雪の隣の隣の席にいる愛は、雪の隣の夕を見ながら伝えた。

「そうだね、眠いのかもね城島くんかわいいね」

「てか雪ちゃん、あいトイレ行きたい」

「ダメだよ愛、新任の先生だよ。怒られたら厄介だしまだ私まだ喋ったことないよ。」

「いつもみたいに先生にボディータッチして呼んだらイチコロだよ!平気平気!!」

「私はトイレの気分じゃないし愛が行ってきな、あの先生がどっち側かわかんないし。」

愛はわかったと言って、瀬戸が板書しているところを狙った。愛は玲武先生と肩を叩き、上目遣いで瀬戸に、

「あい、トイレ行きたいんですけどいいですか?」

「里山だっけ、いつも色んな授業中トイレ行ってるよな。なんなら毎回白川雪と。」

「雪ちゃんは私が心配だから着いてきてくれるんですよ。お腹痛いんですぅ」

「無理だ、他の先生ならいいのかも知れんけど、俺の授業はダメだ。それに他の先生たちには毎回、ボディータッチして至近距離でお願いしてたんだなよくわかった」

「は、はーーー!何それ完全にセクハラ!セクハラ発言だ!まじでなんでみんなの前であいの嫌なこと言うの!先生失格なんですけどーねえ聞いてる?」

瀬戸と愛が教壇で口論する中、雪が立ちがった。

「先生、トイレに行きません。大丈夫です。愛、もっとめんどくなるから座ろ。先生も疲れてるんだよ。ね、先生?」

―どの先生にも誰にも怒られたことのない自分が場を収めるところが何もかも似ている。こいつも俺と一緒だ。

瀬戸は高校生の自分を思い出した。そして、瀬戸は雪の方へ向かい、机に手を置いて、雪だけに聞こえる声で言った。

「なんでも言う通りにならないよ、」

―多分こいつは愛というやつにも今の言葉は言わない

瀬戸は教壇に戻り、愛は怒りながら椅子に座った。寝ていた夕も起き上がった。

「な、何うるさいんだけどーーーー」

「夕くん聞いてよ、あのさー…」

「愛、後ででいいよ。トイレで話そ」

そういった雪は窓の外を見ていた。その背中はなんだか嬉しそうだった。

授業が終わると同時に愛は雪の手を引っ張りトイレへ向かった。

「あ、私メイクポーチ忘れた。まあいっか」

「そんなことよりまじで初めて先生に怒られた。初めて怒られたのが、新任とかマジで最悪!ちょーウザかった。瀬戸あいつまじでキモイ。」

「あの顔と声質からして、女子にめっちゃモテててきたんじゃない。自分が一番なのに生徒が邪魔するの嫌なんじゃない?」

「え、雪ちゃん。瀬戸の味方なのやめてよーー」

「違うよ、なんか面白いなって思っただけ。しかもかっこいいし」

「まじで雪ちゃんの感性意味不――――!まじでやめて欲しい学校!」

「変なこと考えてないで、落ち着いてよ愛。」

「えやばいいいこと思いついちゃった。ねえ、雪ちゃんゲームしない?瀬戸やめさせるゲーム!」

「何それ。面白そうじゃん。」

「雪ちゃんはかっこいいと思うんでしょ。雪ちゃんが色仕掛けで辞めさせればいいんだよ!愛が写真撮ればフィニッシュ!!」

「いいよ、賛成。受験の暇つぶしにやっちゃおっかなー」

二人は笑い合いながらトイレを後にした。

そして、次の日の朝、雪が職員室に行こうと教室を出た時、瀬戸とすれ違った。雪は笑顔で会釈をした。すると瀬戸が振り返り、

「ねえ、白川さん、」

雪はまさか話しかけられるとは思わず驚いたが、表情を隠し振り返った。

「玲武先生、なんですか?」

「白川さんって私立医大の推薦するんだよね?白川さんの実力だと一般で行けるのに、なんでか聞きたいんだけど」

雪は瀬戸のところに向かい肩に手を置きほくそ笑みながら耳に囁いた。

「推薦だったら先生に好かれるから行きやすいじゃないですか」

瀬戸はやっぱりとおもった。そして同時に瀬戸も囁いた。

「俺は副担任だから、不利にすることもできるんだよ」

瀬戸はニヤリと笑い、振り返らず教室へ入った。雪は、悔しがらず、怒りもせず、ただ嬉しさを噛み締めて、職員室へ向かった。


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